養育費は、子が生まれてから成熟して自立するまでの間、養い育てるために必要な費用をいいます。
この養育費は、法律上の扶養義務に基づくものです。
離婚しても親子関係は継続する以上、負担する義務があります。基本的な知識を身に着けてから話し合いを行うようにしましょう。
まずは協議(話し合い)で決め、話し合いができなかったり、まとまらなかった場合には、家庭裁判所に調停の申立てをし、調停手続の中で話し合うか、審判で決めてもらうことになります。
家庭裁判所は、原則として、養育費・婚姻費用算定表に基づいて養育費の額を決めます。その算定表は、最高裁判所のホームページに掲載されています。
→令和元年12月に発表された改定養育費算定表
裁判所の算定表は、縦軸に義務者の年収が,横軸に権利者の年収が記載されていて、その縦軸と横軸の交点が相当な養育費の額とされています。
当事者間で協議をする際も、この算定表が用いられていることが多いようです。
また、いったん決められた養育費も、物価の上昇や進学による教育費の増加、リストラによる収入減など、その後の事情が変わると、これに応じて、その額や支払方法の変更を請求することができる場合があります。
平成15年、裁判所によって「簡易迅速な養育費等の算定を目指してー養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案ー」として発表されました。
「養育費・婚姻費用算定表」が発表されると、全国の家庭裁判所で広く活用され、実務に定着することとなりました。当事者も養育費・婚姻費用の算定を簡易迅速に行うことが可能になり、結果も予測できるようになりました。
しかし、その後、上記発表がされてから15年が経過し、社会実態の変化等を理由として最高裁において検討がなされ、令和元年12月、その見直しが発表されました。新しい算定表は、「改定算定表」「改定養育費算定表」と呼ばれています。 現在は、この「改定養育費算定表」が用いられています。
ところで、日弁連も平成28年11月に、裁判所の算定表の問題点を修正するものとして、新しい方式による算定表を発表しました。
これは「新算定表」と呼ばれていましたが、結局実務で用いられることはありませんでした。
令和元年12月に最高裁が発表した「改定算定表」は、上記日弁連の「新算定表」及び日弁連が指摘した問題点についても検討がなされており、今後、「新算定表」が実務で用いられる可能性は低いものと思われます。
今後は、令和元年12月に発表された「改定算定表」を確認することが大切です。
調停等において、養育費を決める際、子どもとの面会交流を認めてくれない限り、養育費の支払をしないという主張がなされる場合があります。
逆に、養育費を支払ってもらわなくても良いから面会交流を求めないで欲しいと主張される場合もあります。
しかし、養育費の支払義務の存否及びその内容と面会交流は別問題とされており、実務ではらこれらの主張は通りません。
親である以上、子に対して養育費の分担義務があり、その内容は、生活保持義務(自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務)を満たすものである必要があります。
また、面会交流は、親子の交流が子の健全な成長に資するという意味合いもあり、面会交流を実施することが明白に子の福祉を害するという事情が無い限りは、内容について調整しなければなりません。
現在では、大学進学率も高く、子が大学に進学している場合には、20歳を過ぎても授業料や生活費を負担することが当然であると考える方も多いでしょう。
しかし、非監護親側が、子が大学に進学することを承諾していなかったり、離婚後に子と交流出来ておらず、進学することを知らなかった場合、浪人や留年などで大学卒業の年次が延びた場合、博士課程まで進学した場合など、予想外の費用負担を強いられる場合もあり、必ず授業料等を支払うべきとまでは言うことはできません。
実務的には、子の意向、これまでの教育方針、父母の収入及び社会的地位、学歴等を検討し、相当と認められる場合には、支払義務が肯定される傾向にあります。
調停等の話し合いにより解決する場合、大学に進学することを承諾し、学費を支払うことを承諾する場合でも、「国公立大学の授業料分の半額を負担する」「22歳に達した後初めて到来する3月まで」「上限は〇〇円まで」など、父親の支払限度を明確にしておくこともあります。
養育費は、子を養育する親が子を監護していくのに必要な日々発生する費用ですから、その性質上、定期的に支払われる必要があります。
従って、養育費の支払方法は、毎月払いが原則です。
ただ、養育費の支払は長期にわたりますので、途中で支払われなくなってしまうケースは多々あります。
相手方の将来の支払に不安があるような場合には、一括で支払ってもらいたいと思う場合もあるでしょう。
もっとも、数年分(又は終期まで)の一括払いは、原則として認めるべきではないというのが家庭裁判所実務の考え方と言われています。
養育費は日々発生する性質のものですし、一括払いの養育費の支払いを受けた側が、養育費以外の使途に使ってしまった場合、未成年者の監護が困難になってしまう恐れがあるほか、将来の事情変更に対応できなくなる可能性があるからです。
また、養育費は「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象にはなりませんが、一括払いの場合には、贈与税が課される可能性がありますので注意が必要です。
支払口座については、相手方名義の口座宛てに振り込むことが一般的ですが、子供名義の口座を開設し、その口座宛に振り込む方法も可能です。
養育費の支払いを確保する方法としては、家庭裁判所の調停調書にしておくのが1番の方法です。
調停は、費用はそれほどかかりませんし、手続きも決して難しいものではありませんので、必ずしも弁護士に依頼する必要もありません。
調停調書を得ておけば、相手が支払わなくなった場合、すぐに給料差押えなどの強制執行ができますし、後述する「履行勧告」や「履行命令」を家庭裁判所に出してもらうことができます。
また、調停調書ではなくても、双方が公証役場へ行き、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば、不払いになったとき、その公正証書に基づいて給料差押えなどの強制執行をすることができます。
口約束や、単なる文書での約束は、正直なところ、不払いになった際にはほとんど意味がありません。
調停調書又は公正証書の作成は、養育費を支払ってもらう側としては必須と言ってよいですので、必ず作成するようにしましょう。
当事者が話し合いにより、合意できればもちろん養育費の増額又は減額も可能です。
しかしながら、一旦取り決めた養育費を変更することは容易ではありません。
養育費の取り決めも離婚に伴う約束(契約)の一つですから、その約束が後で簡単に変えられてしまっては、約束が無意味となりますし、子供のためにもなりません。
法律上、「事情に変更が生じたとき」に限り変更できるとされていますが(民法880条)、この「事情の変更」があっても、いったん取り決めた養育費が当然に増額又は減額になるわけではありません。
増額又は減額する旨の協議又は調停・審判が必要です。
「事情の変更」は、養育費を取り決めた際に予見し得なかったような特別な事情が生じたときと一般的には言われています。
養育費を取り決める際に当事者が当然に変更が予見し得た事情が現実化したにすぎないような場合などは「事情の変更」があったとは認められません。
従って、養育費を取り決める際には、離婚したい一心で養育費の取り決めを疎かにするのではなく、将来のこともよく考えて冷静に判断する必要があります。
「事情の変更」となりうるものとしては、以下のような事柄が挙げられます。もっとも、以下の事情があっても、必ず増額又は減額が認められるわけではありません。
1 再婚及び再婚相手との間に子が産まれることによる扶養権利者の増加、親権を取得した側の再婚及び再婚相手との養子縁組等、家族構成の変化。
2 子供が私立の学校に入学し、教育費が増大した、病気や事故で高額の治療費がかかるというような子供の事情の変化(もっとも、子が学齢期に達すれば就学し、教育費が掛かり、養育費が多少増加する程度のことは養育費を取り決めるにあたって十分斟酌されたはずとして増額請求が認められない例もあります)。
3 収入が、病気、事故、会社倒産、リストラなどにより大幅に減少した場合、逆に取り決めをした当時よりも大幅に相手方の収入が増加した場合。
収入の増減については、相当大きな収入の増減がないと、養育費の増減額は認められない傾向にあります。
収入減収により養育費の支払いが困難となった場合には、勝手に支払いを減額するのではなく、出来るだけ早く調停申立をして、将来にわたり継続的に養育費を支払っていくには減額が必要であることを、よく説明することが重要です。
養育費の増減額については、ご自身で調停を申し立てることもできますが、事情変更の主張を適切に行う必要があります。
弁護士に依頼することも検討してもよいでしょう。
離婚時に子の親権者となった者が再婚し、再婚相手と子が養子縁組をした場合、子は養親の嫡出子としての身分を取得しますが、実親との実親子関係は存続します。
したがって、養親と実親の双方が扶養義務を負います。
この場合、親権者となった者が再婚し、再婚相手と子が養子縁組をしたことは、民法880条の「事情に変更を生じたとき」にあたり、第一次的な扶養義務を負うのは養親であり、養親らの資力では、十分に子に対する扶養義務を履行できない場合に限って、実親が二次的な扶養義務を負うと解されることが多いようです。
「十分に子に対する扶養義務を履行できない場合」とはどのような場合を言うかについては諸説ありますが、子が養親のもとで通常の生活を営んでいる場合には、そのような場合には当たらないといえます。
したがって、養親が第一次的な扶養義務を負う以上、親権者とならなかった側から養育費の免除又は減額の請求をした場合、減額(又は免除)が認められる可能性は高いものと思われます。
もっとも養育費の減額を求めても、受け取っている側が快く減額に応じることは通常ありません。
したがって、養育費減額調停を申し立てて話し合いを求めざるを得なくなることが通常です。
養育費減額調停を申し立て、調停の中で話し合っても合意出来ない場合は、調停は不成立となり、審判手続に移行して、裁判官が減額の可否、減額を認めるとしてその額を判断します。
調停や審判で決まった養育費を相手方が支払わない場合、家庭裁判所から相手方に対して養育費を支払うよう勧告をしてもらうことができます。
これを履行勧告といいます。
履行勧告は、家庭裁判所が養育費の不払いの事実、その理由などを聴き取り、相手方に対し、きちんと決められた養育費を支払うよう助言、指導、催促をする制度です。
履行勧告は、申立てが簡単で、手数料もかかりませんが強制力がありません。
履行勧告によっても支払われない場合、家庭裁判所は、申立があると、相手方の陳述を聞き、相手方が正当な理由がないのに支払義務を怠っていると認めれば、相当の期限を定めてその期限内に支払えと履行命令を発することができます。
履行勧告を無視しても制裁はありませんが、履行命令に従わない場合には、10万円以下の過料に処せられることがあります。
もっとも強力な手段は、強制執行です。
判決や審判・調停調書、執行認諾文付きの公正証書など、執行力のある書面により養育費の支払義務が定められている場合に、強制執行の申立てをして相手方の財産から強制的に支払いを確保する制度です。
強制執行を行うには手間と費用がかかりますので、相手方の財産が確実に存在する場合、又はきちんとした勤務先があり定期的に給料を受領しているなど、強制執行により、確実に養育費の回収が見込まれるに行うのが一般的です。
相手方が不履行となったときは、不履行部分(既に支払われていない部分)のみならず、期限がまだ到来していない将来部分についても給料等の差押えができます。
給与差押を行う場合、給与の2分の1まで差し押さえが可能です。
給与差押については、専門知識が必要となるため、自分で申立てを行うのは難しく、弁護士に依頼して行うことが多いように思われます。
せっかく何度も家庭裁判所に出向き、調停で養育費の合意をしたにも関わらず、相手方から養育費が支払われない場合、そのままあきらめてしまわれる方がいらっしゃいます。
しかし、養育費の支払いは、親の義務であり、お子さんのためにもきちんと相手に支払わせる必要があります。
公正証書や調停調書等の債務名義がある場合には、相手方の給与・退職金の差押をすることを検討しましょう。
給与差押がされた場合、会社の手前、数十万円、数百万円の未払養育費が一括で支払われたり、養育費の支払いが再開されることも多いです。
ただ、給与差押は、相手方の就労先にいきなり裁判所から差押決定が届きますので、相手方の職場での立場に影響することが予想されますので、慎重に行うことが大切です。
給与差押は、支払期限が到来した未払いの養育費と併せて支払期限の到来していない将来分の養育費についても、一括して申立てをすることが可能です。
したがって、支払期限が到来している未払いの養育費について差押えをする際、併せて将来分の養育費についても差押えの申立てをしておけば、毎月の支払期限が到来する度に、差押えの申立てをする必要はないので、手続としては1回で済みます。
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