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少子化が加速している現在、離婚の際、父親と母親のどちらが子の親権を取得するかについては、祖父母も巻き込んで大変な争いになるケースが増えています。
ところで、親権ってどのような権利か、ご説明できますか?
親権について話し合うにしても、きちんと理解してから臨むことが大切です。
親権とは、未成年の子を一人前の社会人となるまで養育するため、子を監護・養育し、子の財産を管理し、法定代理人となることを内容とする、親の権利義務の総称です。
親「権」というと、親の子に対する権利のように思われがちですが、実際には義務の要素が強いといわれています。
離婚に際しては、親権をどちらが取得するのかで争いになることも多いですが、親権者は、上記のような内容の義務を果たさなければなりません。
民法も「親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。」と定めています(820条)。
親権に服するのは未成年の子です(民法818条1項)。実子であるか、養子であるかを問いません(同条2項)。
未成年の子とは、18歳未満の子をいいます。
就職し、自立した生活を営んでいても、18歳に満たなければ親権に服することになります。
但し、未成年の子でも、婚姻すれば、成年に達したものと擬制される(民法753条)ことから、親権には服しません。
父母が婚姻中は、原則として父母が共同して親権を行使します(共同親権)。
しかし、父母が離婚することになると、共同して親権を行使することができなくなりますので(単独親権)、離婚に際しては父母のいずれか一方を親権者と定める必要があります。
(法改正により、2026年4月1日から、離婚後も共同親権を選択できるようになります)
未成年の子供がいる夫婦が協議離婚する場合、いずれか一方を親権者と定めて離婚届に記載しなければなりません(民819条1項、戸籍法76条)。親権者を定めていない離婚届は受理されません。
離婚することについて合意ができていても、親権者について協議がまとまらない場合は、結局協議離婚ができないことになります。
従って、このような場合には、離婚調停の申立てをし、調停手続の中で親権者をいずれとするかについて決めることになります。
なお、妊娠している母が父と離婚する場合は、離婚後に出生した子の親権者は母となります。
但し、子の出生後に父母が協議をして父を親権者にすることができます(民法819条1項ないし3項)。
当事者間の合意により、親権者と監護権者を分離することも出来ます。
しかし、実務的には不都合が大きく、子を健全に発育させるためにはこのような分離はすべきではないとされており、子の利益を十分に検討しなければなりません。
父母の都合や妥協の産物として、親権者と監護者を分離すべきではありません。
親権は、未成年の子を一人前の社会人となるまで養育するため、子を監護・養育し、子の財産を管理することを内容とする、親の権利義務の総称で、親の子に対する権利のように思われがちですが、実際には義務の要素が強いといわれていることは前述のとおりです。
従って、親権者を父母のどちらにするかは、父母の側からというよりは、子供側、すなわち、子供の福祉の観点(どちらにするのが子供にとって利益になるのか)の観点から決められることになります。
子供の福祉といっても、父母の事情は様々ですから、父母の生活状況等を加味して、総合的に判断することになります。
一般に判断材料として考慮されやすいのは以下のような事情です。
1 父母の経済的能力・今後の監護環境
→子の福祉の観点から、子の監護教育を行う環境が整っているかは考慮要素となります。
2 父母の心身の状況
3 父母の監護・養育にどれだけの時間を確保できるか(監護補助者の存在)
→時間が確保出来るほど、子が寂しい思いをする可能性が減り、子の監護が手厚くなると考えられます。
4 父母のこれまでの監護・養育の状況(主たる監護者はどちらであったか)、監護の継続性
→現在の監護環境を調査し、特段の問題が無ければ、引き続き監護を担当させるべきであるという考え方。監護状況が変化すると、子にとっては変化に対応することを余儀なくされ、精神的身体的に負担になるという認識に基づいています。
5 子供の年齢・意向・性別
→子の意向の確認は特に慎重にしなければならないとされています。子は、父母のいずれにも好かれたい、裏切りたくないという感情を抱いているのが通常だからです。
従って、子の意向調査は、家庭裁判所調査官が担当し、子の態度や言動等を注意深く観察するなどして行われています。
6 子供の就学の状況 →転校の可能性、受験等。
7 離婚(婚姻関係破綻)の有責性
8 面会交流の許容性(フレンドリー・ペアレントルール)
→面会交流を含めた養育計画等を立て、他方配偶者に頻度の高い面会交流等を確約する者に親権者としての適格性を認める考え方。近時、面会交流の重要性から、このルールが重視される傾向にあります。
9 子の奪取の違法性
親権をどうするかという問題は、どちらが親権を行使する方が子供の幸せと健やかな成長にとって好ましいかという問題です。相手に対する意地や感情的対立などから、子供の福祉の視点を忘れることのないようにすることが重要です。
児童虐待が社会問題となってきたことを背景に、親権を最長2年間停止する制度を柱とした「民法等の一部を改正する法律」が平成23年6月に公布され、平成24年4月に施行されました。
1 親権停止(民法第834条の2)
親権を制限するには、期限を定めずに親から親権を奪う「親権喪失制度」しかありませんでした。同制度は、要件が厳格であり、比較的程度の軽い事案に必要な親権の制限をすることができないとか、一定期間だけ親権を制限すれば足りる事案に過剰な制限となるおそれがあるなどの問題点があり、親子関係への影響も大きいため、申立てがちゅうちょされていると指摘されていました。
そこで、親族や検察官らのほか、子ども本人や未成年後見人も家庭裁判所に親権の停止を申し立てることができるとし、2年以内の期間に限って親権を行うことができないようにする親権停止制度が創設されました。
親権停止の要件は、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」とされ、親権喪失の場合のような「著しく」という程度までは要求されていません。
請求権者は、民法に規定されている、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官のほか、児童相談所長にも請求権が認められました(改正児童福祉法33の7)。
2 親権喪失(民法第834条)
喪失原因は「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」とされました。
「虐待又は悪意の遺棄」という典型的な場合を挙げることで、親権が喪失される場合がより明確になりました。
請求権者は、改正前の規定で定められていた子の親族及び検察官のほか、子、未成年後見人及び未成年後見監督人が加えられました。
これまで、父母が離婚した後は必ず父母の一方を親権者と定めることが必要で(単独親権)、共同親権とすることはできませんでした。
2024(令和6)年5月、離婚後も共同親権を選択できるよう、法改正がなされました。
施行日は2026年4月1日であり、実務は変更になります。
あくまでも「選択できるようになった」ということであり、離婚後も必ず「共同親権」になるわけではない、単独親権もありうる、という点に注意が必要です。
協議でどちらか一方の単独親権か共同親権とするかを決めることが出来ない場合は、家庭裁判所が決定します。
父母の双方が共同親権に同意している場合だけでなく、一方が単独親権を希望している場合であっても裁判所は共同親権を定めることが可能とされています。
また、改正前に離婚し、現在単独親権となっている場合に、単独親権から共同親権に変更することも、家庭裁判所に親権者変更の申立てを行い、認められれば共同親権への変更が可能となりました。
改正民法819条7項
裁判所は、(略)父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
1.父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
2.父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
一方の親が共同親権に反対している場合、その反対の具体的理由によっては、上記2号に該当し、共同親権が認められない可能性が考えられます。
家庭裁判所の調査官が関与する機会も多くなることが予想され、どのような場合に共同親権が認められるのかは、今後の家庭裁判所の運用の集積を待たなければなりません。
当事務所でも、令和8年4月以降、共同親権への親権者変更の申立てのご依頼に関する相談が多くなることが予想されます。
その時点での経験をもとに、率直な助言をしていきたいと考えています。
改正民法824条の2
1.親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。
1.その一方のみが親権者であるとき。
2.他の一方が親権を行うことができないとき。
3.子の利益のため急迫の事情があるとき。
2.父母は、その双方が親権者であるときであっても、前項本文の規定にかかわらず、監護及び教育に関する日常の行為に係る親権の行使を単独ですることができる。
3.特定の事項に係る親権の行使(第1項ただし書又は前項の規定により父母の一方が単独で行うことができるものを除く。)について、父母間に協議が調わない場合であって、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、父又は母の請求により、当該事項に係る親権の行使を父母の一方が単独ですることができる旨を定めることができる。
共同親権となった場合でも、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「監護及び教育に関する日常の行為」は単独で親権を行使することが出来るとされています。
したがって、離婚後、共同親権となっても、何でも話し合って合意して決める必要はなく、監護親は、居所の指定、日常生活に関する事柄、習い事、通塾、医療行為の決定、緊急手術などは単独で決めることが出来るものと解されます。
共同親権開始の報道を受け、これまで非監護親となることが多かった父親も子どもと一緒に暮らせるようになるのではないか、子どもと日常的に関わることが出来るようになるのではないかという期待や不安が生じている方も多いかもしれませんが、結局、子どもを混乱に巻き込んではいけませんし、共同親権と親子交流をどのように行うかも別個の問題と解されることが予定されています。
例えば、平日は母親、土日は父親と暮らすとか、3か月ごとに父親と母親の間を行ったり来たりする、といったことは想定されていません。
私見では、実際に非監護親が関わることが出来る範囲が劇的に変わるものではないように思われます。
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