相続放棄の基礎知識を総ざらいしましょう。
これを全て読めば、相続放棄のすべてが理解できるののではないかと思います。
人(被相続人)が死亡すると、相続が開始し、原則として被相続人の権利義務の一切が相続されます(民法896条)。
プラスの財産はもちろん、マイナスの財産、すなわち借金や連帯保証債務も当然に相続されます。
しかし、被相続人が多額の借金を抱えたまま死亡し、相続人がこれを全て負担しなければならないとすると、相続人に酷となります。
そこで、民法は「相続放棄」という制度を用意しました。
相続放棄をすると、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされ(民法939条)、借金や連帯保証債務を相続しなくてすみます。
但し、プラスの財産も相続できなくなりますので、よく考えて行うことが重要です。
相続放棄は、相続開始を知ったとき(通常は被相続人の死亡を知ったとき)から3か月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に手続をしなければなりません。
相続放棄の必要書類は、概要、以下のとおりです。
具体的なケース別の必要書類はこちらをご覧ください。
3か月の期間は、相続放棄をするか否かを検討する時間(熟慮期間)です。
期間内に判断が出来ない場合には、裁判所に申し立てて期間を延長してもらうこともできます(伸長の申立て 民法915条1項)。
また、被相続人が亡くなってから3か月を経過した後も事情によっては相続放棄が認められる場合があります。あきらめないで、一度は弁護士に相談してみることをおすすめします。
書類を提出すると、そのまま受理通知が送られてくることもありますが、家庭裁判所は本人を呼び出して事情を聴いたり、内容に関する照会書を申述人宛に郵送することもあります。
質問事項が書かれた照会書が裁判所から郵送されてきた場合、回答書を提出しなければなりません。
相続人となったことをいつ知ったのか、債務の内容をいつ知ったのか、本当に放棄の意思があるかどうか等の簡単な質問であることが多いようです。
裁判所は回答書を確認し、問題なければ受理します。
書類を提出してから1か月程度で受理通知書が届くのが一般的です。
相続放棄が出来る期間は、民法で「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」と定められています(民法915条1項本文)。
この3ヶ月の期間のことを熟慮期間(じゅくりょきかん)といいます。
相続人が複数いる場合、熟慮期間は、それぞれの相続人ごとに進行します(最判昭和51.7.1)。
このため、熟慮期間が始まる「自己のために相続の開始があったことを知った時」がいつなのかが重要となります。
相続人が配偶者又は子の場合、通常は、「被相続人が死亡したことを知った時」となるでしょう。
しかし、実の親子であっても、疎遠であったり音信不通等で、どこで何をしていたかも分からない場合、死亡の事実を知る由もありませんので、どれだけ時間が経過しても熟慮期間は始まりません。
例えば、債権者や自治体から督促状などが送られてくることによって被相続人の死亡事実や負債を初めて知った場合、その時点から熟慮期間が開始することになります。
客観的には被相続人の死亡から3か月以上経過していますので、相続放棄をするにあたっては、裁判所に対し、自己のために相続の開始があったことを知ったのがいつであるかについて事情説明書・上申書等でしっかりと説明する必要があります。通常は受け取った督促状などを添付します。
督促状などは捨てずに大切に保管しておきましょう。
相続人が直系尊属又は兄弟姉妹の場合、相続順位は子に次いで後の順位となりますので、被相続人が死亡した事実を知ったからといって、直ちに自分が法律上の相続人となったと認識するとは限りません。
被相続人に先順位相続人がいないことを知っていた場合、被相続人の死亡と同時に自分が相続人となることを知っていたことになりますので、被相続人の死亡の事実を知ったときから熟慮期間が開始します。
一方、被相続人に子など先順位の相続人がいる場合には、先順位の相続人が相続放棄をするまでは相続人ではありませんので、先順位の相続人が相続放棄をしたことを知ったときから熟慮期間が開始することになります。
なお、先順位相続人が相続放棄をした場合に、後順位相続人に通知がなされることはありません。
先順位相続人が相続放棄をした後、3か月以内に相続放棄をする場合には問題はありませんが、3か月経過後に相続放棄を行う場合には、裁判所に対し、事情説明書・上申書等でしっかりと説明する必要があります。
【相続財産が全く存在しないと信じたなど、特別な事情がある場合がある場合はどう考えるのでしょうか】
『相続人において相続開始の原因となる事実およびこれにより自己が法律上相続人となった事実を知った時から3ヶ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、相続の熟慮期間は、相続人が相続財産の全部もしくは一部の存在を認識した時、または通常これを認識できるであろう時から起算するのが相当である(最高裁昭和59年4月27日判決)。』
最高裁判決は、「全く存在しないと信じた」とありますが、一部を認識していたが後になって予想外の負債が存在していたことが判明した場合など、様々なケースも考えられます。
このような特別な事情を説明しなければならない方については、弁護士に依頼し、しっかりとした内容の事情説明書・上申書を提出する必要があります。
相続人は、原則として3か月の熟慮期間内に、相続の承認または放棄の判断をしなければなりません。
しかし、相続財産の内容が複雑、相続財産が外国等の遠隔地にある、被相続人との関係が疎遠、相続人が外国居住といった場合、3か月の熟慮期間内に相続放棄をするかどうか判断することが難しい場合があります。
このため、熟慮期間の伸長の制度が認められています。
熟慮期間の伸長は、被相続人が亡くなった土地を管轄する家庭裁判所に申立てを行い、家庭裁判所が審判を行います。
伸長の申立ては、熟慮期間内にしなければなりません。
期間伸長を認めるかどうかは、家庭裁判所が事案ごと、相続人ごとに、一切の事情を勘案して判断します。必ず伸長が認められるとは限りません。
申立てが認められる場合、実務では、3か月程度の伸長が認められることが多いと言われています。
また、再度の伸長が認められる場合もあります。
【以前相続放棄の手続きを取ったのですが、高額の定期預金が見つかりました。相続放棄を取り消すことはできますか?取り消せない場合、預金を使っても大丈夫でしょうか。】
相続放棄が受理された後は、原則として放棄の取消、撤回はできません。
取消、撤回を認めると、他の相続人や債権者の地位が不安定になるからです。
詐欺や強迫により放棄した場合など、特別な事情がある場合には、取消しが認められる場合があります。取消は、放棄の申述をした家庭裁判所に対して、取消の申述を行うことになります(民法919条)。
預金を使ってしまうと、単純承認となり、相続放棄の効果は覆ってしまいます。
くれぐれも使ってしまわないようにご注意ください。見つかった預金は次順位の相続人や相続財産管理人に引き継ぎましょう。
【夫が亡くなり、妻である私と子が相続放棄をしたいのですが、子は未成年です。相続放棄はどのようにすればよいですか?なお、夫の両親は既に死亡しており、兄弟もいません。】
相続人に未成年者がいる場合、親権者が未成年者の法定代理人として放棄の手続きを取ります。
しかし、ご質問のように、夫Aが死亡し、妻Bと子Cが相続するような場合、特別代理人を選任しなければならない場合があります。
この場合、妻Bが子Cの法定代理人として子Cの相続放棄の申述を行うと、放棄によって子Cは初めから相続人でなかったことになりますから、妻Bの相続分が増加します(上記の例で言うと、子Cの法定相続分2分の1も妻Bが相続する=妻Bが全部を相続することになります)。
このような関係を利益相反関係にあると言います。
利益相反の関係になる場合、建前上、子Cの権利が害される可能性がありますので、子Cについて特別代理人を選任しなければなりません。
もっとも、
①妻Bがまず自ら相続放棄をしたのちに、子Cを代理して放棄をするとき、
②妻Bの相続放棄と子Cを代理してする相続放棄を同時にするときには利益相反行為にはならないとされており、子CについてB妻が法定代理人として放棄することもできるとされています(最高裁昭和53年2月24日判決)。
親権者が未成年者の相続放棄をする場合、3か月の熟慮期間の起算点は、親権者が未成年者のために相続の開始があったことを知ったときです。
【民法917条】
相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、民法915条第1項の期間(相続の承認または放棄をすべき期間)は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
親権者だけが相続放棄をし、未成年者の相続放棄を忘れていると、未成年者が被相続人の借金を相続してしまいますので、注意が必要です。
相続財産の全部又は一部を「処分」した場合には、相続を単純承認したものとみなされ、相続放棄や限定承認ができなくなります(民法921条1号)。
上述の「処分」は、相続人が自己のために相続が開始した事実を知り、又は確実に予想しながら、相続財産を処分した場合でなければ本号に当たらない(最判昭和42年4月27日)とされています。
相続開始の事実(被相続人の死亡)を全く知らずに処分した場合は、この1号に当たらないことになります。
また、被相続人の預金から、社会的にみて相当な範囲内での葬儀費用・お葬式代の支出をした場合などは、一般に「処分」にあたらないと解されています。
被相続人の財産を一部でも何らかの処理をしようとしている場合には、専門家のアドバイスを受けてから行うようにすることをお勧めします。
被相続人が負っていた債務(相続債務)を相続人が弁済することは、民法921条1号の「処分」=法定単純承認に当たるのかという問題があります。
これについては、相続人が、自分の固有の(相続人の)財産で債務の弁済をする限り、それは保存行為であって、「処分」には当たらないと解されています。
福岡高裁は、『期限の到来した被相続人の債務につき,相続人が自己資金で弁済する行為は,民法921条1号の「相続財産の処分行為」には該当しない』と判示しました(福岡高決宮崎支部平成10・12・22)
しかし、被相続人の債務や滞納していた税金を、被相続人の財産(相続財産)から支払った場合には、それ自体が「相続財産の処分」=法定単純承認にあたってしまう可能性があります。
したがって、万全のリスク回避をしたいなら、支払う際に、被相続人の財産からではなく、ご自身の財産から支払い、そのことが確認できる資料(自分の預金口座からの振り込みなど)を残しておくとよいでしょう。
既に債務や税金について、被相続人の財産から支払ってしまった場合でも、その債務の性質や金額等によっては保存行為と解釈され、相続放棄が受理される余地はあります。
具体的な事情により判断されますので、支払ってしまった場合でも、あきらめずに一度弁護士に相談されると良いでしょう。
被相続人が病院で死亡したケースでは、死亡後に相続人宛に請求書が届くことが多いでしょう。
相続放棄を検討している間に、請求書が届いた場合、支払ってしまっても大丈夫かという問題があります。
これについては、「よくあるご相談(故人の入院費を支払っても相続放棄は可能?」にまとめましたのでご確認ください。
被相続人の相続財産について、相続放棄をした者は、その放棄によって相続人になった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければならないとされています(民法940条1項)。
したがって、相続放棄が受理されたからといって、「一切私は関係ない」とはなりませんので、注意が必要です。
注意義務に反する管理行為によって、相続財産に損害を生じさせた場合には、その賠償責任を負う場合があります。
また、相続放棄が受理されたとしても、その後、相続財産の全部又は一部を隠匿したり、消費をしたり、又は悪意で財産目録に載せなかったりしますと、単純承認したものとみなされてしまいますので(民法921条3号)、注意しましょう。
上のとおり、相続放棄をした場合でも、その放棄によって相続人になった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません。
では相続人全員が相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか。
全員が相続放棄すると、誰も財産を引き継ぐものがいなくなります。
この場合は「相続人のあることが明らかでないとき」(民法951条)に該当し、相続財産管理人を選任することが可能になります。
上記財産管理人に引き継ぐまでは管理を継続しなければなりません。管理を免れたい場合、自分で相続財産管理人の選任申立を家庭裁判所に行う必要があります。
もっとも、上記選任申立に必要な予納金が100万円近く必要となることが多いため、実務的にはなかなか選任には至れず、事実上相続財産の管理を継続しているケースが大半だと思われます。
管理が負担だからといって、相続財産の処分を行ってしまうと、単純承認したものとみなされてしまいますので、くれぐれも注意が必要です。
相続放棄をするには、「自己のために相続が開始したことを知ったとき」、すなわち被相続人が死亡して相続が開始したこと、自分が相続人になったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。
では、被相続人には目ぼしい財産も無ければ借金も無いと思って相続放棄の手続をしないでいたところ、被相続人が死亡してから長期間経過した後に、突然金融機関や役所から請求書やお知らせが送付されてきて、被相続人が多額の負債や滞納税金を抱えていたことを知った場合、手遅れなのでしょうか。
この点、最高裁は、相続人が被相続人に財産や債務が全く無いと信じ、被相続人との関係などからそう信じてもやむを得ないと思われる場合には、例外的に、3か月の期間を、相続人が相続財産や債務の存在を知ったとき、又は知りうべき時から起算すべきと判示しました。
つまり、相続人が死亡してから3か月が経過した後でも、一定の場合には相続放棄が可能ということです。
しかし、形式的には被相続人の死亡後3か月を経過していますので、相続放棄が受理されるには、熟慮期間の起算点、すなわち「自己のために相続が開始したことを知ったとき」がいつであるかをどのように説明するのかが重要となります。
この点は、依頼する専門家の知識・経験・力量によって大きく異なります。
したがって、3か月経過後の相続放棄については、経験豊富な専門家に相談することが重要です。
なお、一度却下された場合、書類の出し直しは出来ません。一度自分でやってみて、受理されなかった場合に専門家に依頼する、という訳にはいかないことに注意する必要があります。
相続放棄が受理されることと、相続放棄の有効無効は区別されています。
相続放棄が受理されても、後に、債権者から貸金返還請求訴訟等の中で相続放棄の無効が主張される場合があります。
従って、相続放棄が受理されたからといって、確定的に相続放棄が有効であり、債権者から請求を受ける可能性が無くなる、という訳ではないことに留意する必要があります。
債権者が上記のような対応を取ることは多くはありませんが、単純承認をした事実が債権者に知られていたり、3か月経過後の相続放棄で、放棄をした者が負債の存在を知っていたことが明らかな場合には、債権者は上記のような対応を取る可能性があります。
相続放棄をする場合の生命保険の受け取りの可否については、保険契約又は約款により、保険金の受取人がどのように定められていたかによって異なります。
1 保険契約で特定の相続人(例えば、子)が指定されていた場合
当該指定された受取人固有の請求権(相続により取得した権利ではなく、もともと自分の権利)となりますので、相続放棄とは関係がなく保険金を受け取ることが出来ます。
2 保険契約又は約款で、保険金の受取人が「相続人」とされていた場合
1.と同様に、相続人固有の権利として、相続放棄とは関係がなく保険金を受け取ることが出来ます。
3 保険契約又は約款で受取人が「被相続人」とされていた場合
この場合は、被相続人の保険金請求権を相続することになりますので、相続放棄をすると、保険金を受領することは出来ません。
全員が相続放棄をすると、自宅を相続する者がいなくなります。
この場合、住宅ローンが残っていれば、債権者は自宅を競売にかけるため、家庭裁判所に相続財産管理人を選任手続を取ることが通常です。
競売手続をするためには、裁判所から書類を受け取る者が必要ですが、相続放棄をした相続人は、債務を相続おらず、書類を受け取るべき者に当らないからです。
家庭裁判所から選任された相続財産管理人により、競売・任意売却の手続きを経て、自宅の所有権は第三者にわたることになります。
住宅ローンが残っていない自宅の場合、相続人は相続放棄をしても一定の管理責任を負い続けます。
管理責任を免れたい場合、自身で家庭裁判所に相続財産管理人選任申立てを行い、自宅を管理人に引き継がなければなりません。
住宅ローンについて、団体信用生命保険(団信)に加入していれば、住宅ローン支払中に債務者が死亡した場合、手続きを行えば保険金で住宅ローンが完済されます。
そのため、住宅ローンについては相続債務として考慮する必要はなくなります。
他の債務が無い場合には、相続放棄をしなくてよいかもしれません。
団体信用生命保険では、通常、住宅ローンの金融機関が保険契約者兼保険金受取人で、被保険者は住宅ローン債務者となっています。
そのため、相続人から金融機関に対して住宅ローン債務者の死亡の事実を伝え、必要書類を提出すると、金融機関に対して保険金が直接支払われます。
団信の手続きを取ることは、相続放棄に影響を与えることはありません。
但し、相続放棄をしますと、団信の保険金によりローンが完済された自宅を相続することは出来なくなります。
この点は注意してください。
住宅ローン以外の債務があり、相続放棄を検討する場合には、団信によりローンが完済された住宅を相続し、同住宅を売却して、売却代金で住宅ローン以外の債務を返済するという選択肢もあります。
どの方針がもっとも適切かは、専門家に相談してから判断することをお勧めします。
相続人の中に、被相続人から生前贈与を受けていた方がおり、その贈与の額が法定相続分を超えるような場合、「相続分の無いことの証明書」を作成して相続手続がおこなわれることがあります。
たとえば、相続人が2名で、うち1人が「相続分の無いことの証明書」(実印・印鑑証明書を添付)を提出することで、もう一方の相続人が単独で相続登記をすることが可能になります。
相続分の無いことの証明書の交付を求められた相続人の中には、「相続分の無いことの証明書」を作ったことで自分は「相続放棄をした」と勘違いされている方が時々いらっしゃいますが、相続放棄とは全く異なりますので注意しましょう。
「相続分の無いことの証明書」は登記のための書類にすぎません。負債の支払義務を免れるためには、家庭裁判所で相続放棄の手続をする必要がありますので注意しましょう。
他の相続人が相続放棄をしているかどうかが分からない場合、家庭裁判所にその有無を照会することができます。
照会を行えば、申述があれば事件番号、受理年月日等が回答され、申述が無い場合には「見当たらない」と回答されます。
照会の申請が出来るのは、以下の方に限られます。
相続放棄をしたかどうか確かめたい場合の典型例は、兄弟姉妹などの後順位相続人が、先順位相続人である被相続人の子や孫が相続放棄したかどうかを知りたい場合です。
照会先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
照会手数料は無料です。
照会に必要な書類は以下のとおりです。
裁判所によって多少異なる場合がありますので、事前に問い合わせておきましょう。
相続放棄をしても、法律上の受給権者に該当すれば、未支給年金(死亡した年金受給者に支給すべきなのに、まだ支給されていなかった年金)を受け取ることは可能です。
未支給年金は、死亡した年金受給者の「配偶者、子、父母、孫、祖父母、または兄弟姉妹」であって、「死亡の当時に生計が同一だった方」が受給することができるとされています(国民年金法19条1項、厚生年金保険法37条1項等)。
上記規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたもので、相続の対象となるものではないされているからです。
『国民年金法19条1項は「年金給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき年金給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。」と定め、同条5項は「未支給の年金を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による。」と定めている。右の規定は、相続とは別の立場から一定の遺族に対して未支給の年金給付の支給を認めたものであり、死亡した受給権者が有していた右年金給付に係る請求権が同条の規定を離れて別途相続の対象となるものでないことは明らかである』(最高裁判所平成7年11月7日判決)。
相続開始前(被相続人の生前)に相続放棄をすることは出来ません。
相続開始後にのみ可能です。
たとえ、被相続人が多額の債務を抱えていて、死亡した場合には相続放棄をすることが確実であっても、家庭裁判所に相続放棄の手続をすることが出来るのは、相続開始後となります。
似た制度に「遺留分の放棄」があります。
「遺留分の放棄」は、相続開始前に行うことが出来(家庭裁判所での手続きが必要という意味では同じ)、よく混同されがちですが、これとは区別することが大事です。
遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を得て、被相続人の生前に行うことが可能です。
被相続人が遺言により長男に事業承継を行うような場合に、長男以外の相続人に生前贈与を行いつつ、当該相続人に遺留分放棄の手続きを取らせておき、相続開始後の紛争を予防するといった場合に利用される制度です。
被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合、相続放棄をすれば、連帯保証債務も相続することはありません。
しかし、被相続人が誰かの保証人になっていても、それを家族に知らせていないこともあり、相続開始後、長期間が経過したのち、突如債権者から督促が来たことで保証債務の存在が発覚することがあります。
このような場合には、保証債務の存在を知った時(督促状を受け取った時)から3か月以内であれば、相続放棄の申述が受理される可能性があります。
裁判所の審理も慎重になりますので、このような場合には、弁護士にご相談・ご依頼なさることをお勧めします。
一方、相続人自身が、被相続人の借金の連帯保証人になっていた場合には、相続放棄をしても、自身の連帯保証債務は残ります。
これから相続放棄を行おうとしている場合、わざわざ事前に債権者に連絡する必要はありません。
もっとも、家庭裁判所に相続放棄の申述を行って受理されても、家庭裁判所が債権者に通知をしてくれたり、公告してくれる訳ではありません。
債権者は、相続人が相続放棄をしたかどうかを通常は知りませんので、被相続人宛又は相続人宛に請求書が送付されてきます。
家庭裁判所から相続放棄の「受理通知書」が送付されてきたら、そのコピーを債権者に郵送して下さい。
債権者によっては、「受理証明書」のコピーを求めてきます。
その場合は、裁判所に申請して「受理証明書」の発行を受け、同証明書のコピーを郵送して下さい。
以上の対応をして相続人が相続放棄をしたことを知ったら、債権者はそれ以降請求してくることは通常ありません。
また、相続放棄の準備中に債権者から連絡があった場合も、「相続放棄の手続きをする予定(又は検討中)で、現在その準備中(又は審理中)」である旨を伝えれば、債権者の担当者からは「受理されたら受理証明書のコピーを送って下さい」と言われるのが通常です。
なお、相続放棄をするかどうかは相続人の意思に任されていますので、債権者が相続人に対し、相続放棄をしないことを強制することはできません。
債権者の中には、相続人が相続放棄をする前に、相続財産から支払いを受けようとする者がごく稀にいます。しかし、これを行ってしまいますと、単純承認として相続放棄が出来なくなる恐れがあります。
債権者からの連絡等に疑問がある場合には、弁護士に相談することをお勧めします。
被相続人がマンションの一室を所有し、管理費を支払っていた場合、相続人全員が相続放棄をすると管理費の支払義務はどうなりますか。
相続人全員が相続放棄をした場合でも、一定の管理責任は残ります。
→13 相続放棄をした後の管理義務
すなわち、相続放棄をしても、その放棄によって相続人になった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産の管理を継続しなければなりません。
相続人全員が相続放棄をした場合、相続人は結局当該マンションの管理を継続しなければならず、管理組合から管理費の請求をされた場合、支払義務を免れないのではないかと考えられます。
管理責任から解放され、支払いを免れるためには家庭裁判所に相続財産管理人の選任申立てを行い、管理を引き継ぐことが必要と考えられます。
選任された相続財産管理人(通常は弁護士が選任されます)は、被相続人の預貯金等から滞納管理費を支払ったり、当該マンションを売却して対応することになります。
お墓・仏壇・仏具・位牌などは祭祀財産といいます。
祭祀財産は、相続財産には含まれません。
したがって、相続放棄をしても、これらを引き継ぐことは可能です。
引き継いでも単純承認とみなされることはありません。
【民法第896条】
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。
【民法第897条】
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
2 前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
相続放棄をすると、被相続人の未払い税金等の支払義務も免れます。
自己破産の場合は、原則として税金などの公租公課は免除されませんが、相続放棄の場合には、税金等の公租公課も支払いが免除されます。
4か月以内の準確定申告も必要が無くなります。
もっとも、固定資産税については、地方税法で、毎年1月1日現在の固定資産税課税台帳に登録されている者(所有者)に課税するという「台帳課税主義」が取られています。
この「所有者」として登記されている者が賦課期日前に死亡しているときは、同日において当該不動産を現に所有している者をいうとされています。
つまり、課税台帳に登録された「所有者」が1月1日に死亡していた場合、「所有者」は「相続人」と読み替えられて取り扱いがなされることになります。
前年の12月末までに相続放棄が受理されていた場合、「初めから相続人ではなかった」ことになりますから、役所に対し、相続放棄済みであることを主張することが可能です。
前年までに相続放棄が受理されておらず、納付書が届いた場合には支払いをしなければならない場合があります。
被相続人の死亡後、相続放棄受理までの間に年をまたぎそうな場合には注意が必要です。このような場合には弁護士に依頼するなどして出来るだけ早く相続放棄の申請を行い、裁判所に審理を急いでもらうように事情を説明した上申書等を提出しておくことが重要です。
相続放棄をすると、初めから相続人とならなかったものとみなされますので、準確定申告をする必要はありません。
準確定申告は相続人の立場で行うことになりますので、準確定申告をしてしまうと、(例えば還付金を受け取ったような場合)単純承認とみなされてしまう場合もありますので注意しましょう。
相続人全員が相続放棄をし、包括受遺者もいない場合は、相続財産管理人を選任し、相続財産法人が準確定申告を行います。
国税庁HP「民法上の相続人が不存在の場合の準確定申告の手続」
遺品の中に、契約書、請求書、督促状、クレジットカード、消費者金融会社のカード、支払いメモなどが無いかを確認します。
預金通帳からの引き落としの確認は必須です。
被相続人が、自分で振込支払いをしていた場合、死亡により延滞となりますので、請求書・督促状が届きます。郵便物はこまめにチェックすることが重要です。
預金の残高不足となることで、督促状が届く場合もあります。
被相続人の死亡後も、被相続人の口座から振り替えが行われていたことは、単純承認にはあたりませんが、振替えが行われていることを知った後も、漫然と振替えを継続すると、単純承認と評価されてしまう場合もありますので、ご注意ください。
銀行、クレジット会社、消費者金融などからの借入の有無については、信用情報機関から情報開示を受けることによっても調査が可能です。
所定の書類を提出すると、回答が得られます。
相続人がご自身で信用情報開示の手続きをするのが難しい場合、弁護士が代理人となって手続きをすることも可能です。当事務所でも承っていますので、お気軽にご相談ください。
限定承認とは、相続財産中、プラスの財産の範囲でマイナスの財産を引き継ぐという条件で相続を受けることができるという方法です。
遺産を清算した結果、借金の方が多かったような場合には、不足分を支払う必要はなく、逆に借金の方が少なければ余った財産を受け継ぐことができます。
遺産がプラスになるかマイナスになるか分からないようなときに有効といえるでしょう。
但し、限定承認は、相続放棄者を除く他の相続人全員がそろって行わなければならず、もし相続人の中で一人でも単純承認をした人がいる場合は、限定承認を選択することはできません。
限定承認の手続は、相続開始を知った時より3ヶ月以内に家庭裁判所に限定承認申述書を提出して行います。
限定承認手続では、相続財産管理人の選任や財産目録の作成、官報公告手続や債権者への返済など複雑な手続を行わなければならず、面倒だということもあり、制度としては存在しているものの、実務的にはほとんど利用されていません。
当事務所でも原則として限定承認のご依頼は受けておりません。
相続放棄の手続きを弁護士代理人として代行します。
すべてをお任せ頂けます。
内容 | 説明 |
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法律相談料 | 無料 |
手数料 | 55,000円(税込) |
2人目以降 | 1名追加ごとに +22,000円(税込) 例:被相続人の配偶者及び子2名の相続放棄をご依頼の場合、55,000円+22,000円×2=99,000円(税込) (下の早見表をご確認ください) |
被相続人死亡から3か月経過後の場合の加算 | 被相続人の死亡(相続開始)から3か月経過した後のご依頼の場合、ご依頼1名ごとに +33,000円(税込) |
熟慮期間伸長の申立 | 1名ごとに、+22,000円(税込) |
相続放棄申述の有無についての照会 | 22,000円(税込) |
信用情報の開示請求 | 22,000円(税込) |
全国どの裁判所への相続放棄にも同一料金で対応します。
・上記手数料には、相続放棄申述書の作成のほか、以下のサービスが含まれます。
・書類取寄せ及び相続放棄申述に伴う印紙代等の実費はご負担頂きます(ご依頼時にお1人につき1万円をお預かりし、最後に精算させて頂きます。使用する実費は戸籍や住民票の取り寄せ通数によって変わってきますが、通常は5000円前後使用します)。
・相続放棄は、先順位の方が相続放棄をすると、多くの方が相続放棄をしなければならない場合もあります。このため2人目以降の費用を低額に抑えています。
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