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離婚時の財産分与|対象となる財産と分け方、争いになった場合の対応

 離婚の際、財産分与について夫婦の意見が対立し、話し合いが進まなくなることがあります。

 例えば、相手が預貯金や証券口座を管理していて、どの程度の財産があるのか分からない。自宅をどうするかで折り合いがつかない。結婚前から持っていた預金や、親から援助してもらった住宅購入資金まで分ける必要があるのか分からない。こうしたご相談を受けることがあります。

 財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、原則として2分の1ずつ分けるのが基本です。

 しかし、実際には、どの財産が分与の対象になるのか、いつの時点の財産を基準にするのか、不動産や株式をいくらと評価するのかなど、さまざまな問題があります。相手方が財産を開示しなければ、そもそも話し合いの前提が整わないこともあります。

 十分に財産を調べないまま離婚条件に合意してしまうと、後から問題が分かっても、やり直すことは容易ではありません。

 このページでは、財産分与の基本的な考え方に加え、相手方が財産を開示しない場合や、住宅ローンが残っている場合など、実際の離婚協議や調停・訴訟で問題となりやすい点について説明します。

①財産分与の基礎知識(最初に読む)

②財産分与の対象となる財産

③財産評価と基準時(いつ・いくらで分けるか)

④不動産・住宅ローン・事業用財産がある場合

⑤将来財産・収入に関する問題

⑥財産隠し・争いがあるケース

⑦財産分与に応じない場合・手続の流れ

⑧期限・税金・特殊な分与

①財産分与の基礎知識(最初に読む)

離婚時の財産分与|対象となる財産と計算方法

 離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を清算する制度です。これを「清算的財産分与」といいます。

 財産分与について話し合うためには、まず、夫婦それぞれにどのような財産があるのかを明らかにする必要があります。

 預貯金や不動産、株式、保険、退職金などを確認し、その中から財産分与の対象となる財産を整理します。結婚前から持っていた財産や、親から相続・贈与を受けた財産などは、原則として分与の対象にはなりません。

 次に、いつの時点の財産を基準とするのか、財産をいくらと評価するのかを検討します。

 そのうえで、夫婦それぞれの取得額を計算し、現金で支払うのか、不動産などを取得するのかといった具体的な分け方を決めていきます。

 実際の事件では、分与割合よりも、対象となる財産の範囲や評価額について争いになることが少なくありません。

相手方が財産を開示しない場合には、そもそも財産の全体像が分からず、協議を進められないこともあります。

財産分与では、まず財産を正確に把握することが出発点になります。

扶養的財産分与とは

 財産分与は、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を清算することを基本としていますが、離婚後の生活保障という側面もあります。これを「扶養的財産分与」といいます。

 例えば、長年専業主婦として生活してきた配偶者が、高齢や病気などの事情によって離婚後に就労することが難しく、清算的財産分与だけでは生活の維持が困難となる場合などに問題となります。

 もっとも、離婚によって夫婦間の扶養義務は終了するため、離婚後の収入が少ないという理由だけで、当然に追加の財産分与が認められるわけではありません。

 実務上は、まず夫婦共有財産の清算が行われ、それでも離婚後の生活保障が必要と認められる場合に、当事者双方の年齢、健康状態、収入、資産状況などを考慮して、補充的に扶養的財産分与が問題となります。

 実際の離婚調停や訴訟では、清算的財産分与が中心となり、扶養的財産分与が独立して認められるケースは多くありません。

財産分与は原則2分の1|夫婦の収入差がある場合も同じ?

 財産分与では、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産を、原則として2分の1ずつ分けることになります。

 これを「2分の1ルール」といいます。

 例えば、夫が会社員として働き、妻が専業主婦として家事や育児を担っていた場合でも、夫婦の財産形成に対する双方の貢献は、原則として等しいと考えられます。

 夫から「自分が働いて稼いだお金なのだから、妻には渡さない」「妻は収入がなかったのだから、財産分与を受ける権利はない」と言われることがあるかもしれません。

 しかし、こうした主張は、現在の裁判実務では基本的に認められません。

 夫婦の一方が仕事に専念できた背景には、他方による家事や育児などの貢献があると考えられているからです。

 2026年4月施行の改正民法768条3項でも、婚姻中の財産の取得や維持に対する夫婦の寄与の程度について、明らかな差がない限り、等しいものとすることが明記されました。

 したがって、夫婦の収入に大きな差があっても、それだけで財産分与の割合が変わるわけではありません。

 もっとも、2分の1ずつ分けるというのは、個々の財産をすべて半分にするという意味ではありません。

 例えば、夫が自宅を取得し、その代わりに妻が預貯金を多く取得したり、夫から妻に一定額の金銭を支払ったりする方法もあります。

 夫婦が合意できれば、具体的な分け方については柔軟に決めることができます。

財産分与の計算例

 例えば、夫名義の預貯金が1,000万円、妻名義の預貯金が200万円あり、いずれも婚姻中に形成された財産であるとします。

 この場合、夫婦の共有財産は合計1,200万円ですから、2分の1ずつ分けると、それぞれ600万円を取得することになります。

 既に妻名義の預貯金が200万円ありますので、夫から妻に400万円を支払えば、双方が600万円ずつ取得することになります。

 実際の財産分与では、預貯金だけでなく、不動産や株式、保険、退職金なども含め、それぞれの財産を評価したうえで、夫婦間で清算する金額を計算します。

財産分与について合意する際の注意点

 財産分与では、合意した内容が確実に実現されるようにしておくことも重要です。

 不動産を取得する場合には、所有権移転登記に必要な手続や、住宅ローンが残っている場合の対応について、あらかじめ確認する必要があります。

 金銭の支払いを受ける場合には、できる限り一括払いとすることが望ましいと思います。

 分割払いにすると、途中で相手方の経済状況が悪化したり、支払いに応じなくなったりする可能性があるからです。

 やむを得ず分割払いとする場合には、支払期限や金額を明確に定め、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することも検討すべきでしょう。一定額の金銭支払義務について、このような公正証書を作成しておけば、支払いが滞った場合に、改めて裁判を起こさずに強制執行を申し立てることができます。

 離婚協議書を作成する場合にも、単に「財産を半分ずつ分ける」と記載するのではなく、誰がどの財産を取得し、いつ、どのような方法で支払いや名義変更を行うのかまで、具体的に決めておく必要があります。

財産分与が2分の1にならない場合とは

 財産分与では、夫婦の寄与割合を2分の1ずつとするのが原則ですが、例外的に、この 割合が修正されることもあります。

 例えば、夫婦の一方が特別な才能や専門的能力を持ち、その能力によって多額の財産を形成した場合です。

 過去の裁判例には、医師としての専門的能力や病院経営者としての手腕などを考慮し、財産分与の割合を修正したものがあります。

 もっとも、医師や会社経営者などの専門職であることや、高額な収入を得ていることだけで、当然に2分の1ルールが修正されるわけではありません。

 その財産がどのように形成されたのか、特別な能力や努力が財産形成にどの程度寄与したのか、他方配偶者が家事や育児などを通じてどのように貢献してきたのかといった事情を、具体的に検討する必要があります。

 実際の財産分与では、一方の収入が高いという理由だけで、分与割合の修正が認められることは容易ではありません。

 また、相手方に対して「家事を十分にしていなかった」「育児を任せきりにしていた」「仕事をせずに怠けていた」などと主張し、自分の寄与割合を高くするよう求めることもあります。

 しかし、こうした主張については、そもそも事実関係に争いがあることも多く、夫婦の生活態度に対する不満が、そのまま財産分与の割合に反映されるわけではありません。

 財産分与では、夫婦のどちらがどれだけ苦労したかを比較するのではなく、財産の取得や維持に対する双方の寄与を考えることになります。

 2分の1ルールを修正するには、それを認めるだけの具体的な事情が必要であり、現在の裁判実務では、原則どおり2分の1ずつとされる場合がほとんどです。

浪費や不貞があった場合

 離婚の際、「相手が浪費していたのだから、財産分与の割合を変えてほしい」「相手の不貞行為が原因で離婚するのに、財産を半分渡すのは納得できない」といった主張がなされることがあります。

 しかし、財産分与は、基本的には夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を清算する制度です。そのため、相手方の行為に問題があったとしても、それだけで財産分与の割合が変わるわけではありません。

 浪費については、婚姻期間中の趣味や買い物、飲食などの支出が、一方の配偶者から見て無駄遣いだったとしても、そのことだけで財産分与の割合を変更することは通常困難です。

 もっとも、別居直前に夫婦の預貯金から多額の金銭を引き出し、個人的な遊興費などに費消していた場合には、引き出された金銭をどのように扱うかが問題となることがあります。支出の時期や金額、使途などによって判断が異なります。

 不貞行為についても、不貞行為をした側が財産分与を受ける権利を失うわけではありません。原則として、夫婦共有財産は2分の1ずつ分与することになります。

 不貞行為による精神的苦痛については、財産分与とは別に慰謝料を請求することが考えられます。

 なお、財産分与には慰謝料的な要素が含まれる場合もありますが、実務上は、夫婦共有財産の清算と慰謝料の問題を区別して検討するのが一般的です。

②財産分与の対象となる財産

財産分与の対象となる財産

 財産分与の対象となるのは、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産です。

 夫婦のどちらの名義になっているかは、原則として関係ありません。例えば、夫の給与から積み立てた預貯金や、夫名義で購入した不動産であっても、婚姻中に形成されたものであれば、財産分与の対象になります。

 具体的には、次のような財産が挙げられます。

  • 現金・預貯金・財形貯蓄
  • ​土地・建物などの不動産
  • 株式・投資信託・債券・暗号資産(NISA口座内の資産を含む)
  • 積立型の生命保険・学資保険・個人年金保険
  • 自動車・高額な貴金属など
  • 退職金・確定拠出年金(iDeCoなど)
  • 個人事業主が保有する事業用財産

 もっとも、これらの財産であっても、婚姻前から所有していたものや、相続・贈与によって取得したものなどは、財産分与の対象から除外される場合があります。

 また、退職金や確定拠出年金については、婚姻期間に対応する部分をどのように評価し、分与するかが問題になります。

負債(借金)がある場合

 財産分与では、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金などの負債も考慮する必要があります。

 例えば、自宅の住宅ローンや、家族の生活費・教育費のために借り入れたお金などは、財産分与の計算において考慮されることがあります。

 一方、夫婦の共同生活とは関係のない個人的な借金については、当然に控除されるわけではありません。

 負債の名義だけでなく、その借入れが何のために行われたのかを確認する必要があります。

 なお、財産分与の際に夫婦間で借金の負担について取り決めても、それだけで金融機関などに対する返済義務が変更されるわけではありません。

生命保険・学資保険の扱い

 積立型の生命保険や学資保険は、一般に、財産分与の基準時に解約したと仮定した場合の解約返戻金相当額を基準に評価します。

 実際に保険を解約する必要はなく、一方が契約を継続し、その価値を財産分与の計算に組み入れることもできます。

 確認する必要があるのは、契約者が誰かということだけではありません。いつから加入しているのか、誰がどのような資金で保険料を支払ってきたのかによっても、財産分与の対象となる範囲が変わることがあります。

事業用財産の扱い

 個人事業主の場合、事業用の預貯金や不動産、設備、在庫なども、財産分与の対象となることがあります。

 これに対し、法人が所有する財産は、原則として法人自身の財産であり、夫婦の財産分与で直接分ける対象にはなりません。

 ただし、夫婦の一方が保有する法人の株式や出資持分については、その価値が財産分与の対象となることがあります。

 事業用財産や法人の株式は、評価方法が問題となることも多いため、通常の預貯金などとは分けて検討する必要があります。

財産分与の対象とならない財産(特有財産とは何か)

 財産分与では、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を分けるのが原則ですが、すべての財産が対象になるわけではありません。

 例えば、結婚前から持っていた預貯金や不動産、婚姻中に親から相続した財産などは、夫婦の協力によって形成されたものではありません。

 このような財産は「特有財産」と呼ばれ、原則として財産分与の対象から除外されます。

 また、婚姻中であっても、親から自分だけに贈与された財産などは、特有財産となります。

 もっとも、実際の事件では、特有財産に当たるかどうかについて、夫婦間で争いになることが少なくありません。

特有財産であることを証明する必要がある

 例えば、夫が「この預金は結婚前から持っていたものだ」と主張した場合、そのことを裏付ける資料が必要になります。

 婚姻当時の預金通帳や取引履歴などから、結婚前にその預金が存在し、財産分与の基準時にも残っていたことを確認できれば、特有財産として認められやすくなります。

 親から相続した財産であれば、遺産分割協議書や預金の入金記録などが資料になります。

 ただし、結婚前に預金があったことや、親からお金を相続したことが分かるだけでは、十分でない場合があります。

 そのお金が婚姻生活の中で使われてしまったのか、それとも別の財産に形を変えて残っているのかという点も問題になるからです。

 特有財産であると主張する側は、個々の財産について、取得した経緯やその後の管理状況を具体的に説明し、資料を提出する必要があります。 一般的に、次のような財産は特有財産とされます。

普通預金は特有財産の立証が難しいことがある

 特に争いになりやすいのが、婚姻前から利用している普通預金です。

 例えば、婚姻時に500万円の預金があり、別居時には800万円になっていたとします。

 この場合、婚姻時の500万円を差し引いて、残りの300万円だけが財産分与の対象になると主張されることがあります。

 しかし、この計算が当然に認められるわけではありません。

 婚姻後も同じ口座に給与が振り込まれ、生活費の引落しなどで日常的に入出金が繰り返されていた場合、婚姻前の500万円がそのまま残っているとは限らないからです。

 婚姻前の預金と婚姻後の収入が混在し、区別できなくなっている場合には、特有財産として認められないことがあります。

 一方、結婚前から保有していた定期預金が、そのまま更新されて残っている場合などは、比較的容易に特有財産であることを説明できます。

 また、普通預金であっても、入出金の状況によっては、特有財産として認められる場合があります。

 したがって、婚姻時の残高を一律に控除することも、普通預金だから特有財産にはならないと決めつけることも適切ではありません。

 私は、こうした事件では、婚姻時と別居時の残高だけでなく、その間の取引履歴を確認し、特有財産として主張できる部分があるかを検討する必要があると考えています。

親からの援助で住宅を購入した場合

 住宅購入時に、夫婦の一方の親から頭金などの援助を受けている場合もあります。

 例えば、妻の親が住宅購入資金として1000万円を援助し、残額を夫婦の収入から返済する住宅ローンで賄った場合です。

 このような場合、親からの援助が妻個人に対する贈与であれば、その援助分について特有財産として考慮することができます。

 ただし、援助を受けた金額を、そのまま現在の不動産の評価額から差し引けばよいとは限りません。

 購入時の価格、援助額、住宅ローンの返済状況、現在の不動産の評価額などを踏まえて、特有財産に相当する部分を検討する必要があります。

 また、親から援助を受けたことを証明するためには、贈与の経緯や振込記録、住宅購入時の資金の流れなどが重要になります。

婚姻前に購入した住宅のローンを婚姻後に返済した場合

 結婚前に夫が購入した住宅であっても、婚姻後、夫婦の収入から住宅ローンの返済を続けていた場合には、その返済によって形成された財産的価値が、財産分与で考慮されることがあります。

 例えば、夫が独身時代に住宅ローンを組んでマンションを購入し、結婚後も夫婦で生活しながら返済を続けていた場合です。

 このような場合、マンション全体が当然に夫の特有財産になるわけではありません。

 もっとも、婚姻後の住宅ローン返済額をそのまま財産分与の対象額とすることも、必ずしも適切ではありません。

 購入時の頭金や婚姻時の住宅ローン残高、婚姻後の返済状況、不動産の現在の価値などによって、計算方法が変わってきます。

 不動産については、購入時期や名義だけで判断せず、資金の出所とローンの返済経過を確認する必要があります。

生命保険の特有財産性

 生命保険についても、婚姻前から加入しているものや、親が保険料を負担していたものは、特有財産が問題になることがあります。

 例えば、婚姻前に加入し、婚姻後も夫婦の収入から保険料を支払い続けていた積立型保険では、婚姻前に形成された部分と、婚姻後に形成された部分を区別して考える必要があります。

 この場合、婚姻時と別居時の解約返戻金の差額を参考にしたり、保険料の払込期間に応じて計算したりする方法が考えられます。

 また、親が保険料を全額負担していた場合や、婚姻前の預貯金から保険料を一括して支払っていた場合には、その事情が特有財産の判断に影響します。

 いずれにしても、保険証券だけでなく、解約返戻金の証明書や保険料の払込状況などを確認する必要があります。

婚姻前から保有していた株式・有価証券

 婚姻前に購入した株式や投資信託なども、原則として特有財産になります。

 ただし、婚姻後も同じ証券口座で売買を繰り返したり、婚姻後の収入から追加で投資したりしている場合には、特有財産と婚姻中に形成された財産が混在することがあります。

 このような場合には、単に婚姻前から証券口座を持っていたというだけでは、口座内の資産すべてが特有財産になるわけではありません。

 一方、婚姻前に購入した株式をそのまま保有している場合には、その株式が特有財産であることを比較的容易に説明できます。

 婚姻後に売却して別の株式を購入している場合でも、取引履歴などから資金の流れを確認できれば、特有財産として主張できる余地があります。

衣類や宝飾品などの扱い

 衣類や日常的に使用する身の回りの品など、社会通念上、一方の専用品と考えられるものは、通常、財産分与の対象にはなりません。

 一方、高額な宝飾品や腕時計など、財産的価値の高いものについては、婚姻中の夫婦の収入で購入した場合、財産分与の対象となることがあります。

 夫婦間で贈られたものであっても、必ずしも財産分与の対象から除外されるとは限りません。

 取得した経緯や金額、その財産の性質などによって判断が異なります。

特有財産を主張するために必要なこと

 特有財産が問題となる事件では、婚姻当時の預貯金通帳、相続や贈与に関する資料、不動産の売買契約書、住宅ローンの返済記録などが重要になります。

 特に、婚姻期間が長い場合には、古い資料が残っておらず、特有財産であることを証明するのが難しいこともあります。

 反対に、相手方が多額の特有財産を主張していても、その根拠が十分に示されていない場合があります。

 財産分与では、相手方が特有財産だと主張しているからといって、当然に認める必要はありません。

 その財産がいつ、どのような資金で取得され、財産分与の基準時までどのように管理されてきたのか。資料を確認しながら、一つずつ検討していくことになります。

子ども名義の預貯金は財産分与の対象になりますか?

 子どもが生まれたときに子ども名義の預金口座を開設し、将来の教育費などのために、お金を積み立てているご家庭は少なくありません。

 離婚に際して、このような子ども名義の預貯金を財産分与の対象にするかどうかが問題になることがあります。

 子ども名義の預貯金であっても、当然に財産分与の対象から外れるわけではありません。

 例えば、夫婦の給与から毎月一定額を子ども名義の口座に積み立て、実際には親が管理していた場合には、夫婦が協力して築いた財産として、財産分与の対象になることがあります。

 一方、子どもが祖父母などから贈与されたお金や、お年玉、子ども自身のアルバイト収入などを預金していた場合には、子ども自身の財産として、財産分与の対象にはなりません。

 また、夫婦の収入から積み立てた預金であっても、子どもに贈与する趣旨で積み立てられ、実際に子どもの財産となっている場合には、財産分与の対象から除外されることがあります。

 このように、子ども名義の預貯金については、お金の出所だけでなく、どのような目的で積み立てられ、誰の財産として管理されてきたのかを確認する必要があります。

 なお、子どもが幼いうちは、親が通帳やキャッシュカードを管理しているのが通常ですから、親が管理しているという事情だけで、直ちに夫婦の共有財産と判断できるわけでもありません。

子どものために預金を残しておくことはできるか

 実際の離婚協議では、子ども名義の預貯金について、夫婦双方が子どものために残しておくことで合意する場合もあります。

 例えば、将来の進学費用として積み立ててきた預金については、財産分与の対象から外し、離婚後も子どものために管理していくという方法です。

 仮に夫婦の共有財産に当たる預金であっても、双方が合意すれば、このような取り決めをすることは可能です。

 その場合には、離婚後に誰が通帳を管理し、どのような目的で使用するのかについても、できるだけ明確にしておくとよいでしょう。

 ただし、もともと子ども自身に帰属している預金であれば、夫婦の財産分与によって分けることはできません。

学資保険はどうなるのか

 学資保険についても、財産分与の対象となることがあります。

 通常、学資保険は父母の一方が契約者となり、夫婦の収入から保険料を支払っています。このような場合には、別居時の解約返戻金相当額を基準として、財産分与の対象とするのが一般的です。

 もっとも、財産分与のために学資保険を解約しなければならないわけではありません。

 実際には、離婚後も子どもの教育資金として積立てを続けられるよう、子どもを監護する側が契約を引き継ぐ方法も考えられます。

 その場合、学資保険を財産分与の対象から外すことで合意するのか、それとも解約返戻金相当額を財産分与の計算に含め、ほかの財産で調整するのかを決める必要があります。

 また、契約者の変更が必要になる場合には、保険会社での手続についても確認しておかなければなりません。

財産分与での動産の取り扱い

 離婚に際して、自宅にある家具や家電、生活用品などをどちらが取得するのかが問題になることがあります。

 もっとも、財産分与の実務では、預貯金や不動産などとは異なり、一般的な家具や家電について細かく評価し、金銭的に清算することはあまり行われていません。

 購入時には高額だった家具や家電でも、長年使用していれば、中古品としての価値はほとんどないことも多いからです。

 家庭裁判所でも、経済的価値が認められない動産については、財産分与の計算に含めず、当事者間の話し合いで分けるよう促されることが少なくありません。

 しかし、金銭的価値がないからといって、当事者にとって価値がないわけではありません。

 長年使ってきた家具や、思い出のある品物など、どうしても手元に残しておきたい物がある場合もあります。また、別居後の生活に必要な家具や家電をどちらが取得するかについて、意見が対立することもあります。

 金銭的な価値が乏しいために裁判所での判断を求めにくく、かえって解決が難しくなることもあるのが、動産の財産分与です。

 実際の離婚協議では、それぞれが必要な物を持ち出す、相手方が取得する物については引渡しを行う、不要な物は処分するなどの方法で解決することが多いと思います。

 動産の数が多い場合には、引き取る物を一覧にして、引渡しの時期や方法、運搬費用などについても取り決めておくと、後の紛争を避けやすくなります。

高級時計や宝飾品などの場合

 一方、高級腕時計や宝飾品、美術品など、相当の財産的価値がある動産については、財産分与の対象として検討する必要があります。

 例えば、婚姻中の収入で購入した高級腕時計については、一方が専用していたとしても、当然に財産分与の対象から外れるわけではありません。

 また、夫婦間で贈られた宝飾品などは、贈与の趣旨やその財産の性質、価値などによって、特有財産に当たるかどうかが問題になることがあります。

 こうした財産については、購入価格ではなく、財産分与における評価時点の時価を確認する必要があります。

 通常の家具や家電とは異なり、客観的な財産的価値を有する動産については、その価値を踏まえて財産分与を検討することになります。

財産分与でのペットの取り扱い

 離婚する際、夫婦で飼っていた犬や猫などのペットをどちらが引き取るのかについて、争いになることがあります。

 ペットは長年一緒に生活してきた家族のような存在ですから、双方が引取りを希望し、なかなか合意できない場合もあります。

 法律上、ペットは動産として扱われます。したがって、婚姻中に夫婦の財産で購入したペットなどは、財産分与の対象となり得ます。

 もっとも、一般的な犬や猫については、客観的な金銭的価値を評価することは困難です。

 そのため、財産分与では、どちらが引き取るかが問題になることが多いと思います。

どちらがペットを引き取るのか

 夫婦間で話し合いができるのであれば、これまで主に世話をしてきたのはどちらか、離婚後の住居で飼育を続けられるか、仕事などの生活状況から十分な世話ができるかといった事情を踏まえて、引取りについて協議することになります。

 例えば、別居後も一方が引き続きペットを飼育しており、その生活が安定している場合には、現在の飼育状況を維持することも解決方法の一つです。

 ただし、ペットについては、子どもの親権や監護者指定のような制度があるわけではありません。

 双方が引取りを強く希望している場合、法律的な手続によって必ずしも希望どおりの解決ができるとは限らず、協議が難航することもあります。

離婚後の飼育費用について

 ペットを引き取った後の餌代や医療費などについても、必要に応じて話し合っておくとよいでしょう。

 子どもの養育費とは異なり、ペットについて、離婚後に元配偶者が当然に飼育費用を支払うという制度はありません。

 通常は、ペットを引き取って飼育する側が費用を負担することになりますが、双方が合意すれば、一定の飼育費用を分担する取り決めも可能です。

 もっとも、離婚後も継続的に費用の支払いを求める関係を残すことになりますので、支払期間や金額などについて、慎重に検討する必要があります。

 また、ペットを引き取らない側が、離婚後も会いたいと希望することがあります。

 こうした交流についても、当事者間で取り決めることはできますが、子どもの親子交流のように法律上当然に認められる権利ではありません。

 ペットの引取りをめぐって対立している場合には、金銭的な評価だけで解決しようとせず、これまでの飼育状況や離婚後の生活環境を踏まえて、具体的な引取り方法を協議することになります。

事業用財産は財産分与の対象になりますか?

 夫婦の一方が個人事業を営んでいる場合、事業に使用している財産も、原則として財産分与の対象になります。

 例えば、飲食店を経営している場合の店舗設備や什器、建設業で使用している機械や工具、事業用の自動車などです。

 このほか、事業用の預貯金、不動産、売掛金、商品在庫なども、財産分与の対象となることがあります。

 これらの財産が事業主個人の名義になっていても、婚姻中に夫婦の協力によって形成されたものであれば、原則として財産分与の対象になります。

 妻が直接事業に従事していなかった場合でも、家事や育児を担うことによって夫の事業活動を支えてきたのであれば、財産形成への寄与が認められるのが通常です。

 一方、婚姻前から所有していた事業用財産や、相続した財産を原資として取得したものなどは、特有財産として分与の対象から除外される場合があります。

 また、婚姻前から事業を営んでいた場合には、婚姻前に形成された財産と、婚姻後に形成された財産を区別する必要があります。

事業用財産の評価と借入金の問題

 事業用財産の財産分与では、どのような財産があるのかを把握するとともに、それぞれの価値を評価する必要があります。

 例えば、事業用の機械や車両は、購入時には高額であっても、長年使用している場合には価値が大きく下がっていることがあります。

 また、帳簿上の価額が、そのまま財産分与における評価額になるとは限りません。

 事業用財産については、確定申告書や青色申告決算書、固定資産台帳などを確認し、必要に応じて現在の価値を検討することになります。

 さらに、事業用の借入金がある場合には、その扱いも問題になります。

 事業用財産を財産分与の対象とするのであれば、それを取得するための借入金など、事業に関係する負債についても併せて検討する必要があります。

 ただし、事業主が負っている借金を、当然に夫婦で半分ずつ負担するという意味ではありません。

 借入金の使途や事業用財産との関係などを確認したうえで、財産分与の計算にどのように反映させるかを検討します。

事業を続けながら財産分与を行うには

 事業用財産の場合、単純に財産を半分ずつ分けることができないこともあります。

 例えば、夫が飲食店を経営している場合、店舗設備や厨房機器を妻に半分引き渡すという方法は、現実的ではありません。

 通常は、事業を続ける側が設備などを引き続き保有し、その価値を財産分与の計算に含めて、金銭などで清算する方法が考えられます。

 もっとも、事業用財産の評価額が高額であっても、それに見合う預貯金があるとは限りません。

 そのため、事業主が財産分与として多額の金銭を支払う必要がある場合には、支払方法をめぐって協議が難航することもあります。

 事業用財産については、対象となる財産と負債を正確に把握し、事業の継続にも配慮しながら、具体的な分与方法を検討することになります。

③財産分与と基準時(いつ・いくらで分けるか)

財産分与の基準時(いつの時点での財産を分けるのか)

 離婚に離婚に先立って別居した場合、別居後に増えたり減ったりした財産を、どのように扱うのかが問題になります。

 例えば、別居後に夫が仕事を続けて預貯金を増やした場合、その増加分も財産分与の対象になるのでしょうか。

 財産分与では、夫婦が協力して築いた財産を清算するため、夫婦の経済的な協力関係が終了した時点を基準として、分与の対象となる財産を確定します。

 この時点を「財産分与の基準時」といいます。

 通常、財産分与の基準時は、夫婦が別居を開始した日になります。

 例えば、夫婦が令和6年4月1日に別居した場合には、原則として、その日に夫婦それぞれが保有していた預貯金や株式、生命保険などが財産分与の対象となります。

 別居後に仕事の収入から新たに蓄えた預貯金などは、通常、財産分与の対象にはなりません。

 もっとも、別居後の財産の増減が全く考慮されないわけではありません。別居後も夫婦の経済的な協力関係が継続していた場合や、財産の変動を考慮しなければ公平を欠く事情がある場合には、個別に検討する必要があります。

家庭内別居の場合

 同じ家に住みながら、夫婦関係が悪化し、長期間ほとんど会話をしていないというケースもあります。

 しかし、家庭内別居の状態にあったというだけで、その開始時点が財産分与の基準時になるわけではありません。

 同居している間は、住居費や生活費などを通じた経済的な協力関係が続いていることが多く、それが終了したと判断するのは容易ではないからです。

 また、夫婦関係が悪化した時期を客観的に特定することも困難です。

 そのため、家庭内別居の開始時点を基準時とする主張は、一般に認められにくいと考えられます。

 同居したまま離婚調停を申し立てた場合には、調停申立日などを基準時とすることがあります。

単身赴任などで別々に暮らしている場合

 単身赴任や子どもの進学などの事情から、夫婦が別々に生活していることもあります。

 このような場合、住居が別になっただけでは、財産分与の基準時となる別居には当たりません。

 単身赴任中も生活費を送金するなど、夫婦の経済的な協力関係が続いているのが通常だからです。

 もっとも、単身赴任中に夫婦関係が悪化し、その後、経済的な協力関係も終了した場合には、いつを基準時とするかが問題になります。

 そのような場合、離婚調停の申立日を基準時とすることもありますが、別居に至った経緯や生活状況などを確認する必要があります。

 また、別居後に荷物を取りに自宅に戻ったり、一時的に立ち寄ったりしただけで、同居が再開したことにはなりません。

基準時に争いがある場合

 実際の財産分与では、基準時について夫婦の意見が対立することもあります。

 特に、単身赴任中に夫婦関係が悪化した場合や、週末だけ自宅に帰る生活を続けた後、次第に帰宅しなくなった場合などは、別居開始日が明確でないことがあります。

 このような場合には、それまでの生活状況や経済的な協力関係が終了した経緯などから、基準時を検討することになります。

 基準時が変われば、財産分与の対象となる預貯金の残高なども変わることがあります。

 そのため、別居日について争いがある場合には、それぞれの主張する基準時における財産の状況を確認し、必要な資料を整理することになります。

財産分与は別居時と離婚時のどちらの価格で計算する?

 財産分与では、どの時点に存在した財産を分けるのかという問題と、その財産をいつの時点の価格で評価するのかという問題を、区別して考える必要があります。

 例えば、別居時に夫が株式を保有していた場合、その株式は財産分与の対象になります。

 しかし、別居から離婚成立までに株価が大きく変動することがあります。この場合、別居時の株価と離婚時の株価のどちらを用いるのかが問題になります。

 財産分与の対象となる財産は、原則として別居時を基準に確定しますが、その評価額については、財産の種類によって扱いが異なります。

預貯金・生命保険の評価

 預貯金については、原則として別居時の残高を基準とします。

 例えば、別居時に夫名義の預金が1,000万円あった場合、その後、夫が生活費などに使って残高が500万円になったとしても、通常は別居時の1,000万円を財産分与の計算に用います。

 ただし、別居後の預金の使途や財産の変動について、個別に考慮すべき事情がある場合もあります。

 また、積立型の生命保険についても、原則として別居時に解約したと仮定した場合の解約返戻金相当額で評価します。

株式・投資信託の評価

 これに対し、株式や投資信託など、価格が変動する財産については、原則として離婚時に近い時点の価格を用います。

 例えば、別居時に夫が100株の上場株式を保有していた場合、財産分与の対象となるのは、原則として別居時に保有していた100株です。

 その後、株価が変動した場合には、調停成立時や訴訟の口頭弁論終結時に近い時点の株価を用いて評価することになります。

 別居時の株価が1万円であっても、離婚時に近い時点で7,000円になっていれば、原則として100株を70万円と評価することになります。

 反対に、株価が上昇していれば、その上昇後の価格を用います。

 なお、別居後に株式を売却している場合には、実際の売却価格を基準に評価することがあります。

不動産の評価

 不動産についても、別居時と離婚時で価格が変動することがあります。

 一般には、離婚時に近い時点の時価を用いて評価することが多いのですが、住宅ローンの返済状況や別居後の居住状況などによっては、別居時の評価額を用いる場合もあります。

 例えば、別居後も夫が住宅ローンの返済を続けていた場合には、不動産の評価時点と住宅ローン残高をどの時点で捉えるかによって、財産分与の計算結果が異なることがあります。

 そのため、不動産については、現在の時価だけでなく、別居時の住宅ローン残高や別居後の返済状況なども確認する必要があります。

 不動産の評価額そのものについて争いがある場合には、不動産業者の査定書などを提出し、適切な評価額を検討することになります。

評価時点が争いになる場合

 財産分与の対象に株式や不動産などが含まれている場合には、評価時点の違いによって、分与額に大きな差が生じることがあります。

 また、別居後に財産が売却されたり、住宅ローンが返済されたりしている場合には、単純に別居時の金額や現在の金額を用いるだけでは、適切な計算にならないこともあります。

 実際の財産分与では、財産ごとに評価時点と評価方法を整理し、必要な資料を確認したうえで、分与額を算定することになります。

別居直前に引き出された預貯金は財産分与の対象になる?

 財産分与では、原則として別居時に存在した財産を対象とします。

 そのため、別居の直前に夫婦の一方が預貯金を引き出していた場合、そのお金を財産分与でどのように扱うのかが問題になることがあります。

 例えば、夫名義の預金口座から、別居の数週間前に300万円が引き出されていたとします。

 夫がその300万円を現金で保管していたのであれば、当然、財産分与の対象になります。

 一方、通常の生活費や子どもの教育費、医療費などとして既に使われていたのであれば、別居時には存在しない財産ですから、原則として財産分与の対象にはなりません。

 しかし、多額の預金が引き出されているにもかかわらず、その使途について合理的な説明がなされない場合には、別の問題が生じます。

 例えば、別居の直前に数百万円が引き出されているのに、夫が「生活費として使った」と述べるだけで、具体的な使途を説明できない場合です。

 このような場合、裁判所が、引き出された預金は別居時にも現金などの形で残っていたと推認し、財産分与の対象に含めて計算することがあります。

 もっとも、使途を十分に説明できないというだけで、必ずその全額が財産分与の対象になるわけではありません。

 払戻しの時期や金額、それまでの生活費の支出状況、別の口座への入金の有無などを確認して判断することになります。

 また、別居の何か月前までの払戻しが問題になるのかについても、一律の基準があるわけではありません。別居までの期間だけでなく、払戻しの経緯や金額、使途などが問題になります。

 実際の事件では、別居時の預金残高だけを確認するのではなく、別居前の一定期間の取引履歴を調べることによって、多額の払戻しや不自然な資金移動が判明することがあります。

 相手方が財産を十分に開示していない場合には、こうした取引履歴を確認し、払戻金の行方について説明を求めていくことになります。

別居時に配偶者が持ち出した財産はどう扱われるか

 夫婦が別居する際、一方が自宅から現金や預金通帳、貴金属などを持ち出すことがあります。

 特に問題になりやすいのは、他方配偶者名義の預金通帳やキャッシュカードを持ち出し、預金を引き出してしまうケースです。

 例えば、妻が子どもを連れて別居する際、夫名義の預金口座から100万円を引き出し、当面の生活費として使用した場合です。

 このような場合、持ち出した預金が夫婦の共有財産であれば、原則として財産分与の際に清算することになります。

 別居の際に持ち出したからといって、その財産が当然に持ち出した側のものになるわけではありません。

 例えば、別居時の夫婦の共有財産が夫名義の預金300万円だけであり、別居後、妻がその口座から100万円を引き出したとします。

 この場合、夫婦の共有財産は300万円ですから、それぞれの取得分は150万円となります。

 妻が引き出した100万円を財産分与の先取りとして扱うのであれば、妻が追加で受け取る金額は50万円となります。

 ただし、実際には、持ち出した財産の性質や使途などによって、異なる扱いを検討する必要があります。

持ち出した預貯金を生活費に使っていた場合

 別居後、相手方から婚姻費用が支払われず、持ち出した預金を自分や子どもの生活費に使っていたというケースもあります。

 この場合、財産分与とは別に、未払婚姻費用との関係が問題になります。

 例えば、妻が別居時に持ち出した預金30万円を生活費に使い、その間に夫が支払うべき婚姻費用が50万円発生していた場合です。

 当事者間の協議では、持ち出した30万円を婚姻費用の支払いに充てたものとして扱い、残額20万円を支払うという解決も考えられます。

 もっとも、持ち出した預金が当然に婚姻費用へ充当されるわけではありません。

 裁判実務では、持ち出した共有財産については、原則として財産分与で清算し、婚姻費用とは区別して考える立場が採られています。

 一方、持ち出した金額が多額であり、それを生活費に充てることについて相手方も容認していた場合などには、婚姻費用の前払いとして考慮した裁判例もあります。

 したがって、持ち出した預金の金額や使途、別居後の生活状況、婚姻費用の支払状況などを確認し、どのように清算するのかを検討する必要があります。

 また、別居時に持ち出された財産が、相手方の婚姻前からの預金や相続財産などの特有財産であった場合には、夫婦の共有財産とは区別して考える必要があります。

 持ち出した財産がある場合には、その内容や金額を明らかにしたうえで、財産分与と婚姻費用の問題を整理していくことになります。

④不動産・住宅ローン・事業用財産がある場合

住宅ローンが残っている家の財産分与|売却・名義変更・オーバーローン

 離婚に際して、住宅ローンが残っている自宅をどうするかは、解決が難しい問題の一つです。

 特に、夫名義の自宅に妻と子どもが住んでいる場合には、離婚後も住み続けられるのか、住宅ローンは誰が支払うのか、所有名義を変更できるのかといった問題が生じます。

 住宅ローンが残っている不動産については、まず現在の時価と住宅ローンの残高を確認する必要があります。

①住宅の時価が住宅ローン残高を上回る場合(アンダーローン)

 住宅の時価が住宅ローン残高を上回っている場合には、原則として、時価から住宅ローン残高を控除した金額が、財産分与の計算上の不動産の価値になります。

 例えば、住宅の時価が3,000万円、住宅ローン残高が2,000万円であれば、差額の1,000万円が財産分与の対象となる価値です。

 夫が住宅を取得するのであれば、妻に対して、その2分の1に相当する500万円を支払う方法が考えられます。ただし、実際には、他の預貯金や株式、特有財産の有無なども含めて、財産分与全体で調整することになります。

 反対に、妻が住宅を取得して住み続けたい場合には、夫への金銭の支払いに加え、住宅ローンをどうするかが問題になります。

 双方が自宅を取得することを希望しない場合には、売却して住宅ローンを完済し、残った金額を分ける方法もあります。

②住宅ローン残高が住宅の時価を上回る場合(オーバーローン)

 住宅の時価より住宅ローン残高の方が多い状態を、オーバーローンといいます。

 例えば、住宅の時価が2,500万円であるのに対し、住宅ローンが3,000万円残っている場合です。

 この場合、住宅を売却してもローンを完済できないため、住宅そのものについては、財産分与によって分けられる余剰価値がないことになります。

 もっとも、オーバーローンだからといって、必ず現在の所有者が住宅を取得しなければならないわけではありません。

 売却する場合には、不足額を自己資金などで補う方法や、金融機関の同意を得て任意売却する方法も考えられます。

 ただし、金融機関は通常、ローンが完済されないまま抵当権を抹消することには応じませんので、売却には金融機関との調整が必要になります。

 また、オーバーローンとなっている住宅の負債を、夫婦の他の共有財産からどこまで控除するかについても問題になることがあります。

 住宅の評価額をゼロとして他の財産を分ける方法が考えられる一方、住宅ローンを含む負債と他の財産を通算して検討する場合もあります。裁判例でも、個別の事情に応じた判断がなされています。

 したがって、オーバーローンの住宅があるからといって、それだけで財産分与ができなくなるわけではありません。

③離婚後も妻と子どもが自宅に住み続ける場合

 離婚後も、子どもの学校や生活環境を変えたくないなどの理由から、現在の自宅に住み続けることを希望される方もいらっしゃいます。

 例えば、夫名義の住宅について、離婚後も妻と子どもが無償で居住し、夫が住宅ローンを支払い続けるという合意をする場合です。

 このような方法は、当面の生活を維持するための解決策となります。

 ただし、住宅の所有名義が夫のままであれば、妻がその住宅を自由に処分できるわけではありません。また、夫がローンの支払いを止めれば、抵当権が実行され、妻と子どもが自宅を失うおそれがあります。

 そのため、いつまで居住できるのか、住宅ローンや固定資産税、修繕費を誰が負担するのかなどについて、離婚協議書や調停条項で明確にしておく必要があります。

 また、住宅ローンの契約内容によっては、債務者本人が居住しなくなることが問題となる場合もありますので、金融機関への確認も必要です。

④住宅の所有名義を変更する場合

 夫名義の住宅を財産分与によって妻名義に変更し、妻が住み続けるという方法もあります。

 しかし、住宅ローンが残っている場合、夫婦間で名義変更に合意したからといって、自由に所有権移転登記ができるとは限りません。

 住宅ローン契約では、金融機関の承諾を得ずに担保不動産の所有権を移転することが制限されている場合が多いためです。

 また、仮に妻名義への所有権移転登記ができたとしても、それによって夫の住宅ローン債務がなくなるわけではありません。

 夫がローンの債務者のままであれば、妻が取得した住宅には、引き続き夫の債務を担保する抵当権が設定された状態になります。

 夫が支払いを停止すれば、妻名義になった住宅であっても、競売にかけられる危険があります。

 こうした問題を避けるためには、妻が新たに住宅ローンを借り入れて夫のローンを完済する方法や、金融機関の承諾を得て債務者を変更する方法などを検討することになります。

 もっとも、妻の収入や年齢、住宅ローンの残高などによっては、借換えの審査が通らない場合もあります。

 住宅の名義変更を伴う財産分与では、夫婦間の合意に先立って、金融機関との調整が可能かどうかを確認しておくことが重要です。

⑤連帯債務・連帯保証がある場合の注意点

 財産分与では、原則として別居時の財産を対象にします。

 そのため、別居後に夫婦の一方が自分の収入から住宅ローンを返済していた場合、その返済によって減少したローン残高をどのように扱うかが問題になります。

 例えば、別居時に住宅ローンが2,000万円残っていたものの、離婚時には1,500万円に減少している場合です。

 別居後の返済が一方の収入によって行われたのであれば、その返済による利益を当然に夫婦で半分ずつ分けることは適切でない場合があります。

 そこで、住宅ローンについては、別居時の残高を基準として財産分与を計算する方法が考えられます。

 もっとも、不動産の評価時点や別居後の居住状況などによっては、離婚時に近い時点の住宅ローン残高を用いることもあります。

 例えば、夫が住宅ローンを支払いながら、妻と子どもがその住宅に住み続けていた場合には、別居後の住宅ローン返済と婚姻費用の負担との関係も問題となることがあります。

 別居後の返済については、誰がどのような資金で支払ってきたのか、誰が住宅に居住していたのかなどを確認して、具体的な計算方法を検討する必要があります。

連帯債務・連帯保証がある場合

 住宅ローンについて、夫婦が連帯債務者になっていたり、一方が他方の連帯保証人になっていたりする場合には、さらに注意が必要です。

 また、最近では、夫婦がそれぞれ住宅ローンを組む「ペアローン」も利用されています。

 ペアローンは、夫婦がそれぞれ別の住宅ローン契約を締結し、同じ住宅の購入資金を借り入れる方法です。通常は住宅も夫婦の共有名義とされ、互いに相手方のローンの連帯保証人となっている場合もあります。

 このような場合、離婚後に一方が住宅を取得することになっても、他方の住宅ローン債務や連帯保証債務が当然になくなるわけではありません。

 例えば、妻が住宅を取得して住み続けるのであれば、夫名義の住宅ローンを完済するための借換えなどを検討する必要があります。しかし、妻の収入だけでは借換えが認められず、住宅を取得することが難しい場合もあります。

 ペアローンについては、夫婦それぞれのローン残高、所有持分、連帯保証の有無を確認し、離婚後の債務関係をどのように整理できるかを検討する必要があります。

 また、ペアローンに限らず、例えば、夫が住宅を取得し、離婚後もローンを返済することになったとしても、妻が連帯保証人であれば、その責任が当然になくなるわけではありません。

 夫が返済を怠れば、金融機関から妻に対して支払いを請求されるおそれがあります。

 離婚協議書や調停条項で「夫が住宅ローンを全額負担する」と定めても、その合意によって金融機関が拘束されるわけではありません。

 妻が連帯債務や連帯保証から外れるためには、金融機関の承諾が必要になります。

 しかし、もともと夫婦双方の収入や信用力を前提に融資が行われている場合には、金融機関が免責に応じないことも少なくありません。

 実際の離婚協議では、住宅を取得する側が借換えを行ったり、新たな保証人を立てたりする方法を検討することになります。

 単に「夫は妻を連帯保証から外すよう努力する」という条項を設けるだけでは、妻の保証債務が残ってしまう可能性がありますので、事前に金融機関と協議し、実現できる見通しを確認しておく必要があります。

 住宅ローンが残っている自宅については、夫婦間で財産分与の条件がまとまっても、それだけでは解決できない問題があります。

 特に、住宅の名義変更や住宅ローンの借換え、連帯保証の解除などは、金融機関の協力がなければ実現できません。

 自宅をどちらが取得するかだけでなく、住宅ローンを完済するまでの責任を誰が負い、その取り決めを実際に履行できるのかまで確認したうえで、離婚条件を定める必要があります。

離婚時の不動産の財産分与にかかる税金|譲渡所得税・不動産取得税・登録免許税

 離婚に伴い、夫名義の自宅を妻が取得する場合などには、不動産の所有権移転登記が必要になります。

 この際、名義変更に伴って税金が発生することがあります。

 特に注意したいのは、不動産を渡す側と受け取る側では、課税される税金が異なることです。

 また、離婚前に名義変更をするのか、離婚成立後に財産分与として名義変更をするのかによっても、税金の扱いが変わります。

①離婚前に名義変更すると贈与税が問題になる

 例えば、夫名義の自宅を、離婚が成立する前に妻名義へ変更する場合です。

 婚姻中に夫から妻へ不動産を無償で移転すると、原則として贈与税の対象になります。

 不動産は高額であることが多いため、贈与税の負担が大きくなる可能性があります。

 もっとも、婚姻期間が20年以上の夫婦の場合には、居住用不動産の贈与について、贈与税の配偶者控除を利用できることがあります。

 この制度では、一定の要件を満たす場合、通常の基礎控除110万円に加えて、最高2,000万円まで控除を受けることができます。

 ただし、対象となるのは居住用不動産などに限られ、贈与後の居住要件もあります。また、特例を利用するためには贈与税の申告が必要です。

 さらに、贈与税の配偶者控除が適用されても、不動産取得税や登録免許税まで非課税になるわけではありません。

 したがって、離婚を予定している場合には、離婚前に不動産の名義を変更する必要があるのか、慎重に検討する必要があります。

②財産分与による名義変更は離婚成立後に行う

 離婚に伴う財産分与として不動産を取得した場合には、通常、取得した側に贈与税は課税されません。

 これは、財産分与が、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産の清算などを目的とするものであり、通常の贈与とは異なるためです。

 ただし、財産分与として取得した財産が、夫婦の財産状況などに照らして著しく過大である場合には、その過大な部分について贈与税が課税されることがあります。

 また、財産分与を原因とする所有権移転登記は、離婚の成立前に行うことはできません。

 離婚前に財産分与について合意することはできますが、実際の所有権移転は、離婚成立後に行う必要があります。

 例えば、離婚協議書で「夫は妻に対し、離婚に伴う財産分与として自宅不動産を譲渡する」と合意し、離婚届を提出した後に、財産分与を原因とする所有権移転登記を行う方法です。

 離婚前に名義変更だけを済ませてしまうと、税務上、贈与として扱われる可能性がありますので、名義変更の時期には注意が必要です。

③不動産を取得する側にかかる不動産取得税

 財産分与によって不動産を取得した場合、不動産取得税が問題になります。

 不動産取得税は都道府県税であり、不動産を取得した人に課税される税金です。

 離婚に伴う財産分与については、婚姻中に形成した財産を清算するという性質から、非課税として取り扱われる場合があると説明されることがあります。

 しかし、財産分与による取得が当然に非課税となるわけではありません。

 兵庫県では、財産分与による不動産の取得も、不動産取得税の課税対象とされています)。

 したがって、神戸市内の自宅を財産分与によって取得する場合にも、不動産取得税が発生することを想定しておく必要があります(兵庫県が公表している「不動産取得税のあらまし」(令和8年度版)では、財産分与による不動産の取得も課税対象になると明記されています。ただし、具体的な課税の有無や住宅に関する軽減措置については、事前に管轄の県税事務所に確認する必要があります)。

 不動産取得税の税額は、原則として固定資産税評価額を基礎に計算されます。現在、住宅や土地には税率の軽減措置が設けられていますが、適用される税率や軽減措置は取得時期などによって異なります。

 実際に財産分与として不動産を取得する場合には、あらかじめ管轄の県税事務所に確認しておく必要があります。

④不動産を渡す側には譲渡所得税がかかることがある

 不動産の財産分与で、特に注意しておきたいのが譲渡所得税です。

 例えば、夫が自宅を妻に財産分与した場合、夫は売却代金を受け取っていません。

 しかし、税法上は、財産分与として不動産を渡した場合にも、その時点の時価で譲渡したものとして扱われます。

 そのため、不動産の時価が取得費などを上回っている場合には、不動産を渡した夫に譲渡所得税が課税される可能性があります。

 譲渡所得は、基本的には次のように計算します。

 譲渡所得=財産分与時の不動産の時価-(取得費+譲渡費用)

 取得費には、購入時の代金などが含まれますが、建物については減価償却相当額を考慮する必要があります。

 したがって、購入時より不動産価格が上昇している場合には、譲渡所得が生じることがあります。

 なお、住宅ローンが残っていることと、譲渡所得が発生することは別の問題です。

 住宅ローン残高が多額であっても、不動産の時価と取得費などの関係によっては、譲渡所得税が発生する場合があります。

⑤居住用財産の3000万円特別控除

 もっとも、自宅を財産分与する場合には、居住用財産の譲渡所得に関する3,000万円の特別控除を利用できることがあります。

 この特例は、一定の要件を満たす居住用不動産の譲渡について、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。

 ただし、夫婦間の譲渡など、特別な関係にある者への譲渡には適用されません。

 そのため、夫から妻へ自宅を移転する場合には、離婚が成立した後に財産分与を行うことが、特例の適用を検討するうえでも重要になります。

 もっとも、離婚後の財産分与であれば、必ず3,000万円の特別控除を利用できるというわけではありません。

 例えば、夫が既に自宅を出て長期間別居していた場合には、居住用財産に該当するかどうかが問題になることがあります。

 以前住んでいた自宅については、原則として、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡する必要があります。

 また、過去に特例を利用していた場合など、ほかの要件もあります。

 したがって、離婚後に不動産を財産分与する場合でも、3,000万円の特別控除を利用できるかどうかについて、事前に確認する必要があります。

 なお、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が10年を超える居住用不動産については、一定の要件を満たす場合、譲渡所得税の軽減税率の特例が適用されることもあります。

⑥所有権移転登記に必要な登録免許税

 不動産を財産分与によって取得し、所有権移転登記を行う際には、登録免許税が必要になります。

 財産分与を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、原則として固定資産税評価額の2%です。

 例えば、固定資産税評価額が2,000万円の不動産であれば、登録免許税は40万円になります。

 不動産の時価が2,000万円であるという意味ではありませんので、固定資産税評価額を確認する必要があります。

 また、登記を司法書士に依頼する場合には、登録免許税とは別に司法書士報酬なども必要になります。

 登録免許税や登記費用をどちらが負担するかについては、離婚協議や調停の中で取り決めておくとよいでしょう。

⑦固定資産税の負担について

 自宅を財産分与する場合には、固定資産税の負担についても決めておく必要があります。

 固定資産税は、原則として毎年1月1日時点の所有者に課税されます。

 そのため、年の途中で所有権を移転しても、その年度の固定資産税の納税義務者が当然に変更されるわけではありません。

 例えば、夫名義の住宅を7月に妻名義へ変更した場合、その年度の固定資産税は、原則として夫に課税されます。

 もっとも、夫婦間の合意によって、所有権移転日以降の固定資産税相当額を妻が負担するなどの取り決めをすることは可能です。

 固定資産税についても、名義変更の時期を踏まえて、負担方法を明確にしておく必要があります。

 不動産の財産分与では、財産分与そのものについて合意できても、思わぬ税負担が生じることがあります。

 特に、不動産を渡す側の譲渡所得税と、受け取る側の不動産取得税は、金額が大きくなる場合もあります。

 そのため、不動産を財産分与することが決まった段階ではなく、誰が不動産を取得するのか、いつ名義を変更するのかを協議する段階で、税金についても確認しておく必要があります。

夫が会社経営者・自営業者の場合の財産分与|自社株式・会社財産の評価

 夫が会社経営者や自営業者である場合、離婚に伴う財産分与では、一般の給与所得者とは異なる問題が生じることがあります。

 会社経営者の場合、夫個人の預貯金や不動産だけでなく、夫が保有する会社の株式や会社に対する貸付金なども、財産分与の対象となる可能性があります。

 特に、婚姻期間中に夫が会社を設立し、その事業が成長している場合には、自社株式が高額に評価されることもあります。

 しかし、妻が会社の経営に関与していない場合、会社の財産状況や株式の価値を正確に把握することは容易ではありません。

 そのため、夫から開示された個人名義の財産だけを前提に財産分与を進めると、本来検討すべき財産を見落としてしまうおそれがあります。

夫が経営する会社の株式も財産分与の対象になる

 夫が株式会社を経営し、その株式を保有している場合、株式は夫個人の財産です。

 婚姻期間中に夫婦の協力によって取得・形成された株式については、原則として財産分与の対象となります。

 例えば、夫が婚姻後に会社を設立し、事業を拡大してきた場合には、会社の株式が相当な価値を有していることがあります。

 この場合、会社名義の預貯金や不動産を直接分与するのではなく、夫が保有する株式の価値を評価し、財産分与額を算定することが考えられます。

 妻が会社で働いていなかったとしても、家事や育児を担当するなどして婚姻生活を支えてきた場合には、その協力も財産形成への寄与として評価されます。

 なお、株式を夫婦で半分ずつ保有する必要はなく、夫が株式を引き続き保有し、妻に対して金銭を支払う方法で清算することが一般的です。

非上場株式の評価は容易ではない

 会社経営者の財産分与で大きな問題となるのが、非上場株式の評価です。

 上場株式であれば市場価格を確認できますが、非上場会社には市場で取引される株価がありません。

 そのため、会社の決算書などをもとに、純資産や収益状況、負債の内容などを確認し、株式の価値を検討する必要があります。

 例えば、会社に多額の預貯金や不動産がある場合、株式が高額に評価される可能性があります。

 一方、会社に多額の借入金がある場合や、経営者個人の能力に収益が大きく依存している場合には、その事情も評価に影響することがあります。

 また、相続税の申告に用いられる非上場株式の評価額が、離婚の財産分与でもそのまま採用されるとは限りません。

 株式の価値について争いがある場合には、会社の財務資料を確認し、適切な評価方法を検討することになります。

婚姻前から夫が経営していた会社の場合

 夫が結婚する前から会社を経営し、株式を保有していた場合には、特有財産の問題が生じます。

 婚姻前から保有していた株式は、原則として夫の特有財産となります。

 もっとも、婚姻期間中に会社の規模が大きく拡大し、株式の価値が上昇している場合には、その価値の増加について、妻の寄与をどのように評価するかが問題となることがあります。

 例えば、妻が会社の経理や事務を担当していた場合や、夫の事業活動を支えるために家事・育児の大部分を担っていた場合などです。

 ただし、婚姻中に会社の価値が上昇したからといって、その増加分が当然に財産分与の対象となるわけではありません。

 会社の設立時期、株式の取得経緯、価値が上昇した理由、夫婦双方の寄与などを踏まえた検討が必要です。

会社名義の財産と夫個人の財産は区別する

 会社が保有する預貯金や不動産、自動車などは、原則として会社の財産であり、夫個人の財産ではありません。

 そのため、夫が会社の代表者であっても、会社名義の財産をそのまま夫婦で分けることはできません。

 しかし、会社の財産状況は、夫が保有する株式の評価に影響することがあります。

 また、夫が会社に対して貸し付けた金銭がある場合には、その貸付金債権が夫個人の財産として、財産分与の対象となる可能性があります。

 反対に、夫が会社から借入れをしている場合には、その借入金の性質や返済状況などを確認する必要があります。

 会社経営者の財産分与では、会社と夫個人の財産関係を正確に整理することが重要です。

役員退職金や小規模企業共済も確認する

 会社経営者の場合、通常の預貯金や株式以外にも、退職金に関係する財産が存在することがあります。

 例えば、役員退職金制度や小規模企業共済などです。

 これらについても、制度の内容や将来の支給可能性、婚姻期間との関係などによって、財産分与の対象となる場合があります。

 もっとも、将来支給される役員退職金については、支給の確実性や金額をどのように評価するかが問題となります。

 また、会社が退職金の原資として生命保険に加入している場合でも、その保険契約が会社の財産であるならば、当然に夫個人の財産として分与できるわけではありません。

個人事業主の場合の財産分与

 夫が法人を設立せず、個人事業主として事業を営んでいる場合には、会社経営者とは異なる検討が必要です。

 個人事業主の場合、事業用の預貯金や不動産、設備なども、原則として事業主個人に帰属する財産です。

 そのため、婚姻期間中に形成された事業用財産については、財産分与の対象となる可能性があります。

 もっとも、事業用の借入金や買掛金などの負債がある場合には、その内容も確認する必要があります。

 事業用財産の評価に当たっては、確定申告書や貸借対照表などの資料が重要になります。

会社の財産状況が分からない場合

 夫が会社を経営している場合、妻が会社の決算書などを見たことがなく、会社の財産状況を把握していないこともあります。

 このような場合には、まず、会社の決算書、株主構成、夫と会社との金銭の貸借関係などについて資料の提出を求めることになります。

 夫が任意に資料を提出しない場合には、離婚調停や訴訟の手続において、必要な資料の提出や調査を求めることも検討します。

 ただし、裁判所の手続を利用すれば、会社の内部資料をすべて取得できるわけではありません。調査の必要性や対象資料の特定が問題となります。

 また、夫が会社を経営している場合には、個人の預貯金などについても、会社との間の資金移動を確認することで、別の財産の存在が判明することがあります。

会社経営者との離婚では、財産の全体像を確認する

 会社経営者や自営業者の財産分与では、夫個人の預貯金や不動産だけを確認しても、財産の全体像を把握できない場合があります。

 特に、夫が会社の株式を保有している場合には、その評価額によって財産分与の金額が大きく変わる可能性があります。

 一方、会社の財産をすべて夫個人の財産とみなすことはできず、会社の負債や株式の取得経緯なども確認する必要があります。

 当事務所では、一般的な財産分与事件に加え、会社経営者や自営業者の財産が問題となる離婚事件についても、財産の内容や評価方法を検討しています。

 夫が経営する会社の財産状況が分からない場合や、自社株式の評価が問題となる場合には、個人名義の財産だけで判断せず、会社関係の資料も含めて確認することが必要です。

⑤将来財産・収入に関する問題

将来の退職金の財産分与|計算方法と支払時期

 離婚に際して、「まだ退職していないのに、将来受け取る退職金まで財産分与の対象になるのか」という問題が生じることがあります。

 退職金は、在職期間中の労務提供に対する後払いの賃金という性質を有するため、婚姻期間中に形成された部分については、原則として財産分与の対象となります。

既に受け取っている退職金の場合

 既に退職金を受領している場合には、原則として、財産分与の基準時(通常は別居時)に残っている財産が分与の対象となります。

 例えば、退職金を受け取って預貯金として保有している場合には、その預貯金が財産分与の対象となります。ただし、婚姻前の勤務期間に対応する部分については、特有財産として分与対象から除外する必要があります。

 また、退職金を既に生活費などに使用している場合には、基準時に残っている財産の有無や使途などが問題となります。

まだ受け取っていない退職金(将来の退職金)の場合

 離婚時に、すでに退職金を受領している場合には、婚姻期間に対応する部分は、当然に財産分与の対象となります。
 婚姻前・別居後の勤務期間に対応する部分は、分与対象から除外して整理します。

まだ受け取っていない退職金(将来の退職金)の場合

 退職金がまだ支給されていない場合でも、将来支給される見込みがあれば、財産分与の対象となります。

 実務上は、別居時点で自己都合退職したと仮定した場合の退職金額を算定し、そのうち婚姻期間に対応する部分を分与対象とする方法が一般的です。

 例えば、別居時点での勤続年数が30年、そのうち婚姻期間が20年であり、別居時に自己都合退職した場合の退職金見込額が1,500万円であったとします。

 この場合、財産分与の対象となる退職金は、

1,500万円 × 20年 ÷ 30年 = 1,000万円

 となります。

 財産分与の割合を2分の1とすると、退職金について相手方に分与する金額は500万円となります。

 このように、将来の定年退職時に受け取る予定の退職金全額を対象とするのではなく、別居時点までに形成された退職金のうち、婚姻期間に対応する部分を算定するのが基本的な考え方です。

 もっとも、退職金制度の内容や将来の支給可能性などによって、具体的な評価方法が問題となる場合もあります。

実務上の大きな問題点は支払時期

 将来の退職金については、分与対象額の算定だけでなく、いつ支払うのかという問題があります。

 例えば、退職金について500万円を分与することになっても、退職まで10年以上ある場合には、支払義務を負う側が離婚時点で500万円を用意できるとは限りません。

 このような場合には、主として次のような方法が考えられます。

  • 離婚時に清算する方法
    預貯金などの他の財産と調整し、離婚時に退職金相当額を清算する方法です。

  • 実際に退職金が支給されたときに支払う方法
    退職金の支給を受けた時点で、あらかじめ定めた金額を相手方に支払う方法です。

 退職時に支払う方法については、退職金が実際に支給されるまで相当の期間がある場合にも採用されることがあります。

 ただし、将来の支払時期が不確定となるため、離婚協議や調停で合意する場合には、支払金額、支払期限、退職金が支給されなかった場合の取り扱いなどを検討しておく必要があります。

退職金の算定資料はどのようにして集めるか

 退職金の財産分与を検討する際には、客観的な算定資料を確保することが重要です。

 勤務先に退職金制度がある場合には、別居時点で自己都合退職したと仮定した場合の「退職金見込額証明書」を取得する方法があります。

 勤務先が証明書を発行しない場合でも、就業規則や退職金規程、勤続年数、給与額などから退職金額を算定できることがあります。

 相手方が退職金の資料を提出しない場合には、調停や訴訟の手続において、資料の提出を求めることも検討します。

 退職金は、婚姻期間や勤続年数によっては数百万円から数千万円に及ぶこともあり、財産分与の金額に大きな影響を与える財産です。退職金の有無だけでなく、その算定根拠や支払方法についても確認する必要があります。

⑥財産隠し・争いがあるケース

離婚時に相手が財産を開示しない場合の対処法

 離婚に伴う財産分与では、夫婦双方の預貯金や保険、株式、不動産などを確認し、分与対象となる財産を整理する必要があります。

 しかし、相手方が財産の資料を十分に提出しないことや、預貯金の一部しか開示しないことがあります。

 特に、婚姻中の家計を一方の配偶者が管理していた場合には、相手方がどの金融機関に口座を持ち、どの程度の財産を保有しているのか、正確に把握できないことも少なくありません。

 このような場合、相手方にどのような資料を求め、開示されない財産をどのように調査するかが問題となります。

「もっと財産があるはずだ」という主張は認められるのか

 財産分与では、原則として、分与を求める財産の存在を具体的に主張し、その裏付けとなる資料を提出する必要があります。

 例えば、相手方の年収が高く、毎月の生活費もそれほどかかっていなかったことから、「相当な預貯金が残っているはずだ」と考える場合があります。

 しかし、収入から生活費を差し引いた金額が、そのまま預貯金として残っているとは限りません。

 実際の支出には、税金や保険料、臨時の出費などもあります。そのため、収入と生活費から計算した推定額だけを根拠に、一定額の預貯金が存在すると認定してもらうことは容易ではありません。

 相手方の説明が不自然だと感じる場合でも、どのような財産が、どこに、どの程度存在すると考えられるのかを、できる限り具体的に示すことが重要です。

財産の存在を調べるための資料

 相手方が財産を開示しない場合には、まず、これまでに確認できている資料から財産の所在を調べます。

 例えば、次のような資料が手掛かりになります。

  • 過去の預貯金通帳や取引履歴
  • 給与や賞与の振込先口座が分かる資料
  • 証券会社や保険会社から届いた書類
  • 確定申告書や源泉徴収票
  • 他の金融機関への送金記録

 特に、預貯金の取引履歴は重要です。

 例えば、開示された銀行口座から、別の銀行や証券会社にまとまった金額が送金されていることがあります。

 このような場合には、送金先の口座が財産分与の対象となる可能性があるため、その口座についても資料の開示を求めることになります。

 また、別居直前に多額の預貯金が引き出されている場合には、その使途や引き出された金銭の所在が問題となります。

 ただし、引き出しや送金の事実があるからといって、直ちに財産隠しと判断できるわけではありません。取引の時期、金額、使途について確認する必要があります。

見落とされやすい財産

 預貯金や不動産以外にも、財産分与の対象となる可能性がある財産があります。

 例えば、生命保険や学資保険の解約返戻金、財形貯蓄、小規模企業共済、ネット証券で保有する株式や投資信託、暗号資産などです。また、配偶者が会社を経営している場合には、会社の株式や出資持分が問題となることもあります。

 これらの財産は、日常的に利用している預貯金口座とは異なり、存在を把握しにくい場合があります。

 相手方が提出した財産資料に記載されていない場合でも、過去の取引履歴や郵送物などから存在が判明することがあります。

相手方が資料を提出しない場合の調査方法

 相手方が任意に資料を提出しない場合には、裁判所の手続を利用して調査することも考えられます。

 その一つが、調査嘱託という手続です。

 例えば、特定の銀行に相手方名義の口座が存在すると考えられる場合には、裁判所を通じて金融機関に照会し、口座の有無や残高、取引履歴などについて回答を求める方法があります。

 証券会社についても、保有する株式や投資信託などの情報を調査できる場合があります。

 もっとも、調査嘱託は、申立てをすれば必ず採用されるわけではありません。

 裁判所が調査の必要性を判断するため、対象となる金融機関や調査事項を具体的に示すことが重要です。

 また、2026年4月1日施行の法改正により、財産分与の審判手続において、家庭裁判所が当事者に対して財産情報の開示を命じる制度も設けられました。

 相手方が財産の開示に応じない場合には、こうした制度の利用も検討することになります。

財産を処分されるおそれがある場合

 相手方が預貯金を引き出したり、不動産を売却したりするおそれがある場合には、財産を保全する手続を検討することがあります。

 例えば、将来の金銭支払を確保するために、相手方の預貯金や不動産に対する仮差押えを申し立てる方法があります。

 また、不動産の所有権移転を求める権利を保全する必要がある場合には、処分禁止の仮処分が問題となることもあります。

 もっとも、これらの手続には、保全の必要性などについて一定の要件があり、通常は担保を立てることも求められます。

 財産分与の事件で常に利用できるものではなく、実務上も、費用や担保負担、手続の見通しなどから慎重な判断が必要です。

財産の開示が不十分なまま離婚を進めないこと

 相手方の財産が十分に分からないまま離婚条件について合意してしまうと、後から財産の存在が判明しても、改めて分与を求めることが難しくなる場合があります。

 特に、財産分与について清算条項を含む合意をする場合には、対象財産が十分に確認できているか注意が必要です。

 財産隠しが疑われる場合でも、最初から大がかりな調査を行う必要があるとは限りません。

 まずは、既にある資料を確認し、どの財産について追加の開示を求めるべきかを整理することが重要です。

 当事務所でも、相手方が財産を十分に開示しない離婚事件を取り扱っています。預貯金の取引履歴などから財産の所在を調べ、必要に応じて裁判所の調査手続を利用するなど、個々の事件の状況に応じた対応を検討しています。

⑦財産分与に応じない場合・手続の流れ

相手が財産分与に応じない場合|離婚前・離婚後の手続

 離婚の話し合いでは、相手方が財産分与に応じなかったり、預貯金などの財産を開示しなかったりすることがあります。

 財産分与について合意できない場合には、家庭裁判所の手続を利用することになります。ただし、離婚前と離婚後では、利用する手続が異なります。

離婚前に財産分与の話し合いがまとまらない場合

 離婚前であれば、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、その中で財産分与についても話し合うのが一般的です。

 調停では、夫婦双方の預貯金や保険、不動産などの資料を提出し、分与対象となる財産や分与額について協議します。

 相手方が財産を開示しない場合には、調停の中で資料の提出を求め、必要に応じて裁判所の調査手続を利用することも検討します。

 もっとも、調停は双方の合意によって解決する手続です。相手方が財産分与に応じず、合意できない場合には、離婚調停は不成立となることがあります。

 その場合には、離婚訴訟を提起し、離婚請求と併せて財産分与を求めることができます。裁判所は、提出された資料などをもとに、財産分与についても判断することになります。

財産分与を決めずに先に離婚することはできるか

 財産分与の話し合いがまとまらなくても、先に協議離婚を成立させ、財産分与については離婚後に解決する方法もあります。

 ただし、離婚後の財産分与の請求には期間制限があります。

 2026年4月1日施行の改正民法により、同日以降に離婚した場合には、離婚から5年以内に家庭裁判所に財産分与の調停または審判を申し立てる必要があります。

 なお、2026年3月31日以前に離婚した場合には、従来の2年という期間が適用されます。

 また、離婚時に財産分与について清算する旨の合意をしてしまうと、後から財産分与を求めることが難しくなる場合があります。

 そのため、財産分与を未解決のまま離婚する場合には、離婚協議書などの記載にも注意が必要です。

離婚後に財産分与の話し合いがまとまらない場合

 離婚後に財産分与について合意できない場合には、家庭裁判所に財産分与調停を申し立てることができます。

 調停では、分与対象となる財産や分与額、支払方法などについて話し合います。

 調停が不成立となった場合には、自動的に審判手続へ移行し、家庭裁判所が財産分与の額や方法を判断します。

 なお、離婚後の財産分与については、最初から審判を申し立てることも可能ですが、家庭裁判所の判断で調停に付されることがあります。

離婚訴訟での財産分与の取り扱い

 離婚調停が不成立となり、離婚訴訟を提起する場合には、財産分与についても、離婚請求に付随する「附帯処分」として申し立てることができます。

 離婚訴訟の段階で夫婦双方の財産が十分に判明していない場合には、具体的な分与額を確定せず、「相当額の財産分与を求める」という形で申し立てることも可能です。

 その後、預貯金や保険、不動産などの資料を提出し、分与対象となる財産や評価額、特有財産の有無などを整理していきます。

 訴訟では、相手方が財産を開示しない場合や、財産の評価額について争いがある場合には、必要に応じて調査嘱託などを申し立てることもあります。

 裁判所は、双方の主張や提出された証拠などを踏まえ、財産分与の額や方法を判断します。

相手方が決められた財産分与を支払わない場合

 財産分与について調停が成立した場合には、その内容が調停調書に記載されます。また、審判によって財産分与の内容が定められることもあります。

 相手方が調停調書や確定した審判で定められた金銭の支払義務を履行しない場合には、預貯金や給与などに対する強制執行を検討することになります。

 財産分与に応じない相手方との間でも、裁判所の手続を利用することで、最終的に財産分与の内容を定めることが可能です。

離婚・別居前に確認しておきたい財産と資料

 離婚に伴う財産分与では、夫婦双方の財産を正確に把握することが重要です。

 特に、婚姻中の財産管理を一方の配偶者に任せていた場合には、別居後になって、相手方がどの金融機関を利用しているのか、どの程度の財産を保有しているのか分からないことがあります。

 また、自分名義の財産であっても、婚姻前から保有していた預貯金や、親から相続・贈与を受けた財産については、その取得経緯を証明できる資料が必要になります。

 財産分与の話し合いを始める前に、確認しておきたい点を説明します。

別居前に相手方の財産を把握しておく

 財産分与では、原則として別居時に存在していた夫婦双方の財産が対象となります。

 しかし、別居後に相手方が資料の提出に応じなければ、財産の全容を把握することが難しくなる場合があります。

 同居中であれば、日頃の家計管理や郵便物などを通じて、相手方が利用している金融機関、証券会社、保険会社などを把握できることがあります。

 預貯金の残高まで分からなくても、金融機関名や支店名、口座の存在を示す資料があれば、後の財産調査に役立ちます。

 ただし、相手方の私的なメールやインターネットバンキングに無断でログインするなど、不適切な方法で資料を取得することは避けなければなりません。

見落とされやすい財産にも注意する

 財産分与の対象となるのは、預貯金や不動産だけではありません。

 生命保険や学資保険の解約返戻金、財形貯蓄、小規模企業共済、株式、投資信託なども、財産分与の対象となる場合があります。

 最近では、ネット銀行やネット証券の口座、暗号資産などが問題となることもあります。また、配偶者が会社を経営している場合には、会社の株式や出資持分の評価が必要になることもあります。

 これらの財産は、日常的に利用している預貯金口座と異なり、存在自体が分かりにくいことがあります。

預貯金の取引履歴も確認する

 預貯金については、別居時の残高だけでなく、それ以前の取引履歴が重要になることがあります。

 例えば、別居直前に多額の預貯金が引き出されている場合や、別の金融機関にまとまった金額が送金されている場合です。

 このような場合には、引き出された金銭の使途や送金先の口座について確認する必要があります。

 ただし、確認すべき期間は事案によって異なります。別居直前の資金移動を調べる場合もあれば、婚姻前の預貯金の存在を証明するため、さらに過去の資料が必要になる場合もあります。

特有財産を証明する資料を残しておく

 婚姻前から保有していた財産や、婚姻中に相続・贈与によって取得した財産は、原則として財産分与の対象になりません。これらを特有財産といいます。

 もっとも、特有財産であると主張する場合には、その取得経緯などを証明する必要があります。

 例えば、婚姻前から保有していた預貯金については、婚姻時の残高が分かる通帳や取引履歴が重要です。

 また、親から住宅購入資金の援助を受けた場合には、贈与の事実や金額、住宅購入資金に充てられた経緯などを確認できる資料が必要になります。

 婚姻期間が長くなるほど、こうした資料を取得することが難しくなる場合があります。

 特に、婚姻前の預貯金が婚姻後の収入と混在している場合には、現在残っている財産のどの部分が特有財産に当たるのかが争点となることがあります。

財産の所在が分からない場合

 相手方の財産について十分な資料がない場合でも、利用している金融機関などが分かれば、離婚調停や訴訟の中で追加の資料提出を求めたり、裁判所の調査手続を利用したりできる場合があります。

 一方、金融機関名などの手掛かりが全くない場合には、調査が難しくなることがあります。

 財産分与では、どのような財産が存在するかだけでなく、その財産がいつ、どのように取得されたのかも問題となります。

 そのため、離婚や別居を検討する段階から、適法に確認できる範囲で財産に関する資料を整理しておくことが、その後の財産分与の協議や裁判所での手続に役立ちます。

⑧期限・税金・特殊な分与

財産分与の請求期限は離婚後5年|法改正前の離婚は2年

 離婚後に財産分与を請求する場合には、法律で定められた期間内に手続を行う必要があります。

 2026年4月1日に施行された改正民法により、財産分与の請求期間は、従来の2年から5年に延長されました(民法768条2項)。

 ただし、2026年3月31日以前に離婚した場合には、改正前の法律が適用され、請求期間は従来どおり2年となります。

具体的には、次のようになります。

  • 2026年4月1日以降に離婚した場合:離婚から5年
  • 2026年3月31日以前に離婚した場合:離婚から2年
話し合いを続けているだけでは期限は守れない

 財産分与の請求期間は、一般に「除斥期間」と解されています。

 この期間内に財産分与について合意できない場合には、家庭裁判所に財産分与の調停または審判を申し立てる必要があります。

 相手方と話し合いを続けていたり、内容証明郵便で財産分与を請求していたりしても、それだけで期間が延長されるわけではありません。

法改正による期間変更

 財産分与について合意できなくても、先に協議離婚を成立させ、離婚後に財産分与を求めることは可能です。

 しかし、離婚後の話し合いが長引くうちに、請求期間が経過してしまうことがあります。

 特に、2026年3月31日以前に離婚した方については、法改正後も請求期間が5年に延長されるわけではないため、注意が必要です。

 また、離婚時に財産分与について清算する旨の合意をしている場合には、請求期間内であっても、後から追加の財産分与を求めることが難しくなる場合があります。

財産分与と税金の基本的な考え方

 離婚に伴う財産分与では、財産を受け取る側と渡す側で、税金の取り扱いが異なります。

財産を受け取る側の贈与税

 離婚に伴う財産分与によって財産を取得した場合、原則として贈与税はかかりません。

 財産分与は、夫婦の財産関係を清算し、離婚後の生活を保障するための制度であり、通常の贈与とは異なるためです。

 ただし、夫婦の財産状況やその他の事情からみて、分与された財産が著しく過大である場合には、過大と認められる部分について贈与税が課税されることがあります。

 また、贈与税や相続税を免れる目的で離婚したと認められる場合にも、贈与税の課税対象となります。

財産を渡す側の譲渡所得税

 財産分与として現金や預貯金を渡す場合には、通常、譲渡所得税は問題となりません。

 一方、不動産や株式などを財産分与として相手方に譲渡する場合には、財産を渡す側に譲渡所得税が課税されることがあります。

 例えば、婚姻中に購入した不動産を財産分与として相手方に譲渡する場合、不動産の時価が取得費などを上回っていれば、売却代金を受け取っていなくても譲渡所得税が発生する可能性があります。

 不動産の財産分与では、贈与税や譲渡所得税のほか、不動産取得税や登録免許税なども問題となります。具体的な税額は、財産の種類や取得時期、譲渡方法などによって異なります。

内縁関係の解消と財産分与

 婚姻届を提出していなくても、夫婦として共同生活を営んでいる内縁関係については、その関係を解消する際に財産分与を請求することができます。

 内縁関係の解消についても、民法768条が類推適用され、内縁期間中に双方が協力して形成した財産が分与の対象となります。

 もっとも、単なる同居や交際関係では足りず、双方に夫婦として生活する意思があり、実際に夫婦同様の共同生活を営んでいたことが必要です。

 なお、内縁関係が一方の死亡によって終了した場合には、財産分与の規定は類推適用されません(最高裁平成12年3月10日決定)。また、内縁配偶者には法律上の相続権も認められていません。

医療法人の持分は財産分与の対象となりますか。

 医師や歯科医師の離婚では、経営する医療法人の出資持分が財産分与の対象となるかが問題になることがあります。

 医療法人には、出資持分の定めがある法人と、持分の定めがない法人があり、その違いによって財産分与の取り扱いが異なります。

持分の定めがある医療法人の場合

 平成19年4月1日の医療法改正の施行以降、新たに持分の定めがある医療法人を設立することはできなくなりました。

 しかし、それ以前に設立され、現在も持分の定めが残っている医療法人については、出資持分に財産的価値が認められます。

 そのため、婚姻期間中に取得・形成された出資持分については、財産分与の対象となる場合があります。

 もっとも、出資持分の評価は容易ではありません。医療法人の定款、財産状況、出資持分の取得経緯などを確認する必要があります。

 また、医療法人の資産が高額であっても、その評価額がそのまま財産分与の対象となるわけではありません。

持分の定めがない医療法人の場合

 持分の定めがない医療法人では、社員としての地位そのものに、出資持分のような財産的価値は通常認められません。

 ただし、医師個人が医療法人に対して有する貸付金や基金の返還請求権などは、財産分与の対象となる場合があります。

 したがって、医療法人の持分がないからといって、その医療法人に関係する財産が一切分与対象にならないわけではありません。

 医療法人の出資持分については、法人の設立時期だけでなく、定款の内容や出資の経緯、現在の財産状況などを確認した上で、分与対象となる財産の有無や評価額を検討する必要があります。

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弁護士:須山幸一郎

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