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初めての離婚調停|流れ・準備・当日の注意点を弁護士がやさしく解説

 初めて離婚調停に出席する方にとって、家庭裁判所は馴染みのない場所だと思います。裁判所から呼出状が届いただけで、不安になる方もいらっしゃるでしょう。

 私は、弁護士として数多くの離婚調停に関わるとともに、家庭裁判所の調停委員・家事調停官として、調停手続に携わってきました。

 その経験から感じるのは、離婚調停は、必ずしも法律的な主張が上手な人や、相手方の問題点を多く指摘した人が有利になる手続ではないということです。

 離婚調停は、裁判官が一方的に結論を決める手続ではなく、調停委員を介して双方の事情や希望を確認し、合意による解決を目指す手続です。

 そのため、自分が何を希望しているのか、なぜそのような希望を持っているのか、どのような条件であれば合意できるのかを整理しておくことが大切です。

 また、離婚調停では、親権や養育費、財産分与など、離婚後の生活に関わる重要な事項を取り決めます。目先の離婚成立だけを優先するのではなく、将来の生活も見据えて判断する必要があります。

 このページでは、離婚調停の具体的な流れや事前の準備、調停当日の注意点について、私自身の実務経験も踏まえながら説明します。

1 離婚調停の基礎知識・全体像

2 離婚調停の準備段階(申立て前後)

3 調停申立書の作成について

4 申立て後~第1回調停期日まで

5 調停期日に出席する際の実務ポイント

6 調停を申し立てられた方(相手方)のための情報

7 調停の進行・成立・不成立に関する注意点

8 特殊・注意を要するケース

 まずは、離婚調停がどのような性質の手続であり、どのような位置づけで行われるものなのかを確認していきましょう。

1 離婚調停の基礎知識・全体像

離婚調停とはどのような手続?

 離婚調停とは、夫婦間で離婚するかどうか、離婚するとした場合の条件について話し合いがまとまらないときに、家庭裁判所で話し合いを行う手続です。

 裁判所では、正式には「夫婦関係調整調停」と呼ばれています。離婚を求める場合だけでなく、夫婦関係の修復を目指す場合にも利用され、後者は「円満調停」と呼ばれています。

 調停を申し立てた人を「申立人」、申し立てられた人を「相手方」と呼びます。

 離婚調停では、通常、男女各1名の調停委員が夫婦双方から交互に話を聞き、離婚についての考え方や、親権、養育費、財産分与などの条件について、話し合いを進めていきます。

 離婚調停は、裁判官がどちらの言い分が正しいかを判断し、結論を命じる手続ではありません。 あくまで当事者双方の合意による解決を目指す手続です。

 もっとも、実際の離婚調停では、双方の主張が大きく対立し、話し合いが難航することも珍しくありません。調停委員は、双方の話を聞きながら争点を整理し、合意できる部分がないかを探っていきます。

 最終的に合意できなければ、離婚調停は不成立となり、離婚を求める側は、必要に応じて離婚訴訟を検討することになります。

離婚調停をするタイミング

 離婚を考えた場合、まずは夫婦間で話し合いを行い、離婚するかどうか、離婚するとすれば親権や養育費、財産分与などの条件をどうするかについて協議することが一般的です。

 しかし、相手方が離婚に応じない場合や、離婚には同意していても条件面で折り合いがつかない場合には、家庭裁判所への離婚調停の申立てを検討することになります。

 私が離婚事件を扱う中で感じるのは、当事者同士での話し合いに時間をかけすぎているケースが少なくないということです。

 例えば、相手方が話し合いに応じない、条件を提示しても返事がない、話し合いをするたびに感情的な対立になってしまうといった場合です。また、親権や財産分与などについて双方の考え方が大きく異なり、何度話し合っても同じところを行き来しているケースもあります。

 このような場合には、当事者同士で協議を続けても、容易に解決できるとは限りません。話し合いを長引かせることによって、かえって精神的な負担が大きくなることもあります。

 離婚調停では、調停委員が双方から交互に話を聞き、争いとなっている点を整理しながら、合意できる条件を探っていきます。相手方と直接顔を合わせて話し合う必要がないことも、調停を利用する利点の一つです。

 もっとも、調停を申し立てれば必ず離婚できるわけではありませんし、調停委員が相手方を説得して、こちらの希望する条件を認めさせてくれるわけでもありません。

 離婚調停も話し合いの手続ですから、双方が譲歩できず、合意に至らなければ不成立となります。

 それでも、当事者同士の協議では進展しなかった問題について、第三者が間に入ることで、解決の糸口が見つかることがあります。

 私は、離婚調停は、夫婦間での話し合いが完全に行き詰まるまで申し立ててはいけないものではないと考えています。

 相手方との協議を続けても解決の見通しが立たない場合には、無理に話し合いを重ねるのではなく、家庭裁判所の調停を利用することも検討してよいと思います。

 なお、暴力や強い威圧があるなど、相手方との直接の話し合いが難しい場合には、無理に離婚協議を行う必要はありません。

離婚調停の流れ

1 家庭裁判所への申立て

 離婚調停は、原則としていきなり離婚裁判を起こすことはできず、まず家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります(調停前置主義)。

 調停を始めるには、裁判所に対して「申立書」を提出します。 
 この申立ては、通常、相手方配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に行います(当事者の合意で別の裁判所とすることもできますが、実務では多くありません)。

 別居により相手が遠方に住んでいる場合には、調停への出席が負担になる可能性がある点も、あらかじめ考慮しておく必要があります。

 申立書の作成や提出は自分で行うことも可能ですが、弁護士に依頼すれば、この段階から対応してもらうことができます。

2 第1回調停期日の指定・呼出し

 申立てが受理されると、裁判所から双方に対して、第1回調停期日の通知(呼出状)が送付されます。

 あらかじめ都合の悪い日や曜日が分かっている場合には、申立書に記載しておくことで、一定の配慮がされるのが通常です。

3 調停委員会による進行

 離婚調停は、裁判官1名(または家事調停官)と、男女各1名の調停委員の計3名で構成される調停委員会によって進められます。

 実際の期日では、調停委員が中心となって話を聞き、調停委員は、必要に応じて裁判官と評議しながら進行されます。当事者が裁判官と直接話す場面は、成立・不成立の場面に限られるのが一般的です。

4 裁判所到着後の流れ

 調停期日は、双方が同じ日に呼び出されますが、時間をずらし、待合室も分けるなど、できる限り顔を合わせない配慮がされています。

 調停室では、申立人と相手方が交互に調停委員と話をする方式で進められ、原則として同席での話し合いは行われません。

 暴力のおそれや精神的負担が大きい場合には、別室対応など、さらに慎重な運用が取られることもあります。

5 各回の調停の進み方

 1回の調停期日は、概ね2時間程度で、30分前後を目安に交代しながら話をすることが多いです。
 相手の持ち時間が長く感じられることもありますが、これは調停委員が中立的に整理を行っている結果であり、不利に扱われているとは限りません。

 気になる場合には、調停委員に理由を尋ねることも可能です。

 なお、調停は非公開で行われ、録音・撮影は禁止されています。

6 調停の終了(成立・不成立)

 調停期日は、通常、1~2か月に1回程度のペースで重ねられます。

 合意が成立した場合には、その内容が調停調書にまとめられ、調停成立と同時に離婚の効力が生じます。
 調停調書は、判決と同じ効力を持ち、内容によっては強制執行も可能です。

 合意に至らない場合には、調停不成立として終了し、その後、離婚訴訟を提起するかどうかを検討することになります。

7 調停にかかる期間

 離婚調停の期間は、事案によって大きく異なります。
 1回で終了する場合もあれば、親権や面会交流が争点となるケースでは、1年以上かかることも珍しくありません。

 これが離婚調停のおおまかな流れです。
 では次に、この流れの中で、調停委員がどの段階で、どのような点を重視して見ているのかを確認していきましょう。

離婚調停では、いつ、何を説明すればよいのか

 離婚調停に臨むにあたり、何をどの段階で説明すればよいのか、悩まれる方もいらっしゃると思います。

 私は、家庭裁判所の調停委員や家事調停官としても調停に携わってきましたが、調停では、当事者の話を聞きながら、双方の考え方や対立している点を少しずつ整理していくことが一般的です。

 したがって、最初の調停期日ですべてを説明しなければならないわけではありませんし、初回にうまく話せなかったからといって、その後の調停が不利になるというものでもありません。

① 第1回調停期日までに準備しておきたいこと

 離婚調停を申し立てる際には、申立書とともに必要な書類を家庭裁判所に提出します。調停委員は、通常、これらの書類に目を通したうえで第1回期日に臨みます。

 もっとも、申立書だけで夫婦間の事情を十分に理解できるわけではありません。実際の調停では、当事者から直接話を聞き、申立書には書かれていない事情を確認することになります。

 事前の準備としては、離婚を希望する理由や、親権、養育費、財産分与などについて、どのような解決を希望しているのかを整理しておくとよいでしょう。

② 第1回調停期日では

 第1回期日では、離婚についての双方の考え方や、話し合う必要がある問題を確認することが中心となります。

 離婚を希望する理由や、これまでの夫婦関係について質問されることもありますが、必ずしも最初から細かな事情をすべて説明する必要はありません。

 また、調停委員からの質問に、その場ですぐに答えられないこともあると思います。記憶が曖昧なことについては、無理に答えず、次回までに確認すると伝えても差し支えありません。

 調停委員に良い印象を与えようとするよりも、ご自身の考えや希望を落ち着いて伝えることが大切だと思います。

③ 2回目以降の調停期日では

 調停が進むにつれて、話し合うべき問題が少しずつ具体的になっていきます。

 例えば、離婚自体には双方が同意しているものの、財産分与について意見が対立している場合には、預貯金や不動産などの資料を確認しながら協議を進めることになります。

 親権が争われている場合には、子どもの生活状況やこれまでの監護状況などについて、詳しい説明が必要になることもあります。

 調停の途中で新たな事情が明らかになったり、資料を確認した結果、当初の考え方が変わったりすることもあるでしょう。

 そのような場合には、なぜ考え方が変わったのかを説明すればよく、最初から最後まで同じ主張を続けなければならないわけではありません。

④ 合意に向けた話し合い

 調停が進み、双方の考え方や争点が整理されてくると、具体的な離婚条件について調整する段階に入ります。

 もっとも、すべての事件が同じ順序で進むわけではありません。最初から離婚条件の協議に入る事件もあれば、離婚するかどうかについて長く話し合う事件もあります。

 この段階では、相手方の提案を踏まえて、どこまで合意できるのかを検討することになります。

 ただし、調停を成立させるために、納得できない条件まで受け入れる必要はありません。特に、親権や養育費、財産分与などは、離婚後の生活に大きく関わる問題です。

 調停は、調停委員に自分を評価してもらう場ではないし、相手を論破する場でもありません。自分の都合や希望を相手に押し付けようとするのではなく、双方の事情を確認し、お互いに納得できる解決を目指して話し合う場です。

離婚調停の調停委員ってどんな人ですか?

 離婚調停では、依頼者の方から「調停委員というのは、普段はどのような仕事をしている人なのですか」と尋ねられることがあります。

 離婚調停では、通常、男女各1名の調停委員が担当します。調停委員は、弁護士などの法律専門家ばかりではありません。民間企業で勤務されていた方、元教員、元裁判所職員など、さまざまな経歴を持つ方が選任されています。

 調停委員は、原則として40歳以上70歳未満の方から任命され、社会生活上の豊富な経験や専門的な知識を持つことなどが求められています。実際には、定年退職後に調停委員を務めている方も少なくありません。

 また、調停委員は非常勤の裁判所職員です。毎日裁判所に出勤しているわけではなく、担当する事件の調停期日などに裁判所に出向いて職務を行っています。

 離婚調停では、調停委員が夫婦双方から交互に話を聞き、意見の対立している点を整理しながら、合意に向けた話し合いを進めます。必要に応じて裁判官との評議も行い、事件の進め方や解決の方向性について協議します。

 調停委員は、どちらか一方の当事者の代理人ではなく、中立的な立場で調停に関わります。また、法律上の判断を下す裁判官とは役割が異なり、調停委員自身が離婚条件を決定するわけではありません。

2 離婚調停の準備段階(申立て前後)

離婚調停を申し立てる前に準備しておきたいこと

 離婚調停を申し立てる場合には、申立書の作成だけでなく、離婚後の生活や離婚条件について、ある程度の準備をしておく必要があります。

1 申立先の家庭裁判所と必要書類

 離婚調停は、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。ただし、夫婦双方が合意すれば、別の家庭裁判所に申し立てることも可能です。

 調停は複数回に及ぶことが一般的ですので、遠方の家庭裁判所に申し立てる場合には、出席に伴う時間や費用の負担も考えておく必要があります。

 申立てには、申立書のほか、夫婦の戸籍謄本(戸籍事項証明書)などが必要です。年金分割を求める場合には「年金分割のための情報通知書」も準備します。また、養育費について話し合う場合には源泉徴収票などの収入資料、財産分与について話し合う場合には預貯金や不動産などの資料が必要になることがあります。

 裁判所によって提出する書類や書式が異なることがありますので、申立先の家庭裁判所の案内を確認してください。申立書の書式は、裁判所のホームページから入手できます。

2 離婚条件と別居の準備

 申立てに当たっては、親権、養育費、財産分与、年金分割などについて、どのような解決を希望するのか考えておくとよいでしょう。

 もっとも、最初からすべての条件を決めておく必要はありません。調停の中で相手方の考えを聞き、資料を確認しながら検討することもできます。

 まだ同居している場合には、別居の時期や住まいについても考える必要があります。特に小さなお子さんがいる場合には、別居後の生活環境や通園・通学、監護体制などを十分に検討しておきたいところです。

 また、離婚後の収入や住居費などについても、ある程度の見通しを立てておく必要があります。離婚が成立しても、その後の生活が成り立たなければ困ることになるからです。

3 別居中の婚姻費用について

 私が離婚調停を申し立てる方に確認していることの一つが、別居中の生活費を確保できているかという点です。

 夫婦には、別居中であっても婚姻費用を分担する義務があります。相手方から生活費が支払われていない場合には、離婚調停とは別に、婚姻費用分担請求調停を申し立てることを検討します。

 婚姻費用は、実務上、請求した時点を始期として認められることが多いため、請求が遅れると、その分の婚姻費用を受け取れなくなる可能性があります。

 離婚調停が成立するまでには、半年以上かかることも珍しくありません。その間の生活費をどのように確保するかは、特に収入の少ない配偶者や子どもを監護している方にとって、重要な問題です。

婚姻費用分担調停が離婚交渉に与える影響

 婚姻費用分担調停と離婚調停を併せて申し立てた場合には、同じ期日に並行して話し合いを進めることが多くあります。もっとも、婚姻費用について双方の収入に争いがある場合などには、婚姻費用の審理に時間を要することもあります。

 婚姻費用には配偶者自身の生活費も含まれるため、一般に、離婚後の養育費よりも高額になる傾向があります。

 このことは、離婚交渉にも影響する場合があります。

 例えば、離婚を希望している夫が、別居中の妻に婚姻費用を支払っている場合、離婚が成立すれば、原則として妻自身の生活費を負担する義務はなくなります。そのため、婚姻費用の支払いが続くことを考え、離婚条件について一定の譲歩をしてでも、早期の離婚成立を希望するケースがあります。

 一方、婚姻費用を受け取る側にとっては、離婚成立までの生活費が確保されることで、経済的な理由から不本意な離婚条件を受け入れずに済むという側面もあります。

 もちろん、すべての事件で婚姻費用が離婚交渉に影響するわけではありません。しかし、婚姻費用の問題は、別居中の生活を支えるだけでなく、離婚に向けた話し合いの進み方にも関係することがあります。

3 調停申立書の作成について

離婚調停申立書の作成|記載事項と注意点

 離婚調停の申立書には、家庭裁判所が用意している書式があります。離婚を求めるかどうか、親権者をどちらにするか、養育費や財産分与などを求めるかといった事項について、チェックを入れたり、簡単な記入をしたりする形式です。

 申立ての動機についても、「性格が合わない」「異性関係」「暴力」などの項目があらかじめ設けられており、該当するものを選択するようになっています。

 したがって、申立書自体の作成は、それほど難しいものではありません。

 私が申立書の作成についてお勧めしたいのは、まず裁判所所定の書式を利用することです。

 調停委員として事件に関わっていると、弁護士が作成した申立書であっても、裁判所の書式を使わず、訴状のように相手方の問題点や自分の主張を長々と記載したものを目にすることがあります。

 もちろん、申立てに至った事情を説明することは必要です。しかし、離婚調停は、申立書だけで事実関係を判断してもらう手続ではありません。詳しい事情については、調停期日で説明したり、必要に応じて別途書面を提出したりすることができます。

 もう一つ注意していただきたいのは、申立書は相手方にも送付されるという点です。

 相手方の言動に不満があったとしても、申立書に感情的な非難を書き連ねることは、あまりお勧めできません。申立書を読んだ相手方が強く反発し、調停が始まる前から感情的な対立が深まってしまうことも考えられるからです。

 離婚を求める理由や必要な事情は記載すべきですが、相手方を非難するための書面にする必要はありません。

 また、申立書を提出する前には、氏名や生年月日、日付などに誤りがないかも確認しておきたいところです。

 私が調停委員として関与した事件では、申立書に記載された関係者の生年月日が間違っていたことに相手方が強く反発し、その後の調停でも、しばらくこの問題が取り上げられたことがありました。些細に思える記載ミスであっても、相手方にとってはそうではない場合があります。

 なお、養育費や財産分与などについては、申立ての段階で具体的な金額が分からない場合もあります。そのようなときは、無理に金額を確定させず、調停が始まってから必要な資料を確認し、具体的な請求内容を検討することもできます。

 申立書とは別に提出する事情説明書や進行に関する照会回答書などは、通常、申立書のように相手方へ送付されるものではありません。ただし、相手方からの閲覧等の申請によって開示される可能性がありますので、記載内容には注意が必要です。

離婚調停申立書に住所を記載する際の注意点

 離婚調停の申立書には、申立人の住所を記載する欄があります。しかし、別居後の住所を相手方に知らせていない場合には、申立書に現在の住所をそのまま記載しないよう注意する必要があります。

 離婚調停の申立書は相手方にも送付されるため、記載した住所を相手方に知られることになるからです。

 特に、DVや相手方からの強い威圧があった場合などには、住所を知られることが安全上の問題につながることもあります。

 このような場合、実務上は、申立書に相手方が既に知っている従前の住所などを記載し、裁判所への連絡先については別途届け出る方法が取られることがあります。

 また、事情によっては、住所等について当事者間秘匿制度を利用したり、提出資料について非開示希望の申出を行ったりすることも検討します。

 住所の取扱いは、申立書だけの問題ではありません。例えば、収入資料や年金分割のための情報通知書などにも、現在の住所が記載されていることがあります。これらの資料を提出する際にも、相手方に住所を知られることがないよう注意が必要です。

 具体的な対応方法は事案や利用する制度によって異なりますので、住所を知られたくない事情がある場合には、申立書を提出する前に、弁護士や家庭裁判所に確認することをお勧めします。

離婚調停に弁護士を依頼するメリット

 離婚調停は、弁護士に依頼せず、ご自身で申し立てて出席することもできます。実際に、弁護士を付けずに離婚調停を進めている方も少なくありません。

 それでは、弁護士に依頼することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。

 私が大きなメリットだと考えているのは、離婚条件について法律的な見通しを持ちながら、調停を進められることです。

 例えば、財産分与について、相手方から提示された金額が妥当なのか、住宅ローンが残っている自宅をどのように扱うのか、退職金や保険が財産分与の対象になるのかといった問題があります。養育費についても、双方の収入だけでなく、私立学校の学費や大学進学費用などが問題になることがあります。

 調停委員から説明や提案がなされることもありますが、調停委員は中立的な立場で話し合いを進める役割を担っており、一方の当事者の利益を考えて助言する立場ではありません。依頼者の立場に立ち、法的な見通しを踏まえて助言することが弁護士の役割です。

 また、離婚調停では、相手方から予想していなかった主張が出されたり、調停委員から思 いがけない提案を受けたりすることもあります。弁護士が同席していれば、その場で内容を確認し、必要に応じて意見を述べたり、次回までに検討することを提案したりできます。

 私は、信頼できる弁護士が隣にいることで、安心して調停に臨めるという点も、弁護士に依頼する大きなメリットだと考えています。

 初めて家庭裁判所に出席する方にとって、調停は緊張するものだと思います。相手方の主張を聞いて動揺したり、調停委員からの質問にどう答えればよいか迷ったりすることもあるでしょう。

 そのようなとき、自分の事情を十分に理解している弁護士が隣にいて、一緒に話を聞き、必要に応じて説明や意見を述べてくれることは、心強いものではないでしょうか。調停の途中で疑問が生じた場合にも、その場で相談することができます。

 もちろん、弁護士の仕事は調停期日への同席だけではありません。申立書や主張書面の作成、必要な資料の収集、相手方の主張に対する反論なども行います。親権や財産分与など、争いが大きい事件では、期日と期日の間にどのような準備をするかも重要になります。

 特に注意が必要なのは、調停が成立する場面です。

 調停が成立すると、合意した内容は調停調書に記載され、原則として後から一方的に変更することはできません。養育費の支払期間や財産分与の方法、不動産の名義変更などについて、曖昧な取り決めをしてしまうと、離婚後に新たな紛争が生じることもあります。

 弁護士が代理人となっていれば、調停成立前に条項の内容を確認し、必要に応じて修正を求めることができます。

 もっとも、弁護士に依頼したからといって、必ず希望する条件で離婚できるわけではありません。争点が少なく、当事者間で解決の見通しが立っている場合には、ご自身で調停を進めることも十分可能です。

 一方、親権や養育費、財産分与などについて大きな争いがある場合や、相手方との対立が激しく、一人で調停に臨むことに不安を感じている場合には、弁護士に依頼するメリットは大きいと考えています。

4 申立て後~第1回調停期日まで

離婚調停の申立てから第1回期日までの流れ

 離婚調停の申立書が家庭裁判所で受理されると、事件番号が付けられ、担当する裁判官や調停委員が決められます。

 離婚調停の事件番号は、通常「令和〇年(家イ)第〇〇号」という形式です。裁判所に問い合わせる際には、この事件番号を伝えると、担当事件を確認してもらいやすくなります。

 調停事件は、裁判官または家事調停官が担当します。家事調停官は、弁護士の中から任命され、非常勤で家庭裁判所の調停事件を担当する職です。

 また、離婚調停では、通常、男女各1名の調停委員が選任されます。調停委員の経歴や役割については、前の項目で説明したとおりです。

第1回調停期日はどのように決まるのか

 裁判所では、担当する裁判官や調停委員の予定、調停室の空き状況などを踏まえて、第1回調停期日を指定します。

 弁護士が代理人として申し立てた場合には、裁判所から代理人弁護士に期日の候補について照会があり、日程を調整することが一般的です。

 そのため、仕事や家庭の事情で出席できない曜日などがある場合には、あらかじめ弁護士に伝えておくとよいでしょう。

 一方、ご自身で調停を申し立てる場合にも、申立書とともに提出する進行に関する照会回答書などに、出席が難しい曜日や事情を記載しておくことで、期日指定の際に配慮してもらえる場合があります。

 なお、第1回調停期日は、相手方の予定を事前に確認しないまま指定されることも多くあります。 そのため、相手方が仕事などの都合で出席できず、期日が変更される場合もあります。

第1回調停期日の呼び出し

 第1回調停期日が決まると、家庭裁判所から当事者に呼出状が送付されます。呼出状には、期日の日時や場所、事件番号、裁判所の連絡先などが記載されています。

 離婚調停の呼出状は、通常、普通郵便で送付されます。 離婚訴訟の訴状などは「特別送達」という方法で送達されますが、離婚調停では、原則としてそのような方法は取られません。

 なお、弁護士が代理人に就いている場合には、弁護士を通じて期日の連絡が行われることが一般的です。

 また、相手方に送付される呼出状には、離婚についての意向などを確認する照会書(回答書)が同封されることがあります。

 私自身、調停委員として事件に関わる中で、第1回期日の前に相手方の意向が分かっている方が、話し合いを進めやすいと感じることがあります。

 例えば、相手方が離婚自体を拒否しているのか、離婚には同意しているものの親権や財産分与などの条件で争いがあるのかによって、最初の期日で確認すべき事項も異なります。

 そのため、照会書が同封されていた場合には、内容を確認し、指定された期限までに回答しておくとよいでしょう。

第2回以降の調停期日について

 第2回以降の調停期日は、通常、調停期日の終了時に、双方の予定を確認しながら決められます。

 調停を担当する裁判官や調停委員の予定によって、期日が開かれる曜日がある程度決まっていることもあります。仕事などの都合で出席が難しい曜日がある場合には、早めに伝えておくとよいでしょう。

指定された調停期日に出席できなくなった場合の対応

 離婚調停の期日が指定されていても、ご自身やお子さんの急病、仕事の都合などで、出席できなくなることがあります。

 そのような場合には、出席できないことが分かった時点で、できるだけ早く家庭裁判所に連絡してください。呼出状に記載されている担当書記官に電話をして、事件番号と氏名、出席できない事情を伝えればよいでしょう。

 やむを得ない事情がある場合には、期日を変更してもらえることもあります。ただし、相手方の予定などもありますので、必ず変更してもらえるとは限りません。

 弁護士に依頼している場合には、まず代理人弁護士に連絡してください。

 私が代理人として離婚調停を担当している事件でも、依頼者が急病や仕事の都合などで出席できなくなることがあります。その場合には、私だけが調停期日に出席し、相手方の主張を確認したり、今後の進め方について協議したりすることもあります。

 もっとも、本人から直接事情を聞く必要がある場合など、弁護士だけでは十分に手続を進められないこともあります。その場合には、次回の期日に改めて話し合うことになります。

 なお、急病で欠席する場合でも、必ず診断書の提出が必要になるわけではありません。ただし、欠席が長期間に及ぶ場合や、何度も期日を変更する場合などには、事情を確認するため、診断書等の提出を求められることがあります。

 急な事情で調停に出席できなくなった場合には、できるだけ早く家庭裁判所に連絡してください。

 また、交通機関の遅延などで調停期日に遅刻しそうな場合にも、担当書記官に連絡しておくとよいでしょう。

 弁護士に依頼している場合には、まず代理人弁護士に連絡していただければ、裁判所との調整を行います。

相手が離婚調停に出席しない場合はどうなる?

 離婚調停を申し立てたものの、相手方が裁判所に出席しないことがあります。

 特に、第1回調停期日は、相手方の都合を十分に確認せずに指定されることもあるため、仕事などの事情で欠席することがあります。このような場合には、申立人から事情を聞いたうえで次回期日を指定したり、期日自体を変更したりすることになります。

 一方、相手方が離婚を拒否している場合などには、裁判所からの呼出しに応じず、調停期日に出席しないこともあります。

 このような場合、裁判所が相手方に連絡して出席を促したり、必要に応じて家庭裁判所調査官が関与したりすることがあります。

 しかし、離婚調停は双方の合意によって解決する手続ですから、相手方が出席しないまま、申立人の希望どおりに離婚を成立させることはできません。

 何度か期日を指定しても相手方が出席せず、話し合いを進める見込みがない場合には、調停は不成立として終了することになります。

 なお、正当な理由なく裁判所からの呼出しに応じない場合には、法律上、5万円以下の過料に処せられる可能性があります(家事事件手続法258条1項、51条3項)。もっとも、実際に過料が科されることは多くなく、過料の制度によって相手方を確実に出席させられるわけではありません。

調停が不成立となった場合

 相手方が出席しないため離婚調停が不成立となった場合でも、離婚を諦めなければならないわけではありません。

 離婚を求めるのであれば、次の手続として離婚訴訟を提起することが考えられます。

 離婚訴訟では、相手方が出廷しなくても、裁判所が提出された主張や証拠を検討して判断することができます。ただし、調停とは異なり、判決で離婚を認めてもらうためには、法律上の離婚原因が必要です。

 例えば、不貞行為や長期間の別居など、離婚原因を裏付ける事情がある場合には、調停を長引かせず、訴訟への移行を検討することがあります。

 一方、離婚原因が十分ではない場合には、訴訟を提起しても離婚が認められない可能性があります。そのため、別居期間や夫婦関係の状況などを踏まえ、今後の対応を検討することになります。

 相手方が調停に出席しない場合には、出席を促すために調停を続けるのか、不成立として離婚訴訟に進むのか、その見通しを考える必要があります。

5 調停期日に出席する際の実務ポイント

離婚調停に出席する際の持ち物

 離婚調停に出席する際には、裁判所から届いた呼出状のほか、これまでに提出した書面や相手方から提出された資料などを持参するとよいでしょう。調停中に、以前の書面の内容を確認することもあるためです。

 また、第1回調停期日では、本人確認のために身分証明書の提示を求められることが多いため、運転免許証などの身分証明書を忘れずに持参してください。

 調停委員から伝えられた相手方の主張や、次回までに準備することなどを記録できるよう、筆記用具とメモ帳も用意しておくことをお勧めします。

 調停期日の終了時には、次回期日の日程を調整することが一般的ですので、仕事や家庭の予定を確認できる手帳やスマートフォンも必要です。

 そのほか、養育費や財産分与などの金銭の支払いについて合意する可能性がある場合には、振込先となる預金口座の情報が分かるものを持参しておくと便利です。

 なお、裁判所から特に持参するよう指示された書類や資料がある場合には、忘れずに用意してください。

離婚調停に出席する際の服装

 離婚調停に出席する際の服装について、特別な決まりはありません。スーツを着用する必要はなく、普段着で出席しても差し支えありません。

 実際の離婚調停でも、スーツで出席する方ばかりではなく、普段着の方も多くいらっしゃいます。仕事の都合で職場から直接裁判所に来られる方もいます。

 離婚調停は、服装によって有利・不利が決まる手続ではありませんので、特別に服装を用意する必要はありません。

離婚調停への親・親族の同行について

 離婚調停に出席する際、親や兄弟姉妹などの親族に付き添ってもらいたいという方もいらっしゃいます。

 親族に裁判所まで同行してもらうこと自体は差し支えありませんが、調停室に入って一緒に話を聞いてもらうことは、原則として認められていません。

 離婚調停は非公開の手続であり、通常、調停委員は当事者本人や代理人弁護士から事情を聞きます。親族が同行した場合でも、調停室には入らず、待合室などで待機してもらうことになります。

 もっとも、本人の健康状態や障害などの事情によって付き添いが必要な場合には、個別の配慮が認められることもありますので、事前に裁判所に相談しておくとよいでしょう。

乳幼児の同行

 乳幼児を監護している方の中には、子どもを預けることができず、調停期日に一緒に連れて行きたいという方もいらっしゃいます。

 小さなお子さんを裁判所に連れて行くこと自体は差し支えありませんが、調停は1回の期日に2時間程度かかることもあり、その間、子どもの世話をしながら話し合いを進めるのは大変だと思います。

 そのため、可能であれば、調停期日の間は親族などにお子さんを預かってもらうことをお勧めします。

 もっとも、預け先が見つからない場合もあるでしょう。その場合には、事前に裁判所に相談しておくとよいと思います。裁判所によってはベビーベッドなどが用意されていることもありますが、託児サービスがあるわけではありません。

 また、親族に付き添ってもらい、調停中は待合室などで子どもの世話をしてもらう方法も考えられます。

離婚調停に臨む際に気をつけておくべきこと

 離婚調停では、夫婦関係が悪化した経緯や、これまでの生活でつらかったことなどについて、調停委員に話を聞いてもらう機会があります。

 相手方の言動によって苦労してきた方にとっては、その事情を十分に理解してもらいたいと思うのも当然でしょう。

 もっとも、離婚調停は、これまでの夫婦生活についてどちらが正しかったかを判断してもらう手続ではありません。離婚するかどうか、離婚するとすればどのような条件にするかについて、双方の合意を目指す手続です。

 そのため、夫婦関係が悪化した事情を説明することも必要ですが、親権や養育費、財産分与などについて、どのような解決を希望しているのかを考えておくことも必要です。

 私が離婚調停に臨む際の注意点として特にお伝えしたいのは、調停委員から提案された条件であっても、納得できなければ、その場で応じる必要はないということです。

 調停では、話し合いを進める中で、調停委員から具体的な解決案が示されることがあります。しかし、調停委員の提案が、必ずしも法律上認められる権利や利益を十分に反映しているとは限りません。

 特に、財産分与や養育費については、必要な資料がそろっていない段階で金額が提案されることもあります。そのような場合には、資料を確認したうえで、次回期日までに検討することもできます。

 また、離婚調停では、当初は離婚するかどうかについて争っていたものの、途中から具体的な離婚条件の協議に進むこともあります。話し合いが進展すること自体はよいことですが、調停を成立させるために、十分に検討していない条件まで受け入れる必要はありません。

 調停が成立すると、その内容は調停調書に記載されます。特に、親権、養育費、財産分与など、離婚後の生活に関わる事項については、合意する前に内容を十分確認する必要があります。

5 調停を申し立てられた方(相手方)のための情報

離婚調停を申し立てられた方へ(相手方となった方)

 ある日突然、家庭裁判所から離婚調停の呼出状が届くことがあります。夫婦関係が悪化していたとしても、実際に裁判所から書類が届くと、驚いたり、戸惑ったりする方は少なくないと思います。

 離婚調停では、申し立てた側を「申立人」、申し立てられた側を「相手方」と呼びますが、この呼び方に優劣はありません。また、申立書に記載された相手の言い分が、裁判所によって認められたということでもありません。

 離婚調停は、夫婦双方の話を聞き、離婚するかどうか、離婚するとすればどのような条件にするかを話し合う手続です。離婚したくないのであれば、その考えを伝えることができますし、離婚には応じるものの、親権や財産分与などの条件には納得できないという場合には、その点について話し合うことになります。

呼出状が届いたら

 まず、呼出状に記載されている調停期日の日時と場所を確認してください。第1回期日は、相手方の予定を十分に確認しないまま指定されることもあります。

 仕事などの都合で出席が難しい場合には、早めに担当書記官に連絡し、事情を説明してください。期日を変更してもらえる場合もあります。

 また、呼出状には、調停についての意向などを尋ねる照会書や回答書が同封されていることがあります。

 回答書には、離婚についての考えや、親権、養育費、財産分与などについての希望を記載する欄が設けられていることがあります。裁判所によって書式は異なりますが、記載した内容は調停の進行に当たって参考にされます。

 そのため、相手方の申立書を確認したうえで、ご自身の考えを記載することになります。事実関係に争いがある場合や、現時点では判断できない事項については、その旨を記載しても差し支えありません。

 なお、提出した書面が相手方に閲覧される可能性もありますので、住所など相手方に知られたくない情報や、記載内容の取扱いについて不安がある場合には、事前に確認しておく必要があります。

離婚を望んでいない場合

 離婚調停を申し立てられた方の中には、そもそも離婚を望んでいない方もいらっしゃいます。

 その場合、離婚に応じる必要があるのかと心配されるかもしれませんが、離婚調停を申し立てられたからといって、離婚に応じる義務が生じるわけではありません。

 離婚を望まない理由や、夫婦関係を修復したいという希望があるのであれば、その考えを調停で伝えることができます。

 もっとも、相手方の離婚意思が固く、話し合いによる解決が難しい場合には、調停が不成立となり、離婚訴訟に進む可能性もあります。そのため、現在の夫婦関係や別居の状況などを踏まえて、今後の見通しを検討することになります。

弁護士への相談について

 離婚調停を申し立てられた場合でも、ご自身で対応することは可能です。

 ただ、申立書に事実と異なる内容が記載されている場合や、親権、養育費、財産分与などについて大きな争いがある場合には、早い段階で弁護士に相談することをお勧めします。

 特に、相手方から財産分与や慰謝料について具体的な請求がなされている場合には、請求内容が法的に妥当なのかを確認する必要があります。

 当事務所も、離婚調停を申し立てられた方からのご相談をお受けしています。相手方の申立内容を確認し、離婚に応じるべきかどうか、どのような条件での解決が考えられるかについて、ご相談者の事情を踏まえて検討しています。

7 調停の進行・成立・不成立に関する注意点

DVや相手方からの威圧がある場合

 相手方から暴力や強い威圧を受けていた場合には、調停期日で相手方と顔を合わせることに不安を感じる方もいらっしゃいます。

 このような場合には、事前に家庭裁判所に事情を伝えておくことが重要です。裁判所では、待合室を分けるほか、出頭時間をずらしたり、庁舎内での移動に配慮したりするなど、事案に応じた対応が検討されます。

 また、現在の住所などを相手方に知られたくない場合には、申立書や提出資料の取扱いについても注意が必要です。住所等の秘匿制度や非開示希望の申出など、利用できる制度を確認しておく必要があります。

家庭裁判所調査官が関与することになった場合

 離婚調停では、親権や子どもの監護状況、親子交流(面会交流)などが争いになった場合に、家庭裁判所調査官が関与することがあります。

 家庭裁判所調査官とは、心理学、教育学、社会学などの専門的な知識を活用し、家庭裁判所で取り扱う事件の調査を行う裁判所職員です。

 家庭裁判所調査官は、採用試験に合格して家庭裁判所調査官補として採用された後、約2年間の専門的な養成研修を経て任命されます。法律的な問題だけでなく、子どもの心理や発達、家庭環境などについて専門的な知識を有しています。

どのような場合に調査官が関与するのか

 離婚調停を申し立てれば、必ず家庭裁判所調査官による調査が行われるわけではありません。

 例えば、夫婦双方が親権を希望し、どちらが子どもを監護するのが適切か争われている場合や、親子交流の実施方法について大きな対立がある場合などに、調査官が関与することがあります。

 親権について争いがある事件では、父母それぞれの主張を聞くだけでは、子どもの実際の生活状況を十分に把握できないことがあります。また、子ども自身がどのような気持ちで生活しているのかについても、確認が必要になる場合があります。

 そのようなときに、裁判官の命令によって、家庭裁判所調査官による調査が実施されます。

家庭裁判所調査官はどのような調査をするのか

 調査の内容は事件によって異なります。

 例えば、親権や監護者指定が争われている事件では、父母それぞれから、これまでの子どもの養育状況や現在の生活について詳しく話を聞くことがあります。

 子どもが生まれてから、主に誰が日常の世話をしてきたのか、現在はどのような生活を送っているのか、今後はどのような監護体制を予定しているのかといった事情です。

 必要に応じて家庭訪問が行われることもあります。調査官が実際に自宅を訪問し、子どもの生活環境を確認したり、監護している親や祖父母などから話を聞いたりすることがあります。

 また、子どもの年齢や発達状況などを踏まえて、調査官が子ども本人と面接する場合もあります。

 子どもとの面接は、単に父親と母親のどちらと暮らしたいかを質問して、その答えだけで親権を決めるためのものではありません。

 子どもが現在の生活をどのように感じているのか、父母との関係をどのように受け止めているのかなどを、年齢や発達の程度に応じて把握することが目的となります。

親子交流についての調査

 親子交流が争われている場合には、調査の内容も異なります。

 例えば、子どもが別居親との交流を拒んでいる場合、その理由がどのようなところにあるのか、子どもが現在どのような気持ちでいるのかを調べることがあります。

 また、交流を実施することによる子どもへの負担や、父母それぞれが希望する交流の方法について、調査が行われることもあります。

 事件によっては、家庭裁判所内で試行的に親子交流を実施し、その際の子どもの様子や親子の関わり方を調査官が確認することもあります。

 もっとも、すべての事件で子どもとの面接や試行的な親子交流が行われるわけではありません。調査の必要性や方法は、個々の事件の事情に応じて判断されます。

調査結果はどのように扱われるのか

 家庭裁判所調査官は、調査を終えると、その結果を調査報告書にまとめ、裁判官に報告します。

 調査報告書には、調査によって把握した事実関係だけでなく、子どもの状況についての専門的な分析や、今後の監護、親子交流などに関する意見が記載されることもあります。

 私自身、親権や監護者指定、親子交流の事件を扱う中で、調査官の意見が、その後の調停の進行や解決の方向性に大きく影響する場面を経験してきました。

 もっとも、調査官の意見によって結論が自動的に決まるわけではありません。調停では調査結果も踏まえて話し合いが続けられ、審判や訴訟になった場合には、裁判官がほかの資料や事情も考慮して判断することになります。

 調査官の調査結果について、当事者の認識と異なる部分がある場合には、必要に応じて資料を提出したり、具体的な事情を説明したりすることもあります。

離婚調停を成立させる際の注意点

 調停期日を重ね、当事者双方の合意が整うと、離婚調停は「成立」という最終段階に入ります。この段階では、最後の確認を怠らないことが極めて重要です。

① 調停成立までの流れと確認ポイント

 合意に至ると、それまで同席していなかった書記官が入室し、裁判官が調停条項を読み上げます。

  • 原則として、裁判官が合意内容を口頭で確認
  • 内容について その場で了承の意思表示 を求められる
  • 署名・押印は不要

 調停委員から事前説明がある場合もありますが、必ず裁判官の読み上げ内容を自分の耳で注意深く確認してください。

この段階でも、

  • 内容に疑問がある
  • 納得できない条件がある

場合は、質問や異議を述べることが可能です。
 微妙に言い回しの修正等が行われている場合があります。最後まで気を抜かず、自分が合意する内容かを確認しましょう。

② 調停成立と離婚の効力発生時期
  • 協議離婚:離婚届が受理された時点で離婚成立
  • ​調停離婚:調停成立・調書作成時点で離婚成立

 調停離婚では、裁判所から役所に連絡はされません。
 離婚届の提出は必須です。

③ 離婚届を提出できる人に注意

 調停調書には、通常、
「申立人と相手方は、本日、調停離婚する。」
と記載されます。

 この場合、原則として申立人のみが離婚届を提出可能となります。

 もっとも、実務上は、婚姻時に氏を変更した側(多くは妻)が離婚届を提出できるようにした方が手続が円滑という理由から、夫が申立人、婚姻の際に氏を変更した妻が相手方の場合
「本日、相手方の申し出により調停離婚する」
という表現が用いられることが一般的です。 
 これは離婚届を提出できるようにするための便宜的な表現にすぎず、心理的に気にする必要はありません。

④ 氏(姓)と戸籍の選択に関する注意

 婚姻により氏を変更した場合、
原則:離婚により婚姻前の氏に戻る
例外:3か月以内の届出により婚姻時の氏を継続可能

 離婚届と同時に氏の継続届出を行わないと、

  • 一度元の氏の戸籍が作られ
  • 後から再度戸籍を作成する

という手続上の煩雑さが生じます。

⑤ 離婚届の提出期限と必要書類

提出期限:調停成立から10日以内
​提出先:市区町村役場

 なお、本籍地以外で提出する場合、以前は戸籍謄本が必要でしたが、現在は、本籍地以外で提出しても、戸籍謄本の添付は原則不要です。
 心配であれば、提出を予定している役所に事前に確認しておくとよいでしょう。

まとめ(成立時の最重要ポイント)
  • 調停条項は必ず自分で確認する
  • 納得できなければ裁判官が読み上げる際でも訂正の申出は可能
  • 離婚届は忘れず、期限内に提出
  • 氏・戸籍の選択は事前に整理・確認

離婚調停が不成立になった後の対応

 離婚調停は、当事者双方の合意が成立しなければ成立しません。
 そのため、話し合いがまとまらず、「調停不成立(不調・打ち切り)」として終了することもあります。
 調停が不成立になったからといって、それで全てが終わるわけではありません。ここからが、次の判断段階になります。

「調停不成立」とはどういう状態か

 調停不成立とは、調停委員会が、これ以上、話し合いを続けても合意に至る見込みがないと判断した場合に、調停を終了させることをいいます。
 不成立は、「どちらかが悪かった」という評価ではなく、合意条件が整わなかったという事実にすぎません。

 調停が不成立となった後、考えられる対応は大きく分けて次の3つです。

1 離婚訴訟を提起する

 離婚を強く希望し、かつ、

  • 法定離婚原因がある
  • 又は、長期の別居などにより離婚が認められる見込みがある

場合には、離婚訴訟を提起するという選択肢があります。

 調停前置主義との関係でも、調停不成立となっていれば、原則としてそのまま訴訟に進むことが可能です。
 裁判は話し合いの場ではないため、相手方が出廷しなくても、裁判所は主張と証拠に基づいて判断を行います。

2 一定期間を置いて、再度協議・調停を検討する

 現時点では、

  • 離婚原因が弱い
  • 条件面の隔たりが大きい
  • 感情的対立が激しい

といった場合には、すぐに訴訟に進むことが最善でないケースもあります。

 このような場合には、

  • 一定期間の別居を継続する
  • 冷却期間を置いた上で再度協議する
  • 状況が変化した段階で、改めて調停を申し立てる

といった対応も現実的な選択肢です。

3 訴訟を視野に入れつつ、和解の可能性を探る

 離婚訴訟を提起した場合でも、必ず判決まで進むとは限りません。

 実務上は、訴訟の途中で条件が整理され、双方の認識がすり合い和解によって離婚が成立するケースも少なくありません。

 調停が不成立でも、「話し合いの余地が完全になくなった」という意味ではないことも多いのです。

不成立後にすぐやるべきこと

 調停が終了した後は、次の点を整理しておくことが重要です。

  • なぜ調停が不成立になったのか
  • 争点は何だったのか(親権・金銭・感情面など)
  • 今後、裁判で争える材料は何か
  • 時間を味方につけるべきか、早期に動くべきか

 調停委員から示された指摘や課題は、その後の対応を考えるうえで非常に重要なヒントになります。

調停委員の視点から

 調停委員は、不成立となった場合でも、

  • 当事者がどこで折り合えなかったのか
  • どの点が現時点では調整困難だったのか

を、ある程度整理したうえで終了しています。

 その整理は、次の手続(訴訟や再調停)で必ず生きてきます。
 
不成立という結果だけを見て落胆する必要はありません。

まとめ

 調停が不成立になった場合に大切なのは、

  • すぐに次の手続に進むのか
  • 一度立ち止まるのか
  • どの条件がネックになっていたのか

を冷静に見極めることです。

 調停はゴールではなく、離婚問題を整理するための通過点の一つです。

離婚訴訟に進むべきかの判断基準

 離婚調停が不成立になったあと、多くの方が次のように悩まれます。
「このまま裁判に進んだ方がいいのか」
「まだ話し合いの余地があるのではないか」
「裁判をしても本当に離婚できるのか」

 離婚裁判は、時間・費用・精神的負担が大きい手続です。
 そのため、安易に進むべきものではありませんが、一方で、進むべき段階というものも確かに存在します。

 以下では、実務と裁判所の視点を踏まえた「離婚裁判に進むかどうかの判断基準」を整理します。

判断基準① 法定離婚原因があるか

 調停不成立とは、調停委員会が、これ以上、話し合いを続けても合意に至る見込みがないと判断した場合に、調停を終了させることをいいます。
 不成立は、「どちらかが悪かった」という評価ではなく、合意条件が整わなかったという事実にすぎません。

 調停が不成立となった後、考えられる対応は大きく分けて次の3つです。

判断基準② 別居期間が十分に経過しているか

 実務上、長期別居は非常に大きな要素です。

  • 数か月程度の別居
    → 原則として離婚は認められにくい

  • 数年以上の別居
    → 婚姻破綻が認められる可能性が高まる

 調停委員会でも、「現時点では時期尚早」と評価される事案は少なくありません。
 調停不成立後すぐの訴訟が必ずしも最善とは限らないケースもあります。

判断基準③ 相手方が一切妥協しない姿勢か
  • 離婚自体を全面的に拒否
  • 条件面での修正提案に一切応じない
  • 調停に形式的に出席しているだけ

 このような場合、協議や再調停による解決は期待しにくいのが実情です。

 話し合いによる解決が困難であれば、裁判という判断の場に委ねることは合理的選択となります。

判断基準④ 裁判に進む覚悟と体力があるか

離婚裁判は、

  • 1年以上かかることも珍しくない
  • 主張書面・証拠提出が継続的に必要
  • 精神的ストレスが蓄積しやすい

という特徴があります。

そのため、

  • 生活基盤がある程度安定しているか
  • 子の生活への影響を整理できているか
  • 弁護士と二人三脚で進められるか

 といった現実面の確認も不可欠です。

判断基準⑤ 「今、争う意味がある争点か」

 裁判では、

  • 親権
  • 養育費
  • 財産分与
  • 慰謝料

といった争点が正式に判断されます。

しかし、

  • 実益が乏しい争点
  • 証拠がなく長期化するだけの争点

を抱えたまま訴訟に進むと、「勝っても疲弊する結果」になりかねません。何を裁判で決めたいのかを一度整理してから提起することが重要です。

調停委員の視点から

 調停委員は、
「今は訴訟向きではない」
「裁判所の判断に委ねた方がよい」
 という感触を、調停の進行を通じてある程度見ています。

 調停不成立時のコメントや進行状況は、裁判に進むかどうかの判断材料として非常に重要です。

まとめ|裁判に進むべき典型パターン

 次のような場合は、離婚裁判への移行を前向きに検討すべきです。

  • 明確な離婚原因があり、証拠も揃っている
  • 長期間の別居が継続している
  • 調停でも相手が一切歩み寄らなかった
  • 話し合いでの解決は現実的でない

逆に、

  • 別居期間が短い
    感情的対立が中心
    時間を置くことで状況改善の余地がある

 場合には、一度立ち止まる判断も十分に合理的です。

離婚調停の取下げについて

 離婚調停を申し立てた後でも、申立人は、原則としていつでも調停を取り下げることができます。
 
調停の取下げにあたり、具体的な理由を述べる必要はありません。相手方の同意も不要です。
 裁判所に取下書を提出すれば、手続は終了します。

調停を取り下げる主なケース

 実務上、調停が取り下げられる事情としては、次のようなものが考えられます。

  • 離婚の意思がなくなった
  • 当事者間で協議離婚が成立した
  • 相手方が調停に出席せず、話し合いが進まない
  • 一旦、調停をやめて態勢を整え直したい

 いずれも、特別な事情を説明しなければならないわけではありません。

取下げと「調停前置主義」との関係

 離婚訴訟を提起するためには、原則として、先に調停を経ていることが必要です(いわゆる「調停前置主義」)。

 調停を取り下げた場合でも、その調停が「実質的に行われていた」と評価されれば、調停前置要件を満たしていると扱われる可能性があります。

調停前置と評価されやすいケース
  • 調停期日が実際に開かれた
  • ​当事者双方が出席し、実質的な話し合いが行われた

 このような場合には、その後、調停を取り下げたとしても、調停前置があったものと評価される可能性が高いといえます。

8 特殊・注意を要するケース

DV被害の方が離婚調停を起こしたいとき

 当事者の一方が、DV被害を受けたと主張している離婚調停は、家庭裁判所も、当事者が裁判所庁内で対面するなどのトラブルが生じないよう、呼出時間や退庁時間をずらしたり(待ち伏せされないよう、先に被害者に退庁して頂く)、調停室の階を分けたりして、特別の対応をしています(通常のケースは待合室を分け、呼び出し時刻を多少ずらすのみ)。

 したがって、DV被害者で、裁判所で万一加害配偶者と出会ったらどうしようなどという恐怖感がある場合には、裁判所に対し、その旨を事前に伝え、相談するようにしましょう。

 裁判所も出来る限りの対応はしてくれるのではないかと思います。

 もし可能であれば、DV被害者の方については、裁判所にもきちんと説明し、調停期日に安心して臨むため、弁護士に依頼されることをお勧めします。

離婚調停の管轄について(自庁処理)

 離婚調停の管轄裁判所は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所とされています。
 通常はなかなか相手と裁判所の合意は出来ませんから、通常は相手方の住所地を管轄する裁判所に赴かなければなりません。

 最近は、弁護士が代理人に就いている場合は、電話での調停が実施されることもあります。WEBによる調停も始まっています。

 相手方の住所地の家庭裁判所に赴くことが困難な場合や申立人の住所地の家庭裁判所で調停を行うことが適切といえるような場合には、自庁処理の上申書を添付して相手方の住所地を管轄する裁判所とは異なる裁判所(多くは申立人の住所地を管轄する家庭裁判所でしょう)に調停申立を行う場合があります。

 上申書を添付して申立てを行っても必ず認められる訳ではありませんが、認められなくても原則通りの管轄権のある裁判所に移送されるだけですので、特別な事情があるような場合はチャレンジしてみても良いと考えます。
 もっとも、自庁処理の上申書は単に希望を述べるだけでなく、その理由を説得的に記載する必要がありますので、弁護士によく相談しましょう。

 相手方の住所地(例えば大阪家裁)で調停が始まった後(例えば婚姻費用分担調停)、相手方が申立人(例えば神戸に居住)に対して離婚調停を申し立てる場合、相手方は神戸家裁に申し立てる必要があるのでしょうか。

 この場合、類似の調停事件を別々の裁判所で行うのは不経済であり負担も大きいことから、離婚調停は大阪家裁に関連事件として申し立て、裁判所は、後から申し立てられた離婚事件の相手方の意向を確認し(通常は同じ裁判所で行ってもらいたいことから承諾する)、大阪家裁で自庁処理により両事件が同時に行われることが一般的です。
 但し、最終的な判断は裁判所の判断となることは留意が必要です。

離婚調停で提出する資料と非開示の注意点

 離婚調停では、話し合いを進める前提として、さまざまな資料の提出を求められることがあります。
 典型的なものとしては、源泉徴収票・給与明細書、不動産の登記事項証明書、預貯金通帳の写し、診断書などが挙げられます。

 調停では原則として、裁判所に提出した資料と同一のものを相手方にも交付する扱いになります。
 当事者双方が同じ資料を共有しなければ、話し合いが適切に進められないためです。

相手に知られたくない情報がある場合の対応

 提出資料に、「住所」「勤務先」「具体的な口座番号」など、相手方に知られたくない情報が含まれている場合は、必ずマスキング(黒塗り)をして提出しましょう。

 もっとも、全面的にマスキングをしてしまうと、裁判所自身も内容を確認できなくなるという問題が生じます。

裁判所には見せたいが、相手には見せたくない場合

 このような場合には、資料に非開示の上申書を添付して提出するという対応を取ります。

 非開示の上申書を提出しておくことで、相手方が資料の閲覧や謄写(コピー)を求めた際に、裁判官が開示を許可すべきか判断する際の重要な資料となります。

 最終的な判断は裁判官に委ねられますが、実務上は、合理的な理由があれば非開示の希望が尊重されることが多い印象です。

 なお、非開示の具体的な運用は、家庭裁判所ごとに細かな違いがあるため、相手に見せたくない情報を含む資料を提出する前に、裁判所へ事前に確認しておくことが重要です。

弁護士に依頼している場合

 弁護士に依頼している場合には、
・どの部分をマスキングすべきか
・非開示上申書を付けるべきか
・裁判所への説明方法
などについて、状況に応じた適切な対応をしてもらうことができます。

 調停資料の提出は、思わぬ形で個人情報や交渉上不利な情報が開示されてしまうこともあります。

 不安がある場合は、早めに専門家に相談することをおすすめします。

DV・モラハラ事案における調停資料提出の特有の注意点

 DVやモラハラが問題となっている事案では、通常の離婚調停と同じ感覚で資料を提出してしまうと、二次被害や安全リスクを生むおそれがあります。
 「話し合いのための資料」ではなく、「身を守るための資料提出」という視点が重要になります。

1 住所・勤務先・生活圏が推測される情報は最重要注意点

 DV・モラハラ事案で最も注意すべきなのは、現在の居場所が特定される情報の開示です。特に注意が必要なのは、以下のような情報です。

  • 現住所
  • 勤務先名・勤務地
  • 最寄駅、通勤経路が推測できる記載
  • 病院名、通院先
  • 子の学校・保育園名

 これらは一見「争点と無関係」に見えても、加害者側にとっては追跡・接触の手掛かりになり得ます。
 ➡ 原則として全面マスキング、または非開示上申を前提に検討すべき情報です。

2 収入資料・通帳写しも「そのまま出す」は危険

 源泉徴収票や給与明細、通帳の写しは、婚姻費用・養育費の算定に不可欠ですが、DV事案では扱いに注意が必要です。

  • 勤務先の事業所名
  • 振込元口座名
  • 支店名(地域が特定される)

 これらから生活圏が推測されるケースは少なくありません。
・金額のみが分かる形に加工
・必要最低限の期間・部分のみ提出
・裁判所閲覧用と相手方非開示を分ける
といった対応が現実的です。

3 診断書・相談記録は「出せば安全」ではない

 DV・モラハラ事案では、診断書や相談機関の記録が重要な証拠となりますが、提出方法を誤ると逆効果になる場合があります。

  • 診療機関名
  • 受診日時
  • 相談内容の詳細な記載

 これらが相手に渡ることで、「虚偽だ」「大げさだ」と攻撃材料にされる、あるいは報復的な主張を誘発することもあります。
・裁判所には原本提出
・相手方には非開示または限定開示
・非開示上申書で理由を明確化
とすることが重要です。

4 DV・モラハラ事案では「提出=正解」とは限らない

 通常の調停では、「証拠は積極的に出した方がよい」と説明されがちですが、DV・モラハラ事案では必ずしも当てはまりません。
・相手を刺激しない
・報復・追跡・嫌がらせを誘発しない
・調停を安全に進行させる
という観点から、あえて今は出さない、段階的に出すという判断も重要になります。
 筆者が代理人のケースでは、調停委員に事実上見てもらい、資料としては提出しないといった対応も行うことがあります。

5 非開示上申は「安全配慮の意思表示」になる

 非開示上申書は、単に資料を隠すためのものではありません。

 DV・モラハラ事案では、

  • 被害者側が恐怖や不安を抱えていること
  • 接触・把握に現実的な危険があること

を裁判所に理解・配慮してもらうための、正式な意思表示になります。

 結果として、
・期日の運営方法
・調停室の分離
・先帰り対応
・今後の面会交流判断
などにも影響を与えることがあります。

6 弁護士関与の有無で「安全レベル」が変わる

 DV・モラハラ事案で弁護士が関与している場合、

  • どの情報を出すべきか/出さないべきか
  • 非開示の理由をどう書くか
  • 裁判所への説明の仕方

を実務に沿って整理できます。

 特に、「正当な資料提出義務」と「安全確保」のバランスは、経験がなければ判断が難しい部分です。
 不用意な資料提出が、調停後の日常生活に影響を及ぼすことも珍しくありません。

 不安を感じる場合には、提出前の段階で一度、実務経験のある弁護士に確認することが、ご自身とお子さまを守る最善策になることがあります。

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弁護士紹介

弁護士:須山幸一郎

兵庫県弁護士会所属
弁護士登録番号:29617