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離婚時の配偶者への慰謝料請求

離婚時に慰謝料は請求できる?|実務の扱い

 離婚の話し合いで必ず出てくるのが「お金」の問題です。
 しかし実務上、「慰謝料」と「財産分与」が混同されたまま進んでしまうケースは少なくありません。

 まず大前提として押さえておきたいのは、「離婚すれば、必ず慰謝料がもらえるわけではない」という点です。

慰謝料と財産分与は、性質が違う

 離婚時に話し合われる代表的な金銭に、主に慰謝料と財産分与の2つがあります。

 この2つは、目的も考え方もまったく異なります。

 財産分与は、婚姻期間中に夫婦が協力して形成した財産を清算する制度です。

ポイントは、

  • どちらが悪いかは原則として関係ない
  • 名義がどちらかも基本的には関係ない
  • 婚姻中に形成された財産であれば対象になる

という点です。極端に言えば、「不貞行為による離婚」であっても、財産分与は原則として行われます。

 一方、慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償です。

 離婚慰謝料が認められるためには、

  • 相手に「不法行為(有責行為)」があること
  • その行為によって婚姻関係が破綻し、精神的苦痛を受けたこと
  • その因果関係を主張・立証できること

が必要になります。つまり、慰謝料は「請求できるケース」と「できないケース」がはっきり分かれるという点が最大の特徴です。

実務でよく用いられる解決方法(解決金という処理)

 前述のとおり、財産分与慰謝料は、法的には性質の異なるものです。
 しかし、実際の離婚協議・調停・訴訟の和解の場面では、これらを厳密に切り分けず、
「解決金として一括でいくら支払う」という形で整理されることが非常に多くあります。


 実務で「解決金」という表現が用いられる最大の理由は、紛争を早期かつ現実的に終結させるためです。
 財産分与の金額、慰謝料の有無や金額について細かく詰めていくと、

  • 慰謝料の「原因」や「責任」をめぐって感情的対立が激化する

  • 主張と反論が繰り返され、調停や交渉が長期化する

  • 結果として、時間的・経済的・精神的負担が大きくなる

といった問題が生じがちです。

 そこで、財産分与の大枠が見えてきた段階で

  • 財産分与としての清算
  • 慰謝料としての意味合い

を含めた総額を「解決金」として提示し、その金額で最終解決とする方法が選択されることが多いのです。

 離婚協議書、調停調書、和解調書において「解決金」という形で合意した場合には、通常、

  • 財産分与としての別途支払い
  • 慰謝料としての別途支払い

は行わない扱いになります。

 つまり、解決金=財産分与・慰謝料を含めた最終的な清算金という位置づけになります。

 この点を理解せずに合意してしまうと、「後から慰謝料だけは別に請求できると思っていた」という誤解が生じることがありますので注意が必要です。

 解決金による整理は、単なる妥協ではなく、現実的な戦略的解決です。

  • これ以上の紛争拡大を避けたい
  • 早期に生活を立て直したい
  • 感情的な争いから距離を置きたい

と考える方にとって、合理的な選択となる場合も少なくありません。

 

慰謝料が問題になりやすい代表的なケース

 離婚時に慰謝料が問題となるのは、主に次のような場合です。

  • 配偶者に 不貞行為(不倫) があった
  • 配偶者から DV・暴力 を受けていた
  • 強度の モラハラ・精神的虐待 があった

 これらは「有責行為」と評価されやすく、慰謝料請求が認められる可能性が出てきます。
 一方で、

  • 性格の不一致
  • 価値観の違い

といった理由だけでは、原則として慰謝料は認められません。

有責行為と因果関係

 モラルハラスメント、精神的虐待は、調停や訴訟でしばしば主張されますが、暴力に準ずるような悪質な態様であったことの立証が必要です。

 上述のとおり、慰謝料が認められるためには、有責行為と婚姻破綻の因果関係が認められることが必要ですので、遠い昔の事実を主張しても、因果関係は認められにくいと考えられます。
 したがって、婚姻破綻に近接した時期の有責行為を主張立証していくことが重要となります。

離婚時の慰謝料額と判断基準

 離婚の際に問題となる慰謝料の金額は、明確な計算式で機械的に決まるものではありません。
 実務では、主に次の3つの要素を軸に総合的に判断されるとされています。

  • 有責性の程度(不貞・DV・モラハラ等の内容・悪質性)
  • 婚姻期間の長さ
  • 相手方(有責配偶者)の資力・収入状況

 もっとも、夫婦の事情は一つとして同じものはなく、「この事情なら必ず〇〇万円」というように一律に決まるものではありません。

協議・調停で慰謝料額はどう決まるか

 協議離婚の場合、慰謝料を支払うかどうか、また金額をいくらにするかは、当事者同士の話し合いで決まります。

 話し合いがまとまらない場合には、

  • 慰謝料の問題はいったん切り離し、離婚を先行させる
  • 家庭裁判所に離婚調停を申し立て、調停の中で慰謝料も含めて協議する

といった対応が検討されます。

 実務では、慰謝料単体で厳密に金額を詰めるよりも、財産分与との関係を踏まえながら、全体として妥当な解決を図ることが多いのが実情です。

慰謝料額に影響する主な判断要素(実務傾向)

 個別事情による差はありますが、一般的には次のような傾向が見られます。

  • 有責性が高いほど、慰謝料は高額になりやすい
  • 精神的・肉体的苦痛が大きいほど、高くなる傾向
  • 婚姻期間が長いほど、高額になりやすい
  • 有責配偶者に十分な資力があるほど、増額されやすい
  • 無責配偶者の生活状況が厳しい場合、考慮されることがある
  • 財産分与額が少ない場合、慰謝料で調整されることがある
  • 未成年の子がいる場合、いない場合より高くなる傾向がある
交渉で注意すべきポイント

 高額請求をしても、相手に支払能力がなければ現実的な回収は困難です。

 慰謝料請求では、

  • 相手の資力・支払可能性を踏まえること
  • 分割払いより、できる限り一括回収を目指すこと
  • 将来の紛争を残さない形で合意書にまとめること

が重要になります。

 金額だけに固執するのではなく、「実際に回収でき紛争を終わらせられる解決」を目指すことが重要です。

離婚慰謝料の相場

 離婚慰謝料の金額は、協議や調停で決める場合には、当事者間の合意によって決まるため、事案ごとに幅があります。
 そのため、協議段階では数十万円から数百万円まで、結果に大きな差が生じることも珍しくありません。

 一方、話し合いがまとまらず訴訟となり、裁判所が慰謝料額を判断する場合には、当事者が想定しているほど高額な慰謝料が認定されることは多くないのが実情です。

 実務の傾向を踏まえると、不貞行為やDV等が問題となる事案では、100万円~200万円前後が一つの目安となるケースが多いといえます(もっとも、これはあくまで「裁判で認定される場合の相場感」にすぎません)。

 実務上は、裁判にこだわって相場どおりの金額を得ることよりも、協議や調停の段階で、現実的に回収できる金額で早期解決を図る方が、精神的・時間的な負担が小さく済むケースも少なくありません。

協議・調停と裁判で慰謝料額はどう変わるのか

 離婚慰謝料は、「協議・調停(話し合い)」で解決するか、「裁判」で決着するかによって、金額の考え方も、結果も大きく異なります。

示談で解決する場合の特徴

 示談では、当事者双方が合意すれば、どの金額で解決しても構いません。
 そのため、相場を上回る金額で解決することも、実務上は珍しくありません。

 示談で比較的高額になりやすいのは、次のような事情があるケースです。

  • 相手が早期解決を強く望んでいる
  • 不貞やDVの事実を第三者(職場・家族等)に知られたくない
  • 裁判になること自体を避けたい
  • 弁護士費用や長期化による負担を嫌っている

 このような場合、「裁判になった場合の相場」+αの金額であっても、示談という形で応じる合理性が相手にあります。
 
また、示談では金銭だけでなく、

  • 違約金条項
  • 秘密保持条項
  • 謝罪文の提出

など、裁判では得られない内容を取り決められる点も大きな特徴です。

裁判で判断される場合の特徴

 一方、裁判では、裁判官が証拠に基づいて慰謝料額を判断します。

 その結果、

  • 裁判で認められる金額は比較的抑えられる傾向がある
  • 一般的な事案では100万円~200万円程度に落ち着くことが多い
  • 証拠が弱い場合は、慰謝料自体が否定される可能性もある

という現実があります。
 また、裁判には、時間(1年近くかかることもある)、精神的負担、弁護士費用といったコストも伴います。

実務ではどう判断されているか

 実務では、「必ず裁判で白黒つける」ことが最善とは限りません

  • 示談で早期に納得できる金額を確保できるなら協議・調停で合意
  • 相手が一切譲歩せず、責任を否認してくるなら裁判

というように、相手の態度・証拠状況・回収可能性を踏まえて選択することが重要です。

 弁護士が関与するケースでは、まずは協議・調停の中で慰謝料を請求し、相手の反応次第で訴訟に移行するかどうかを検討する、という進め方が多く採られています。

離婚慰謝料を請求するために集めておくべき証拠

 離婚に伴う慰謝料は、「言い分」だけでは認められません。
 相手が事実を認めない場合、最終的には裁判で判断されることになり、慰謝料を請求する側が、その根拠を証拠によって立証する必要があります。

 そのため、将来的に慰謝料請求を検討しているのであれば、離婚や別居を切り出す前から、意識的に証拠を確保しておくことが重要です。
 実務上、慰謝料請求に役立つ主な証拠は次のとおりです。

① 不貞行為に関する証拠
  • 配偶者と相手とのメール・LINE・DMのやり取り
  • 手紙やメモ
  • 写真・動画
  • ホテルや旅行の領収書、クレジットカードの利用明細
  • ​探偵・調査会社による調査報告書

 これらは、不貞の事実や関係の継続性を裏付ける重要な資料になります。

② DV・暴力に関する証拠
  • 受傷部位の写真
  • 医師の診断書
  • 警察への相談記録

 暴力の程度や継続性を示せる証拠があるかどうかで、慰謝料額や交渉の進め方は大きく変わります。

③ 精神的苦痛を裏付ける証拠
  • 日記やメモ(いつ・どのような出来事があったかを具体的に記録)
  • 友人や親族とのメール・手紙
  • 心療内科や精神科の受診記録

 精神的なダメージは目に見えにくいため、継続的な記録があるかどうかが重要です。

 これらの証拠がそろっていれば、

  • 示談交渉を有利に進めやすくなる
  • 相手が事実を否定しにくくなる
  • 裁判になった場合でも慰謝料が認められる可能性が高まる

といった大きな違いが生まれます。
 一方で、証拠が不十分なまま相手を問い詰めてしまうと、証拠を隠滅されたり、行動を慎重にされてしまうケースも少なくありません。

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弁護士:須山幸一郎

兵庫県弁護士会所属
弁護士登録番号:29617