遺言と家族信託は、どう違うのでしょうか。
① 契約による家族信託の場合、両者の違いは、親の生前から、親以外の者が財産管理を担うのかということに尽きます。
親の生前から財産管理を行うことが出来るようにするのが家族信託であるのに対し、遺言は死亡後の財産の承継先の指定(紛争予防等)が主な目的となります。
親の生存中に、将来親が認知症等の判断能力低下により自身で財産管理が出来なくなるリスクに備える必要性を感じる方が家族信託を検討することになります。遺言は相続開始(死亡)と同時に効力が発生しますので、生前の財産管理には役に立ちません。
② 遺言信託の場合、遺言によること、遺言者の死亡により効力が発生することは同じです。しかし、通常の遺言では一代限りの承継先の指定しか出来ず、相続人・受遺者は、自ら財産を承継して管理をしなければなりません。
一方、遺言信託の場合には、財産の承継先の指定だけでなく、相続人・受遺者に代わり財産管理を行う仕組みを遺すことができます。
相続人・受遺者に判断能力に乏しく自ら財産管理が出来ないような者がいる場合には、非常に有用です。
また、遺言のように一代限りという制約はなく、数次先まで財産の承継先を指定することが出来ます。
結局、契約による家族信託は、生前の財産管理及び遺言信託の機能を併せ持つことが可能といえます。
遺言は契約ではなく単独行為です。
したがって、法定相続人の遺産分割協議によらずに、自分が亡くなった後の財産の承継先を生前に決めることが出来ます。
遺留分減殺請求が行われた場合の減殺順序の指定など、遺言でしか出来ない事項もあります。
しかし、遺言は、自分自身が亡くなった際の資産承継について決めることが出来るに過ぎず、二次相続以降に効力を及ぼすことは出来ません。
また、遺言は死亡により効力が発生しますので、生前には何の効力もありません。
せっかく遺言を作成していても、その後本人が認知症になってしまった場合には財産の管理が出来なくなりますし、遺言の内容が明らかでない状態で成年後見制度を利用すると、成年後見人により、遺言の内容と抵触するような処分や財産管理が行われてしまう可能性があります。
また、生前であれば、いつでも書き換え、再作成が可能ですので、悪意ある第三者により変造されたり、判断能力が低下した際に事実上書き換えを強要されたりするリスクもあります。
遺言を作成したことを秘密にしておくと、そもそも発見して貰えないということも考えられます。
遺言を発見した者が隠匿したり、焼失・忘失等の危険もあります。
本人死亡時まで効力が発生しないという点で、後継者としては不安が残ります。
成年後見と家族信託は、どう違うのでしょうか。
成年後見制度は、高齢者や知的障碍者など、判断能力が不十分となった方のために、家庭裁判所の監督のもと、本人を代理して法律行為や財産管理を行う制度です。
本人の財産管理をするという意味では、両者とも同じ機能を有しています。
しかし、上述のとおり、成年後見人は、家庭裁判所に定期報告をしなければなりません。また、基本的に本人のための生活支援・福祉のための制度ですので、堅実な財産維持を原則とします。相続人や家族のメリットのある行為をしたり、積極的に財産の運用をしたり、相続税対策をしたり、資産の組み換え、借り入れ、自宅を売却等をすることは原則として出来ません。
本人の判断能力が低下した後に後見が開始されますので、その時点での本人の意思を確認することが出来ません。
確かに、成年後見制度は、堅実で財産維持には適していますが、本人が元気なときに望んでいたことや、家族が望んでいることは、必ずしも実現出来るとは限りません。
一方、家族信託は、当事者の意思による契約に基づくものですので、裁判所への定期報告義務は無く、委託者の元気なときの意思にしたがって、積極的な財産の維持管理・不動産等の処分・収益化等を行うことが可能となります。
これを信託のもつ「意思凍結機能」といいます。
成年後見の後見人報酬は、専門職後見人・親族後見人からの報酬付与申立てにより、家庭裁判所が、職務内容、財産の額、年間収支等を勘案して額を決定します。
弁護士等の専門職後見人の場合、安くても月額2万円程度とされることが多く、資産規模や職務内容によっては、月額5、6万円程度とされることもあります。
また、後見人が被相続人の遺産分割協議・調停等に参加したり、不動産の任意売却を行うなど、特別の職務を行った場合には、報酬が付加・加算されます。付加額は事案によりますが、数十万円になることもあります。
年額で見ますと、後見人報酬は20万円程度から、事案によっては100万円を超える場合も考えられます。
被後見人が長生きすると、総額が数百万円となってしまう場合もあります。
資産が5000万円超の方が、弁護士等の専門職就任後10年生存した場合、仮に後見人報酬を月額5万円とすると、5万円×12か月×10年=600万円の後見人報酬が必要となってしまいます。
家族信託を検討されているようなご家族の場合、自宅のほか、収益不動産を持っているなど、それなりの規模の財産をお持ちではないかと思われます。
成年後見となった場合、上記のような多額の報酬を、自分たちではなく家庭裁判所に決められ、これを継続して支払わなければならない、ということになりますので、これを頭において検討する必要があります。
なお、親族後見人が就任し、報酬付与申立てを行わなければよいのではないか、という考えも当然にお有りかもしれません。
しかしながら、昨今の後見人による不正事案(横領等)を受けて、家庭裁判所は被後見人となるべき者が一定規模以上の財産を持っている場合、後見人候補者を親族として申し立てても、当該親族を後見人に選任せず、弁護士等の専門職後見人を選任することも多く、親族後見人を選任する場合でも、専門職を「後見監督人」に選任し、親族後見人を監督させる場合が多いのが実情です。
この場合、被後見人の財産から、家庭裁判所が決めた毎月数万円の後見監督人報酬を支払わなければなりません。
成年後見は、意外とランニングコストがかかり、被後見人が長生きするほど、相続財産が報酬の支払いによって目減りするというリスクがあるということになります。
一方、家族信託の場合、通常、信託契約の内容等について、専門家に相談することになると思われますが、導入時に支払う報酬(コンサルティング報酬、公証人手数料、登記費用等)のみとなることが一般的です。
弁護士等の信託後見人を設置する場合には、家庭裁判所に決められた額ではなく、合意に基づいた報酬を支払うことになります。
「信託」というと、一部の資産家が利用する信託銀行の遺言信託(遺言作成助言+保管+執行)やを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかし、家族信託と信託銀行等の商事信託は異なりますので、違いを理解しておくことが重要です。
【商事信託】
金融庁の許可を受けた信託会社や信託銀行に対し、財産を託す信託のかたちです。信託会社や信託銀行は、営利目的ですので「信託報酬」を必ず受け取ります。信託業法の規制対象となっています。
①信託できる財産
信託銀行は、原則として不動産、未上場株式を信託財産として預かりません。金銭信託が基本です。
認知症対策として収益不動産の管理を考えるような場合、事業承継対策には、適していないということになります。
②受託者の権限
金融庁の免許により決まっています。顧客の指図が必要な場合と受託者の裁量が認められている場合があります。
③メリット
家族から受託者を探す必要がありません。
受託者が不正をする心配が通常ありません。
受託者となる家族等の手間は軽減できます。
④デメリット
高額の費用(設定時及びランニングコスト、100万円以上となることが殆ど)がかかります。
託せる財産が限られます(不動産、未上場株式は託せません)。
信託財産の柔軟な処分や組み換えは難しくなります。
【家族信託】
金融庁の許可を受けない個人等に対し財産を託す信託のかたちです(主に家族・親族が受託者となります。信託報酬を定めるかどうかは自由です。信託法、民法に従う必要はあります。
①信託できる財産
家族信託の信託財産は、現金・不動産・未上場株式が中心です。
信託財産
②受託者の権限
信託行為により、ある程度自由に設定することができます。
③メリット
委託者の思いに忠実で柔軟な財産管理の設定が可能です。
不動産、未上場株式の信託が可能です。
営利企業に委託する訳ではないので、ランニングコストを抑えられます。
信託契約に遺言の機能を持たせることで、相続開始後の遺産に関する紛争を予防できる効果が期待できます。
④デメリット
受託者を探さなければなりません。
受託者は、長期にわたる財産管理の負担が生じます。
受託者の不正のリスクが潜在的にはあるため、これを予防する工夫が必要です。
家族信託の導入費用としては、信託契約の設計に関するコンサルティング費用と公証人手数料が必要です。
コンサルティング費用は、専門家によって区々ですので、見積書をもらってよく検討することが必要です。
不当に高い報酬、他と比べて不自然に安い報酬を提示している専門家は避けた方が無難です。
公証人の手数料は、預託する信託財産の価額により決まります。
家族信託の場合、信託契約だけでなく、遺言公正証書を併せて作成することもあります。その場合は別途費用がかかります。
信託財産に不動産を含める場合には、司法書士報酬、登記費用がかかります。
一見すると高額なように思える費用ですが、結局幾らになるか見通しが立ちにくい成年後見と比べ、導入時にある程度予測がつきますし、将来にわたる財産管理の不安が解消するメリットを考えると、実は決して高いコストではありません。
相談にいらっしゃるお客様のほとんどのケースが、親の体調の変化や認知症の兆し、病院への入院、介護施設等への入所がきっかけで、初めて将来の遺産相続や親の財産管理の問題と向き合うことになった方です。
色々インターネットを調べて来られる方が他の分野と比べて多いのも特徴です。
そのようなタイミングで親子や家族間でしっかりと協議・対策ができる状況があればぎりぎりセーフといえます。
しかし、ご相談に来られた際には、親の体力や判断能力が衰えて微妙な状態になっていることも多く、少し前までは通常の意思疎通が出来たはずなのに、今となっては、うまく話し合いができなかったり、本来適切であったはずの対策ができなくなってしまうことも多々見受けられます。
当事務所でお手伝いさせて頂いたお客様の中で相続対策に成功されているお客様は、親が元気で意識がはっきりしているうちに、早い段階で家族全員で遺産相続についてしっかりと話し合いを行い、対策に取り組んでこられた方がほとんどです。
相続対策成功の秘訣の一つは、親が元気なうちであり、少しでも早い段階で取り組むこと、つまり「今」から対策を始めることが重要なのです。
信託契約の契約書は、公正証書で作成しなくても有効です。
しかし、信託契約は、通常、長期に渡る財産管理の仕組みを定めるもので、場合によっては何十年も効力が継続するものです。
時間が経過していく中で、関係者の意識が希薄となり、契約書の紛失、過誤廃棄のリスクが付きまといます。
万一、契約書の原本が見つからないとなると、契約に基づく資産承継が出来なくなるリスクがあります。
また、信託契約は、資産承継の意味合いがあり、拘束力がありますので、その内容を快く思わない第三者(利害関係人)から、契約の有効性(偽造、契約締結時の判断能力を疑われる等)を争われる可能性があります。
しかしながら、公正証書にしておくと、契約書に原本は長期に渡って公証役場に保管されているため、紛失しても謄本の再発行が可能です。
また、本人の契約締結意思を公証人が直接確認するため、事実上、後日紛争になりにくい(第三者も争いにくい)という効果があります。
コスト(公証人手数料)はかかりますが、公正証書にしておく意義は大きいといえます。
信託契約により、受益者として指定された者は、信託契約に別段の定めが無い場合、当然に受益権を取得します(信託法88条)。
すなわち、受益者の承諾は必要ありません。
したがって、知的障がいを持っていたり、認知症高齢者に財産を渡したいと考えた場合でも、受益権を取得させることが出来ます。
他方、贈与の場合は、贈与を受ける側(受贈者)が贈与を受諾する意思表示をする必要がありますので、有効に財産を渡すことが出来ません。
なお、受託者は、受益者とされた者が受益権を取得したことを知らない場合には、信託行為に別段の定めが無い場合、遅滞なく、その者に受益者となった旨の通知をしなければなりません(信託法88条2項)。
受託者は、委託者の信認に基づき、信託の目的の達成のために財産管理を行ったり、必要な法律行為を行うことから、その信認に応えられる能力を有する者でなければなりません。
信託法は、未成年者、成年被後見人、被保佐人は受託者とすることが出来ないと定めています(7条)。
財産管理能力・判断能力が不十分な者が受託者となり、財産管理等が適正に行われず、受益者等に不利益が生じることを防ぐためです。
他方、破産者は受託者となることが出来ます(平成18年改正前信託法では、破産者の受託者適格が否定されていました)。
家族信託を導入しようと検討している方が、積極的に上記のような者を受託者に選ぼうとは考えないのかもしれませんが、念のため注意が必要です。
信託法に規定されている受託者の義務は、以下のとおりです。
1 信託口口座の開設
受託者の分別管理義務の観点から、信託口口座の開設が必要となります。金融機関によって対応が異なりますので、事前に開設を予定している金融機関に相談をしておくとよいでしょう。
2 財産の移動
信託契約書の信託財産目録に記載された財産を、受託者に移動します。預金は払い出して現金として移動し、不動産については移転登記を完了し、株主名簿の名義書換手続きを行います。
3 信託財産に建物が含まれる場合には、建物の火災保険・地震保険の契約者変更手続が必要です。
4 賃借人・不動産管理会社への連絡
収益物件を信託財産に入れた場合、賃借人からの家賃は受託者が収受することになります。
したがって、各賃借人に対し、振込先口座の変更の通知を行います。
管理会社が一括管理をしている場合には、管理会社に連絡し、管理会社が収受した賃料の振込先を信託口口座に変更します。
信託監督人については、信託法第131条から第137条に規定があります。
第131条1項は、「信託行為においては、受益者が現に存する場合に信託監督人となるべき者を指定する定めを設けることができる。」と規定しています。
受益者の存在が前提とされていることから明らかなとおり、基本的には受益者が受託者を監視・監督することが期待されていますが、受益者が年少者や高齢者、知的障碍者であるような場合には、受益者自らに監視・監督を行うことは事実上不可能です。
このような受益者自身が監視・監督機能を果たせない場合に重要となるのが信託監督人です。
信託監督人は、受託者が、信託の目的や契約に違反する行為を行ったり、受益者に不利益な行為を行っている場合に注意を促し、是正を勧告するのが主な職務です。
具体的な権限や監督方法は、契約において自由に定めることができます。受託者を解任することができる権限を持たせることも可能です。
信託監督人は、信託行為において指定する方法、または、利害関係人の申立を受けて裁判所により選任される方法により定まります。
次に挙げる者は信託監督人になることができません(信託法137条、124条)。信託行為により信託監督人を指定する場合には注意が必要です。
①未成年者、成年被後見人、被保佐人
②当該信託の受託者
信託監督人の設置は任意ですが、家族信託による財産管理は通常長期にわたるものであり、その間、受託者が誰からも監督・監視を受けない状態にしておくことは好ましいものではありません。
家庭裁判所の監督のもとに選任される成年後見人でさえ横領等が多発している現状、信託監督人の設置は積極的に検討すべきであるといえます。
上述のとおり、信託監督人の権限や監督方法は、信託行為により自由に定めることが出来ます。
日常業務としては、定期的に(3か月~半年ごとに)、受託者から信託口口座の通帳や経費領収書等の開示を受け、不明朗・不自然な出費が無いか、管理している収益不動産の賃料がきちんと入金されているか、受益者に信託行為により定められた給付がきちんと行われているか、受託者が支払った経費の内容が適切か等を確認することが考えられます。
また、日常業務以外の特別な職務として、信託不動産の売却、購入、建設、解体、高額の売買契約締結等を行う際には、事前に信託監督人の承諾を要するとすることが考えられます。
不動産の売却に関しては、不動産登記の信託目録に、信託監督人の住所・氏名・権限が記載されますので、信託監督人の事前承諾が必要であることを仲介業者・買主等が認識することが可能となり、受託者が勝手に処分することを予防することが出来ます。
信託監督人には、未成年者、成年被後見人、被保佐人、当該信託の受託者は就任できませんが、それ以外の資格制限はありません。
したがって、親族の中から信託監督人を選任することも可能です。
しかしながら、親族間で客観的かつ冷静に、温情等を交えずに、長期にわたって監視・監督を行うことは事実上困難であると思われ、親族間の紛争・確執を誘発するリスクもあります。
また、信託監督人に、受託者を解任する権限を与えていた場合には、親族間紛争の結果、受託者を解任してしまう恐れすらあります。
したがって、信託監督人を設置する場合には、親族ではなく、親族以外の第三者を選任することをお勧めします。
親族以外の第三者であれば、私情を挟まず、客観的な職務遂行が期待できます。
なお、私としては、信託設計に関与した専門職(弁護士等)が、もっとも委託者の「思い」、信託の目的を理解していることから、同専門職が信託監督人として、目的の達成を最後まで見届け、信託途中も受益者・受託者等の関係者から適宜、収益不動産の管理や売却の方法等の相談に乗ることが可能となるような仕組みが適切なのではないかと考えます。
信託監督人の任務終了事由は以下のとおりです(信託法141条、56条、143条)。
① 信託監督人である個人の死亡
② 信託監督人である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けた場合
③ 信託監督人が破産手続開始の決定を受けた場合
④ 信託監督人である法人が合併以外の理由により解散した場合
⑤ 信託監督人が辞任した場合
⑥ 信託監督人が解任された場合
⑦ 信託の清算が結了した場合
⑧ 信託行為において定めた事由が生じた場合
家族信託においては、信託契約において、⑧の終了事由をどのように定めるかの検討が必要です。
当然に信託終了時となるわけではありません。
信託終了時の残余財産の帰属先を受託者としている場合は、信託終了時に信託監督人の任務も終了するとして特段問題は無いものと思われますが、信託終了時の残余財産の帰属先が受託者ではない場合には、残余財産の帰属先に無事引き渡しが行われるまでを信託監督人の任務とすることも検討する必要があります。
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