少子化が加速している現在、離婚の際、父親と母親のどちらが子の親権を取得するかについては、祖父母も巻き込んで大変な争いになるケースが増えています。
ところで、親権ってどのような権利か、ご説明できますか?
親権について話し合うにしても、きちんと理解してから臨むことが大切です。
親権とは、未成年の子を一人前の社会人となるまで養育するため、子を監護・養育し、子の財産を管理し、法定代理人となることを内容とする、親の権利義務の総称です。
親「権」というと、親の子に対する権利のように思われがちですが、実際には義務の要素が強いといわれています。
離婚に際しては、親権をどちらが取得するのかで、争いになることも多いのですが、親権者は、上記のような内容の義務を果たさなければならないということを覚えておきましょう。
民法も「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」と定めています(820条)。
従って、親が親権を濫用する場合、家庭裁判所によって親権が剥奪される場合もあります(834条)。
親権に服するのは未成年の子です(民法818条1項)。実子であるか、養子であるかを問いません(同条2項)。
未成年の子とは、20歳未満の子をいいます。
就職し、自立した生活を営んでいても、20歳に満たなければ親権に服することになります。
但し、未成年の子でも、婚姻すれば、成年に達したものと擬制される(民法753条)ことから、親権には服しません。
父母が婚姻中は、原則として父母が共同して親権を行使します(共同親権)。
しかし、父母が離婚することになると、共同して親権を行使することができなくなりますので、離婚に際しては父母のいずれか一方を親権者と定める必要があります。
未成年の子供がいる夫婦が協議離婚する場合、いずれか一方を親権者と定めて離婚届に記載しなければなりません(民819条1項、戸籍法76条)。親権者を定めていない離婚届は受理されません。
離婚することについて合意ができていても、親権者について協議がまとまらない場合は、結局協議離婚ができないことになります。
従って、このような場合には、離婚調停の申立てをし、調停手続の中で親権者をいずれとするかについて決めることになります。
なお、妊娠している母が父と離婚する場合は、離婚後に出生した子の親権者は母となります。
但し、子の出生後に父母が協議をして父を親権者にすることができます(民法819条1項ないし3項)。
当事者間の合意により、親権者と監護権者を分離することも出来ます。
しかし、実務的には不都合が大きく、子を健全に発育させるためにはこのような分離はすべきではないとされており、子の利益を十分に検討しなければなりません。
父母の都合や妥協の産物として、親権者と監護者を分離すべきではありません。
親権は、未成年の子を一人前の社会人となるまで養育するため、子を監護・養育し、子の財産を管理することを内容とする、親の権利義務の総称で、親の子に対する権利のように思われがちですが、実際には義務の要素が強いといわれていることは前述のとおりです。
従って、親権者を父母のどちらにするかは、父母の側からというよりは、子供側、すなわち、子供の福祉の観点(どちらにするのが子供にとって利益になるのか)の観点から決められることになります。
子供の福祉といっても、父母の事情は様々ですから、父母の生活状況等を加味して、総合的に判断することになります。
一般に判断材料として考慮されやすいのは以下のような事情です。
1 父母の経済的能力・今後の監護環境
→子の福祉の観点から、子の監護教育を行う環境が整っているかは考慮要素となります。
2 父母の心身の状況
3 父母の監護・養育にどれだけの時間を確保できるか(監護補助者の存在)
→時間が確保出来るほど、子が寂しい思いをする可能性が減り、子の監護が手厚くなると考えられます。
4 父母のこれまでの監護・養育の状況、監護の継続性
→現在の監護環境を調査し、特段の問題が無ければ、引き続き監護を担当させるべきであるという考え方。監護状況が変化すると、子にとっては変化に対応することを余儀なくされ、精神的身体的に負担になるという認識に基づいています。
5 子供の年齢・意向・性別
→子の意向の確認は特に慎重にしなければならないとされています。子は、父母のいずれにも好かれたい、裏切りたくないという感情を抱いているのが通常だからです。
従って、子の意向調査は、家庭裁判所調査官が担当し、子の態度や言動等を注意深く観察するなどして行われています。
6 子供の就学の状況 →転校の可能性、受験等。
7 離婚(婚姻関係破綻の有責性)
8 面会交流の許容性(フレンドリー・ペアレントルール)
→面会交流を含めた養育計画等を立て、他方配偶者に頻度の高い面会交流等を確約する者に親権者としての適格性を認める考え方。近時、面会交流の重要性から、このルールが重視される傾向にあります。
9 子の奪取の違法性
いずれにしても、親権をどうするかという問題は、何よりもどちらが親権を行使する方が子供の幸せと成長にとって好ましいかという問題です。従って、相手に対する意地などから、子供の福祉の視点を忘れることのないようにすることが重要です。
子の連れ去りは、夫婦が別居する際に生じる紛争類型です。
典型的なのは、別居する配偶者が、他の配偶者と協議をすることなく、子を連れて家を出るケースです。
いわゆる「子連れ別居」です。
法律相談において、他の配偶者に無断で子を連れて別居しても大丈夫でしょうかと尋ねられることがありますが、後日、子を連れていかれた配偶者が子を連れ戻すということもあり、子を夫婦の紛争に巻き込むことにもなりかねません。
弁護士によっては、とにかく無断でも良いから別居しなさいと助言する場合もあるようですが、私の法律相談時の回答としては、出来る限り協議してから別居してくださいということになります。
子どもの立場からしても、突然、親の一方と会えなくなってしまいますし、転居先によっては仲の良い友達や先生との挨拶すら出来ないまま、見ず知らずの場所に連れていかれることになります。
離婚が成立する前は、双方とも親権者として監護権を有していますので、協議をすることなく子を連れて別居を開始することが直ちに違法ということにはならないでしょうし、後に裁判所が親権者を判断するにあたって、殊更不利に取り扱われることは少ないように思われます。
子が他の配偶者に連れ去られた場合、それまで子を監護していた一方配偶者が、子を連れ去った他方に対し、子の引き渡しを求めることになります。
実務では、子の引き渡しを求める父又は母は、家庭裁判所に対し、子を連れ去った他方の父又は母に対し、子の監護者を自分に指定する審判を求め、審判によって子の監護者の指定を受けたうえで、監護権に基づいて子の引き渡しを求めることになります。
通常は、子の監護者指定と子の引き渡しの申立ては同時に行います。
家庭裁判所は、別居状態にある父又は母のいずれを子の監護者とすることが、子にとって利益であるのかを検討し、判断します。
子の監護者が指定され、子の引き渡しに関する判断がなされても、抗告されると高等裁判所等の判断がなされるまで時間を要することになってしまいます。
このため、上述の子の監護者指定及び子の引き渡しの審判を求める際には、仮に子を元の監護者に戻すよう「審判前の保全処分」の申立てを行います。
家庭裁判所は、保全処分として、仮に子の監護者を父又は母のいずれかに定め、連れ去りをされた側に戻すべきと判断した場合には、子の引き渡しを命じます。
保全処分の申立てがなされると、家庭裁判所は、本案の審判事件よりも早期に手続きを進行させ、判断を行います。
保育園や学校の前で待ち伏せし、子の取り戻しを実力行使で行う親がいますが、まさに子を夫婦の紛争に巻き込むことになります。
後の親権者の適格性の判断の際にマイナス要素として考慮されることにもなりますので、お気持ちは理解出来ますが、実力行使は控え、適切な手続きを踏みましょう。
上述の手続きにおいては、家庭裁判所調査官も関与し、手続の内容も専門的となりますので、父及び母のそれぞれが弁護士に依頼をしていることが多いといえます。
当事務所でも、子の監護者指定・子の引き渡し審判及び保全事件について、お引受けしていますが、迅速性が要求され、難易度が高い事件類型でもあるため、業務の状況によってはお受けできない場合があります。
親などの保護者による虐待により児童が死傷する事件が多発するなど、児童虐待が社会問題となってきたことを背景に、親権を最長2年間停止する制度を柱とした「民法等の一部を改正する法律」が平成23年6月に公布され、平成24年4月に施行されました。
1 親権停止(民法第834条の2)
これまで、親権を制限するには、期限を定めずに親から親権を奪う「親権喪失制度」しかありませんでした。
同制度は、要件が厳格であり、比較的程度の軽い事案に必要な親権の制限をすることができないとか、医療ネグレクト事案など、一定期間だけ親権を制限すれば足りる事案に過剰な制限となるおそれがあるなどの問題点があり、親子関係への影響も大きいため、申立てがちゅうちょされていると指摘されていました。
そこで、親族や検察官らのほか、子ども本人や未成年後見人も家庭裁判所に親権の停止を申し立てることができるとし、2年以内の期間に限って親権を行うことができないようにする親権停止制度が創設されました。
親権停止の要件は、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされ、親権喪失の場合のような「著しく」という程度までは要求されていません。
請求権者は、民法に規定されている、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官のほか、児童相談所長にも請求権が認められました(改正児童福祉法33の7)。
また、子どもを保護し、財産を管理する後見人も、1人しか認めないのではなく、複数人や法人も務めることができることになります。
2 親権喪失(民法第834条)
喪失原因は「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」とされました。
「虐待又は悪意の遺棄」という典型的な場合を挙げることで、親権が喪失される場合がより明確になりました。
請求権者は、改正前の規定で定められていた子の親族及び検察官のほか、子、未成年後見人及び未成年後見監督人が加えられました。
但し書きにおいて、2年以内に喪失原因が消滅する見込みがある場合は、親権の喪失をすることができない旨規定されています。このような場合に親権を喪失させてしまうのは、過剰な制限になるためです。
3 監護及び教育の権利義務(民法第820条)
「親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」
親権が子の利益のために行われなければならないことは、改正前の民法においても当然の理念と考えられていましたが、これを明確にするため「子の利益のために」との文言が付加されました。
4 懲戒(第822条)
「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。」
改正前の規定の文言では、親権を行う者は必要な範囲内でその子を懲戒することができるものとされていましたが、文言上、「必要な範囲」に何ら限定が設けられていませんでした。
懲戒権を口実に虐待を正当化しようとする虐待親の存在を考慮して、懲戒権の行使について文言上、「子の利益のため」でなくてはならないことを明文化しました。
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