財産分与は、離婚の際に、夫婦が婚姻中に形成した財産を清算することをいいます。
まずは、基本的な知識を身に着けてから話し合いに望むようにしましょう。
財産分与の対象となる財産は、以下のようなものです。夫婦で婚姻後に協力して形成した財産が対象となります。
借金などの負債は、プラスの財産から控除して検討されます。
実務では、夫婦どちら名義の負債で、離婚後の支払義務をどちらが負うのかを考慮して検討します。
保険は、被保険者ではなく、契約者名義がどちらになっているかを確認します。
事業用財産は、個人事業の場合には分与対象となりますが、法人名義の財産は分与対象とはなりません。
但し、当該法人の株式や出資金は分与対象となります。
子どもが生まれると、子ども名義で預金口座を開設し、将来の教育資金等のために夫婦の収入を原資として貯蓄をするケースがよく見られます。
離婚の際の話し合いにより、子どもの預金は子どものもの、として財産分与の対象から外し、親権者となる側の管理に委ねることは勿論可能です。
しかしながら、話し合いにより解決出来ない場合、子ども名義の預貯金の原資が夫婦の収入であり、その管理(通帳・カード・銀行印・入出金管理等)を親が行っていたのであれば、夫婦の実質的共有財産として、財産分与の対象となります。
逆に、子どもが一定の年齢に達しており、既に子どもが管理している場合には、子ども固有の財産として、分与の対象とはなりません。
また、子ども名義の預貯金の原資が夫婦の収入ではなく、親族等から受領した出産祝い金、お年玉、子ども自身が得たアルバイト代等のみであれば、それは当然子どもの固有の財産として分与の対象とはなりません。
学資保険も、保険料の支払が夫婦の収入を原資としていたのであれば、分与対象財産性を免れません。
但し、話し合いにより、分与の方法として、保険を解約払戻しせず、親権者となる側に名義変更する等の契約処理を行うことはよくあります。
平成18年の法改正で、平成19年4月1日以降は、新規に「持分あり」の医療法人は設立できなくなったため、同日以降に設立された医療法人の社員たる地位は財産的価値がなく、財産分与の対象となりません。
一方、上記法改正前に設立された医療法人で、持分なし医療法人に移行していない医療法人(経過措置型医療法人(持分あり医療法人))の出資持分は、財産分与の対象となります。
持分は、医療法人の財産について、出資持分割合に応じた退社時の払戻し又は解散時の残余財産の分配を受ける権利で、財産的価値があるからです。
例えば、院長先生と同僚の先生が一人が各1億円を出資して設立した医療法人が、現在10億円の評価があるとした場合、院長先生は退社時、出資割合に応じて5億円の分配を受けることが出来ます。
もっとも、財産分与において、医療法人の持分をどのように評価するのかについては、非上場株式の評価と同様の難しい問題があり、また、現に医療法人に出資して経営者的立場にある社員が、容易に退社して持分の払戻しを請求することは想定しにくく、実際に払戻し請求がされた場合に医療法人の事業に与える影響も予測不可能であり、実際には適宜減額した評価を行う場合が多いと解されます。
他方配偶者が医療法人の出資者である場合、財産分与額は通常高額となりますし、複雑な問題を孕みますので、弁護士は勿論、会計士又は税理士、と連携して検討することが重要です。
財産分与の対象とならない財産としては、以下のようなものが挙げられます。
1 婚姻前から有していた財産
2 婚姻後に贈与や相続により取得した財産
このように、当該財産を取得するについて、他方配偶者の寄与が認められない財産は「特有財産」として財産分与の対象から除外します。
結婚前から不動産や自動車を所有していたとしても、結婚後にローンの支払いをしていた場合には、結婚後のローン支払いに相当する部分は分与の対象となります。
また、社会通念上、一方の専有品と評価できる衣類・宝飾品等、夫婦間で贈与された財産も特有財産として扱われます。
特有財産であることの証明責任は、当該財産が特有財産であると主張する側が負います。
特有財産が形を変えた場合(相続した金銭を原資に不動産を購入した場合等)も特有財産と扱われます。但し、その立証が必要です。
特有財産の立証は、個々の財産ごとに必要です。基準時(別居時)の残高から婚姻時の残高を控除するといった包括的な取り扱いも調停時には見られますが、訴訟では明確な紐づけが必要です。
普通預金の残高は、頻繁に入出金が行われているのが通常で、婚姻後に得た収入等と渾然一体となることによって、基準時時点では特有財産性を喪失していると評価されますので、基準時残高から婚姻時残高を控除して計上すべきという主張は訴訟においては認められないものと思われます。
生命保険は、親(又は祖父母)が保険料を支払っていたり、特有財産を原資に全額前納している場合は特有財産となります。
婚姻前から継続している保険は、解約返戻金相当額のうち、婚姻前に支払った保険料に見合う部分は特有財産となります。基準時の解約返戻金相当額から婚姻時の解約返戻金相当額を控除します。
婚姻前から保有していた株式は特有財産となりえますが、継続的かつ頻繁に売買を繰り返しているような場合には、婚姻後の追加入金等と混然一体となることによって特有財産性を喪失するものと思われます。
婚姻前に夫婦の一方が住宅ローン付きで購入していた不動産について、婚姻後の収入から返済した場合は、婚姻時から基準時までの返済に相当する部分が分与対象財産と認められます(東京高決H29.7.20)。
計算式は、不動産の時価×(住宅ローン残高減少額÷購入価格)となります。
話し合いにより、双方が納得できる分け方を模索していくことになります。
清算の割合については、特段の事情が無い限り、貢献度(寄与割合)は等しいとして50%とされることが一般的です(2分の1ルール)。
実務ではこの2分の1ルールが修正されるのは極めて例外的な場合に限られます。
【具体的な注意点】
1 現物で分ける場合、不動産、自動車など、所有者名義の変更が必要になる財産は、名義を確認し、名義変更に必要な書類を確実に受け取っておきましょう。
2 換金するなどして現金で分ける場合は、できるだけ一括払いにするようにしましょう。分割払いの場合、離支払う側の経済力、支払意思に変化が生じ、支払いが滞る場合が多いからです。どうしても分割払いにせざるを得ない場合、初回の支払額を多くしたり、期間もなるべく短く設定しておくようにしましょう。
3 協議離婚の場合、財産分与の合意ができたとしても、そのままでは記録に残りませんので、後に合意内容について紛争が生じる場合があります。
従って、協議離婚の場合は、合意内容を必ず双方が署名捺印した離婚協議書又は公正証書などの書面を作成しておくようにしましょう。
4 分割払いを認める合意をする場合には、万一支払われなくなった場合に備えて、可能な限り、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておきましょう。そうしておけば、仮に相手が支払わなくなった場合に、裁判をせずに相手の財産(預貯金や給料など)を差し押さえることができます。
2分の1ルールは、実務的には確立されたルールとなっています。
特段の事情が認められる場合には、例外・修正が認められる場合がありますが、実務的には極めて限定されています。
たとえば、
1 夫又は妻が芸術家・発明家・プロスポーツ選手等、特別な才能や能力を有していることで高額の収入を得ている場合、
2 医師等の高度な専門職として高収入を得ている場合、などです。
これらの場合は、専門家となるための資格や専門技術を、婚姻前に時間と費用、労力をかけて身に着けたといえます。
専門家となった後に婚姻した場合、他方配偶者がこれらの資格や専門技術の取得に寄与していないといえますし、夫または妻が芸術家として成功している場合、その配偶者は、特殊な才能やセンスの形成に寄与しているとはいえないからです。
このような場合、2分の1ルールの例外を主張する側が、資格や専門的技術を婚姻前に習得したこと、その習得のために個人として相当な努力と費用をかけたこと、その才能が特異なものであることなどを具体的に述べ、婚姻後の財産形成に他方配偶者の寄与が無い又は少ないことを、特段の事情として個別に主張・立証することになります。
権利者側が、家事育児をせず、日々無為徒食の生活を送っていたという場合もありうるかと思われますが、程度の問題であり、そもそもそのような生活を実際に送っていたかが争点になることも多く、修正理由とはならないことが多いと思われます。
離婚に先立って別居をするケースが多く、別居後離婚が成立するまでの間に財産の内容が変動したような場合、どの時点の財産を基準として決定すべきでしょうか。
財産分与は、夫婦が婚姻生活中に共同で形成した実質的共有財産をどう清算するのかという問題ですから、実務では、財産分与の基準時は、経済的な共同生活が消滅した時点、すなわち、別居時とされています。
もっとも、個々のケースで別居後の変動を一切検討しないことが公平を欠くような場合には、別居後の財産の変動についても、「一切の事情」(民法768条3項)として考慮することがあります。
したがって、別居時の財産を正確に把握したうえで、別居後の変動の有無、変動がある場合にはその内容や原因を検討し、別居時を基準とすることが公平にかなうかどうか、修正が必要かを念のため検証する必要があります。
いわゆる「家庭内別居」の状態にある場合どうかという点については、同居しつつ経済的協力関係が完全に喪失したと評価することは難しいうえ(少なくとも光熱水道費・住居費はは共同使用している)、財産分与の基準時は客観的に明確な時点であることが求められることからすると、いつの時点で「家庭内別居」となったのかを特定することは難しいことから、家庭内別居の開始時期を財産分与の基準時とすることは通常ありません。
同居のまま離婚調停の申立てが行われた場合は、調停申立日を基準時とすることが一般的です。
単身赴任や子の進学のために別々に暮らすことになったような場合は、夫婦の経済的協力関係が喪失したとは言えませんので、基準時とはなりません。
単身赴任中に夫婦関係が悪化した場合には、経済的協力関係がいつ終了したかを検討することになりますが、明確な時点が見出せない場合は、離婚調停申立日を基準時とすることが多いと思われます。
一旦別居した後、用事を済ませるために一時的に帰宅したような場合は同居再開とは評価しません。
平日は職場や職場近くに寝泊まりし、週末だけ帰宅していたが、やがて週末も帰宅しなくなり、なし崩しで別居状態に至ったという場合、最後に帰った日が特定できればその日を基準時とすることもありえますが、そのような場合でも、その日以降に荷物を取るために自宅に立ち寄ったりしていることも多く、判然としない場合には離婚調停申立日を基準とすることも多いのではないかと考えられます。
離婚に先立ち、夫婦の一方が自宅を出て別居するケースは多くみられます。
その際、出ていく側が夫婦の実質的共有財産を持ち出すことがあります。
よくあるのは、夫婦の一方が他方名義の預金通帳を持ち出して(例えば、妻が夫名義の通帳を持ち出す)費消してしまい、離婚時に大きく目減りしているようなケースです。
上述のとおり、基準時は別居時ですので、基準時後に他方配偶者の預貯金を払い出した場合、払い戻した額は財産分与を先行取得したものとして、分与額から控除します。
持ち出した側が相手から婚姻費用の支払いを受けていないような場合、費消額について、未払いの婚姻費用の精算と関連させて解決する場合もあります(未払いの婚姻費用が50万円、費消金額が30万円である場合、20万円を未払い婚姻費用の清算と扱うなどの解決があります)。
財産分与の額の算定は、まず、別居時の夫婦名義の財産を確定し、そこから双方の特有財産を控除します。
夫婦名義の財産から特有財産を控除した残額が、実質的夫婦共有財産として分与の対象となります。
財産分与は、婚姻後に形成した積極財産(プラスの財産)を清算する制度です。積極財産がなく、消極財産(マイナスの財産・負債)があるだけという場合や、積極財産から消極財産を控除した結果マイナスとなる場合には、財産分与請求権は生じません。
すなわち、積極財産から消極財産を控除した結果、積極財産が残存する場合に限り、財産分与請求権があるとして、2分の1ルールをベースに分与額を算定します。
ただし、負債超過の場合でも、積極財産の帰属について話し合い、取り決めを行うことはもちろん可能です。
離婚協議・離婚調停の中で財産分与の話し合いを行い、合意が得られるまで離婚が成立しないことが一般的です。
しかし、早く離婚したいという理由から、財産分与の合意をせずに協議離婚を先に成立させることも可能です。離婚後に財産分与について話し合うことは可能です(但し、2年の期間制限があることには注意)。
離婚後に財産分与の話し合いを行っても解決できない場合、財産分与調停申立を行います。
調停が不成立となれば、審判となります。家庭裁判所は、審判手続で財産分与の要否、分与の額及び方法等を定めます。
審判が金銭の支払い、物の引き渡し、登記義務の履行など給付を命じるものであれば、執行力ある債務名義と同一の効力があり、相手が任意に審判の内容を履行しない場合、強制執行が可能となります。
なお、調停で双方が合意し、合意した内容が調書に記載されると調停が成立します。成立した調停は、確定した審判と同一の効力を有します。
財産分与を有利に進めるためには、
が、重要となります。
相手方配偶者名義の財産が多ければ多いほど、財産分与として請求できる金額が大きくなり、自身の特有財産が多ければ多いほど、相手に渡さなければならない金額が小さくなるからです。
したがって、近い将来、離婚を検討されている方は、同居しているうちに、相手方配偶者の収入資料(源泉徴収票など)や財産のコピーを取ったり、郵便物をチェックする(銀行、証券会社、保険会社等からの郵便物)などして、配偶者の財産の把握をしておくことをお勧めします。
見落とされやすいものとしては、保険、財形貯蓄、小規模共済、ネット銀行及びネット証券の残高、暗号資産、相手方配偶者が経営している会社の株式等があげられます。
通帳、給与明細は、最低でも過去1年分は確認し、見落としが無いかチェックするようにしましょう。
残高や内容が分からなくても、どこの保険会社、どこの銀行に口座があるかが分かれば、裁判所の調査嘱託を申し立てるなどして調査が可能となる場合があります。
全く手がかりが無い場合、たとえ弁護士であっても見つけることは困難です。
自身の特有財産の立証資料については、婚姻期間が長ければ長いほど、資料の再取得が難しくなります(銀行の保存期間は一般に10年と言われています)。
婚姻時の預金残高から現在まで紐づけができるかどうか、贈与、相続を受けた際の資料(税の申告書、契約書等)が残っているかどうか、確認してみましょう。
特有財産については、特有財産であると主張する側に立証責任がありますので、証拠が無ければ配偶者があなたの特有財産と認めない限り、夫婦共有財産と推定されてしまいます。
財産分与の論点(調停)で、以下のような主張がされることがありますが、あまり考慮されることはありません。
1 相手方配偶者が浪費したから財産が少ししか残っていない。だから自分が全部取得すべき
2 相手方配偶者は不貞行為を行ったのだから、財産分与を受ける資格はない
1に関しては、「浪費」の基準がそもそも不明確(生活水準によって様々)であるうえ、浪費の立証が困難です。
共同生活を営んでいた以上、浪費をやめさせる努力をどこまでしていたか、費消行為を容認・放置していたのではないか、といった点も問題になります。
相手方から1のような主張が出てきた場合、おおまかな家計収支を説明し、浪費とまではいえないこと、必要な出費であったことなどの理解を求めるようにしましょう。
2に関しては、財産分与の論点ではなく、慰謝料の論点で話し合われます。財産分与は夫婦共有財産の清算の問題ですので、離婚原因・有責性の問題とは別に、分与を受ける権利は認められるのが通常です。
離婚の際には慰謝料や財産分与の話し合いとなりますが、分与をしなければならない側が、財産を隠そうとすることがあります。
具体的には、自分名義の預金を相手に知られていない別の金融機関に移したり、現金化して隠したりなどの行為が考えられます。
財産隠しを許し、相手方の財産の内容(額)及び存在(場所)がわからなくなりますと、交渉は不利となり、実質的に公平な解決が出来なくなります。
配偶者が財産隠しを行う可能性がある場合には、事前に保全を行うことも検討しましょう。
まず、財産分与として、金銭の請求をしようと考えている場合には、相手方の財産(預金口座等)について、裁判所に仮差押命令の申立てをすることを検討します。もっとも、仮差押命令を裁判所に出してもらうためには、一定額の担保を立てることが必要です。
相手方名義の不動産を取得したいと考えている場合には、裁判所に処分禁止の仮処分の申立てをし、相手方が名義移転等の処分行為をすることを禁ずる決定を出してもらうことを検討します。
この決定が出れば、相手方が名義移転しても、移転を受けた者は申立人に対して、自分が所有者であることを主張することができなくなります。もっとも、上記の仮処分の場合と同様、担保を立てることが必要です。
上に述べた2つの申立ては、一般の方が自身で行うのは困難ですので、早急に弁護士に相談するようにしましょう。ただ、実務的にはこれらの保全を行うケースは多くはありません。
上述の保全処分を行うと、相手方が感情を害し、紛争が紛糾することがあります。相手の性格等を踏まえ、慎重に判断することも重要です。
まず、住宅ローンの残債務額が家の価値より高い不動産(オーバーローンの不動産)については、残債務を自己資金で弁済するか他の銀行等から借り換えをしない限り、現在の住宅ローン債権者(銀行)は、担保(抵当権)を抹消することに同意してくれません。
同意が得られない以上、通常は売却が出来ません。
ですので、現在の名義人がそのまま名義を維持しながらローンを支払っていく(夫単独名義のローンなら夫が支払いを継続する)のが原則となります。
夫名義の住宅を妻名義に財産分与を原因として名義変更し、妻がそのままそれまでの家に住み続けるということで、財産分与の話がまとまる場合があります。
住宅ローンが完済されていれば問題はありませんが、住宅ローン及び抵当権の登記が残っている場合は慎重に検討する必要があります。
住宅ローンを完済しないまま、所有名義だけ妻名義に変更し、妻が居住継続することも事実上は可能ですが、抵当権が残っていますので、妻が夫の住宅ローンのために家を担保として差し入れているのと同じことになります。
住宅ローン債権者との契約で、夫婦間であっても、離婚時でもローン完済前は名義変更が禁じられている場合もあります(名義変更が銀行との関係で契約違反となる可能性があります)。
離婚の際には、住宅ローンの名義人となっている一方配偶者が住宅ローンを継続して支払っていく、他方が住み続ける、という内容の話し合いが持たれることが多いと思われます。
諸事情によりローンの支払をしなくなると、抵当権者が家を競売にかけることになります。
他方配偶者は家の所有権を失い、立ち退きの必要が生じます。
抵当権を抹消せずに名義だけを変える場合は、上記のようなリスクがあることを前提に、夫の将来の支払能力、約束を守ることが期待できるか、等を十分に検討しておく必要があります。
次に、住宅ローンの残債務より家の時価の方が高い場合(余剰がある場合)、家の価値は、時価から住宅ローンの残債務を引いたものとなります。
財産分与の方法としては、
1 家の価値の一定割合(余剰の半額相当)を、住宅ローンを支払いその家に住み続ける一方配偶者から出て行く他方配偶者へ金銭により支払う方法、
2 家を売却して住宅ローンを完済し、余剰を分ける方法、
3 住宅ローン債権者の承諾を得て債務者変更の手続をとり、居住を継続する方法等が考えられます。
住宅の評価額より残債務額の方が大きければ(オーバーローン)、財産分与請求権は発生しません。もっとも、住宅以外に財産があれば、これを住宅の価値に加算して計算を行います。
なお、オーバーローンで財産分与請求権が発生しない場合でも、住宅ローンは夫婦が婚姻共同生活を営むために負担した債務ですので、夫婦で分担割合を協議しなければなりません。
但し、これは夫婦内部の問題で、住宅ローン債権者に対する関係では、ローンの名義人が弁済義務を負います。
別居後、夫または妻が住宅ローンを弁済していた場合には、離婚時の住宅の評価額から、別居時点の残ローン額を控除して検討します。
別居後の住宅ローンの減少には、他方の夫または妻の寄与・貢献がないため、離婚時のローン残額ではなく、別居時のローン残額を控除するのです。
夫婦が連帯債務・一方が連帯保証人になっている場合、住宅を取得しない方は、連帯債務・保証人から抜けたい、と思うのが通常だと思われます。
しかしながら、連帯債務・連帯保証となっているのは、借り入れの際に単独では審査が通らないといった事情から連帯債務・連帯保証となっていることが多いと思われます。
離婚するからといって金融機関が連帯債務・保証債務を免除してくれるということは基本的にありません。
これを踏まえて住居をどのように処理するのかを検討する必要があります。
住宅を取得する側の配偶者が、「離婚する相手方(配偶者)のために、連帯債務・連帯保証債務を免責してもらえるよう、金融機関と交渉することを約束する」などとして調停がまとまる場合があります。
これは、事前に金融機関に確認を取り、他の保証人を入れるなどある程度見通しが立っている場合に入れるのが相当な条項であると考えます。
財産分与による財産の取得について、一般的には贈与税は課されません。
実質的共有財産の清算に過ぎませんので当然と言えます。
但し、分与の額が過当であると認められる場合には、当該過当部分が贈与税の課税対象となります。
また、離婚を手段として贈与税や相続税を免れようとしたと認められる場合には、贈与税が課税されることがあります。
財産分与として資産を譲渡した側には、譲渡所得税が課せられる場合があります。
多額の譲渡所得税が課せられることを念頭に置かずに財産分与を含む離婚を成立させてしまい、後に予想外の課税がされて「こんな筈では無かった」ということにならないよう、譲渡所得が発生するのかどうか(取得時の価額と現在の価額の差はどうなっているか)については、検討しておくことが必要です。
離婚の前後で、それまで夫婦で住んでいた不動産の名義を夫から妻へ変更し、夫が家を出て妻が住み続ける、というケースはよくあります。
離婚時に不動産を譲渡する場合、タイミングについては慎重に検討するようにしましょう。
譲渡を行うのが離婚が成立する前なのか後なのかによって、課税される税金が変わってくる場合があります。
1 夫婦間の贈与は贈与税が課税(原則)
夫婦間の財産の譲渡であっても、扶養義務の範囲内と認められないものは贈与税の課税対象となります。
婚姻中、不動産の名義変更を行う場合、通常は基礎控除の110万円を超えますので、贈与税が課税されます。
2 夫婦間の贈与でも、配偶者控除が使える場合には、贈与税は非課税
夫婦間の譲渡でも、以下の要件を満たしていれば、2,000万円まで非課税となります。
【配偶者控除の適用要件】
・婚姻期間が20年以上であること
・居住用不動産または居住用不動産を取得するための金銭の贈与であること
・贈与の翌年の3月15日までに不動産に居住し、引き続き居住する見込みであること
離婚前の自宅不動産の譲渡を行っても、基礎控除額と合算して、不動産の価格が2,110万までなら贈与税はかからないことになります。
なお、配偶者控除を受けて税金を支払わなくてよくなる場合でも、贈与税の申告は必要です。
3 配偶者控除が使える場合でも、不動産取得税は課税
離婚前の贈与の場合、2の配偶者控除により贈与税が非課税になっても、譲渡を受ける側は、不動産取得税がかかります。
不動産取得税の税率は固定資産評価額の4%ですが、現在は、土地と居住用家屋については3%とする軽減措置が設けられています。
財産分与として離婚後に不動産譲渡を行った場合には、不動産取得税は原則として課税されません。
離婚時に夫婦間で不動産譲渡を行う場合には、配偶者控除の要件をみたしている場合でも、離婚後に財産分与として譲渡する方が少し節税になると思われます。
いずれにしても、税理士に相談しておいた方がよいでしょう。
4 財産分与として不動産を譲渡する場合は、離婚後に登記申請
財産分与として不動産を譲渡する場合には、離婚後、離婚が戸籍反映された後に名義変更手続きをする必要があります。
財産分与は、離婚が成立しなければ効果が生じないからです。
離婚前には財産分与を原因とする所有権移転登記はできません。
ここは、意外と弁護士でも勘違いしている人がいます(「調停成立前に期日間で先に移転登記してしまいましょう」とか。無理です。)。
なお、離婚前に譲渡の手続きをすれば上述の贈与となってしまいます。
5 譲渡をする側には譲渡所得税が課税される場合がある
不動産の価格が購入時よりも上がっている場合には、譲渡所得税が課税される場合があります。課税の基準となる課税譲渡所得は、次の計算式で計算します。
課税譲渡所得=譲渡価額-(取得費(原価、諸費用)+譲渡費用)
但し、居住していた不動産を譲渡(財産分与)する場合には、3000万円の特別控除の適用があります。
また、分与する居住用不動産の所有期間が10年を超える場合には、軽減税率の適用があります。
6 登録免許税・固定資産税
名義変更の登記の際には、登録免許税がかかります。登録免許税は、贈与の場合でも財産分与の場合でも、固定資産評価額の2%です。
どちらが負担するのかは協議によりますが、通常は取得側が全額負担します。
所有者になれば、毎年固定資産税を支払う必要があります。納税通知書は、1月1日現在の不動産の所有者に送付されます。
譲渡した年度分の固定資産税の負担について、離婚協議で定めることも出来ます。但し実際に納付するのは、元の所有者ですので計算して清算することになります。
財産分与には、以上に述べた清算的財産分与のほか、「扶養的財産分与」と呼ばれるものがあり、時折これを求める主張が見られます。
しかし、離婚は、それが成立することにより相互の扶養義務が無くなるのですから、本来は認められるものではありません。
実務的には、離婚後の生活費を見てあげないと、余りにも気の毒で、公平や信義に反するといった特殊な場合にのみ認められるものです。
高齢であったり、病気・障がいをもっており就労が困難な一方配偶者に対し、他方配偶者は高収入が見込まれる、というような場合です。
もっとも、このような場合も、ある程度の清算的財産分与の給付が認められる場合には、それをもって必要最低限度の生活を維持するに足りるものと評価されることが多く、離婚後の生活について経済的な不安があるというだけで扶養的財産分与を求めても、少なくとも審判や判決で扶養的財産分与が認められる可能性は無いと思われます。
なお、扶養的財産分与が認められる場合、その支払方法は一括払いが原則ですが、一括払いが困難な場合は定期金払いとされることもあります。
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